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第2話 少し暗い

同日 AM 07:00(UTC 12:00)

テキサス州ヒューストン、ジョンソン宇宙センター第二管制室


管制室は騒然としていた。


世界トップレベルのエンジニア、航空学者、専門スタッフがひしめくこのフロアの誰も、今起こった現象を説明することができなかった。


CAPCOM(通信担当)のリサは、今先ほど見た記憶を反芻していた。彼女が30歳でこの職務に就いてから、このような体験は全く初めてだったが、思考を止めるより先にマニュアル従いログを確認することから始めていた。


見たところ、計器・センサーデータ類に異常はない。


フライトディレクターのアンダーソンが鋭い視線でフロアを見渡す。


「お前は見たか?」


「いいや……俺は何がなんだか」「何を見たんだ?」


同僚たちが横で話しているのが聞こえる。


「空軍、NOAA含む関連機関と即時情報共有しろ」


アンダーソンが指揮をとる中、エリートたちが慌ただしく働き出した。


「リサ、お前は見たか?」


リサは同僚に説明しようとして、ふと口を噤む。

幼い頃から理学博士の父に科学の英才教育を受け育ってきた。大学では航空宇宙工学を専攻し、優秀な成績でNASAに入った。科学の最先端で働く自分が、こんな非科学的な事象をうまく表現できるだろうか。


「瞳……」


口をついて出た呟きが高い天井に響いた。


あれは何だったのか?


──テロか?それとも、中国やロシアが開発した新兵器か?


いや、今問うべきは「あれは()()?」ではない。


()()観たのか」だ。


リサは頭の片隅で可能性を列挙していた。


(EMP攻撃? いや、電磁波障害は検出されていない。ソーラーアラートも静穏。だとすると……)


ちょうど同じタイミングでアンダーソンも無線に向き直る。


「ISS、こちらヒューストン。状況を報告せよ」


少し経って回線が繋がる。本来なら今頃大西洋上を移動中だ。


「こちらISS、クルーリーダーのエリックだ。我々は問題ない。現在は大西洋上空を飛行中だ」


「ただ、先ほどからクルーのうち数名が幻覚を見たと言っている。おそらく任務に支障はないが」


「まあ……エイブリーがやたら興奮してる以外はな」


通信の奥から、若い女性クルーの声が入る。「ヤベーって!大きな目ん玉!!」


エリックが軽くため息をつく気配が聞こえた。


やはり。この管制室だけではない。

世界中で同じことが起きていると考えるべきだ。地球上の一体誰が、どの組織ならそんなことができるだろう?


「計器も、船内システムも特に異常は検出されていない。」


「自律システムの状況は?」


「それも問題ない。ただ……」


アンダーソンが身を乗り出す。


「どうした、続けてくれ」


思考を巡らしながらも、リサの指先はISSからのテレメトリーデータを高速で操作していた。異常はない。しかし、それが逆に不気味だった。


還暦を越え、宇宙飛行士の中でもトップクラスにベテランであるエリック・S・エルドリッチ。その彼が言葉を選ぶように沈黙した。


「先ほどまで、私は船外活動中だった。だから幻覚は見なくて幸運だったんだが……」


「……」


「変なことを言っていると思って聞き流して欲しい」


「気のせいかもしれないし、私の目が悪くなっただけかもしれない、だが…」






「宇宙が急に、暗くなった」

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