魔王の嫁になりました。
「タツロー。私の伴侶になるのが嫌か?今まで通り、ご飯を作ってくれるだけでいいんだぞ」
「……本当か?」
ペットよりは伴侶のほうが扱いが良くなるし、響きがましだ。
ご飯を作るのはいつもやってることだから、いいかな。
「わかった。伴侶になる」
「そうか!嬉しいぞ」
ノルがものすごい喜んでくれて、びっくりした。
笑顔は小さい時と同じで、可愛い。
なんか、俺は抵抗したんだけど、結婚式が開かれた。
もちろん、ウエディングドレスなんてないぞ!
ただ魔物と魔族へのお披露目みたいな感じだ。
俺だけ人間なので、すっかり疲れてしまって、俺はベッドに飛び込んで寝てしまった。
するとさわさわと何か触れられる感触がしたので、目を覚ました。
「ノル!なに、触ってるんだよ!だいたい、なんで俺は服着てないんだ」
「今日は初夜だ」
「はあ?ご飯つくるだけっていっただろ?」
「私はしたい」
「何言ってるんだよ!ノル!俺は嫌だ。絶対に」
「触るだけでいい」
「だめに決まってるだろ!」
ベッドから降りて、服を着ると俺はソファに寝ころんだ。
絶対に嫌だ。
「タツロー。ごめん。一緒に寝て。何もしない」
こんなやり取りを俺はしたはずだった。
だけど、すっかり忘れていて、俺はノルの言葉を信じた。
「絶対何もするなよ!」
数分後……。
「だめだ。絶対、嫌だ。さ、触るな。大体なんで俺は女役なんだよ。男役ならしてやる!」
ノルが嬉しそうな顔をして触ってきた。しかもなんていうか、やばいところ。ちょっとなんていうか、俺は童貞だから全然経験がなくて、気持ちよくなってしまった。
だけど、なけなしの理性をもって断った。
つもりだった。
「本当に、男役ならいいのか?」
「いや、違う。それでもしない。絶対に。ノルは何か勘違いしている。親とそういうことはしないだろう?」
「親?何を言っているんだ。タツローは。親がこんなに若くて、小さいわけがない」
「は?いやいや、本当は俺の方が年上だろ?」
「今は私が年上だ。タツロー。男役ならいいんだな」
ノルは俺の扱いがうまい。
おっさんなのに、小さい時のノルを彷彿させる表情に俺は弱い。
男役だし、入れる方ならいたくないはずだ!
「わかった。やってやる」
俺は学習してなかった。
ノルは命の恩人だし、入れるだけなら大丈夫だと思っていた。
「タツロー。愛してるぞ」
本当、ノルはこういうことをよく言う。
そうして、俺はまんまとノルの口車に乗せられ、処女を失うことになった。
ええ、処女。
童貞ではない。
あいつは騙しやがった。
しかも、あいつはこの二十年、なんやかんや経験を積んでいて、いや……。これ以上言うのはやめよう。
そうして、俺はノルの嫁になってしまった。
ノルの重い愛は俺の帰りたい気持ちをどんどん浸食していった。ノルといるのが普通になり、彼が傍にいないと不安になる。
最悪だ。俺、乙女か。
魔族たちも俺とノルがそう言う関係になると、友好的になった。
なんていうか、ノル、逆らった奴には容赦しないんだよね。
魔王の嫁には危害を加えられないとか。
うーん。
微妙な気持ちだ。
とりあえず、ノルは人間には戻れないけど、魔族としてうまく生きているようだ。
「ノル。おやつはパンケーキがいいか?」
「うん」
嫁になったためか、俺の自由度は上がった。
まあ、日が出ているうちは外に出れないけど、街に買い物にいく回数が増えた。なんかいつも黒い服着ているので、ノルのために服を買ってあげたり。
手下がちょっと羨ましそうにしていたから、ノルとおそろいの服を買ってあげたら喜んでいた。
ノルはめちゃくちゃ不機嫌になったけど。
小麦粉も入手できて、発酵させてパンを作ったり。
ノルが喜んでくれるので、買い物にいくとお店の人にレシピを教えてもらったりした。
「……タツローは人間の世界で暮らしたいか?」
「は?」
「楽しそうだな。人間と話して」
「あ、ああ。だって、美味しそうなレシピ教えてくれるんだよ。ノルが喜ぶ顔みたいし」
「私のか?私のために」
「そうだけど?」
「嬉しいぞ!」
ノルを喜ばせてしまうと、俺は苦労する。
すぐに寝室に連れ込まれてしまう。
……もう俺はすっかり嫁になってしまい、なんていうか破廉恥すぎる。
魔族も友好関係を作れば、そんなに悪い存在でもない。
魔族の中でも料理を習いたいというものがいて、教えようとしたのが、ノルがめちゃくちゃ不機嫌になってしまい、辞めてしまった。
だからノルも一緒にやろうという話になり、魔族も含めて、みんなでお料理教室を開いてしまった。
魔族も、ノルがうまそうに食べているのが気になっていたらしい。
魔界では少しずつ料理が広がっていっている。
まあ、使う材料については聞きたくないのだけど。
俺は人間だけど、魔王の伴侶だ。
だから、特別扱いされている。
だけど、魔族にとってはやっぱり人間は敵だ。
それは人間側からも同じで、人間に殺される魔物や魔族もいる。
俺は小さな人間で、ノルに料理を作っているだけの嫁だ。だから、そういう人間と魔族の和平などに、手を出せるわけがない。
ノルはそういうのに興味ない。
だけど、人間側に攻め入ろうとはしていない。
街に降りると心痛い話を聞くけど、それは魔界にいても同じだ。
酷い奴はどちら側にもいる。




