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9/18

『白衣とマフラーと、ありがとうの声』

12月の風は冷たくて、吐く息が白く溶けていく。

 私の首には、母が編んでくれたマフラーがぐるりと巻かれていた。

 その温もりが、冬の寒さを少しだけ和らげてくれる。


 


 科学部の忘年会が、文化祭後の部室で開かれていた。

 いつものメンバーに加え、顧問の先生や、他の部活の先輩たちも来ていて、賑やかな夜だった。


 


「ゆら、こっち来てよ!」

 千紘先輩が大きく手を振っている。


 


 私がそっと近づくと、先輩はにっこりと笑った。


 


「いてくれて助かったよ、今年はさ」

 その言葉に、胸がじんわり熱くなる。


 


 いつも自信がなくて、みんなの足を引っ張ってる気がしてた。

 だから、「助かった」と言われるのは、初めてだった。


 


「ありがとう、ゆら」

 他のメンバーも、あたたかい声をかけてくれる。


 


 私は、ぎこちなくも笑い返した。


 


「みんなのおかげで、私もここにいられるんだ」


 


 白衣のポケットに手を入れ、私は静かに誓った。


 


(もっと頑張ろう。みんなのために)


 


 冬の夜空に、星がまたたいている。

 その光に照らされて、私の心も少しずつ輝き始めていた。


忘年会の部室は、暖かな照明と笑い声に包まれていた。

 机にはお菓子やジュース、手作りの装飾が彩りを添える。


 


 千紘先輩が持ってきたゲームで、みんなが輪になって盛り上がる。

 私はその輪の端に座りながらも、なんだか居心地の良さを感じていた。


 


「ゆら、次はお前の番だぞ!」

 千紘先輩の声に、少し緊張しながらも笑顔を返す。


 


 ゲームは単純なクイズだった。

 答えられなかったら、ちょっとした罰ゲームが待っている。


 


 でも、その時間も、どこか優しくて、あたたかかった。


 


* * * 


 


 ふと、伊織先輩が私の隣に座った。

 無言で差し出されたマフラーの端を掴み、ぎゅっと握る。


 


「似合ってるぞ、そのマフラー」

 先輩は少しだけ笑った。


 


 私は、心臓が少しだけ高鳴るのを感じて、俯いた。


 


「ありがとう、伊織先輩」

 小さな声が自然と漏れた。


 


* * * 


 


 忘年会が終わり、みんなが帰った後。

 私は静かに部室の明かりを消して、マフラーを手に取り、窓の外を見た。


 


(私は、ここにいていいんだ)


 


 誰かの役に立ち、必要とされている――そんな実感が、私の胸に灯をともした。


 


 来年も、この場所で、科学部の一員として歩んでいこう。


 


 そう誓いながら、ゆらはマフラーをそっと首に巻き直した。


 


 冬の夜空は、澄み切っていて、星たちが優しく輝いていた。


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