『白衣とマフラーと、ありがとうの声』
12月の風は冷たくて、吐く息が白く溶けていく。
私の首には、母が編んでくれたマフラーがぐるりと巻かれていた。
その温もりが、冬の寒さを少しだけ和らげてくれる。
科学部の忘年会が、文化祭後の部室で開かれていた。
いつものメンバーに加え、顧問の先生や、他の部活の先輩たちも来ていて、賑やかな夜だった。
「ゆら、こっち来てよ!」
千紘先輩が大きく手を振っている。
私がそっと近づくと、先輩はにっこりと笑った。
「いてくれて助かったよ、今年はさ」
その言葉に、胸がじんわり熱くなる。
いつも自信がなくて、みんなの足を引っ張ってる気がしてた。
だから、「助かった」と言われるのは、初めてだった。
「ありがとう、ゆら」
他のメンバーも、あたたかい声をかけてくれる。
私は、ぎこちなくも笑い返した。
「みんなのおかげで、私もここにいられるんだ」
白衣のポケットに手を入れ、私は静かに誓った。
(もっと頑張ろう。みんなのために)
冬の夜空に、星がまたたいている。
その光に照らされて、私の心も少しずつ輝き始めていた。
忘年会の部室は、暖かな照明と笑い声に包まれていた。
机にはお菓子やジュース、手作りの装飾が彩りを添える。
千紘先輩が持ってきたゲームで、みんなが輪になって盛り上がる。
私はその輪の端に座りながらも、なんだか居心地の良さを感じていた。
「ゆら、次はお前の番だぞ!」
千紘先輩の声に、少し緊張しながらも笑顔を返す。
ゲームは単純なクイズだった。
答えられなかったら、ちょっとした罰ゲームが待っている。
でも、その時間も、どこか優しくて、あたたかかった。
* * *
ふと、伊織先輩が私の隣に座った。
無言で差し出されたマフラーの端を掴み、ぎゅっと握る。
「似合ってるぞ、そのマフラー」
先輩は少しだけ笑った。
私は、心臓が少しだけ高鳴るのを感じて、俯いた。
「ありがとう、伊織先輩」
小さな声が自然と漏れた。
* * *
忘年会が終わり、みんなが帰った後。
私は静かに部室の明かりを消して、マフラーを手に取り、窓の外を見た。
(私は、ここにいていいんだ)
誰かの役に立ち、必要とされている――そんな実感が、私の胸に灯をともした。
来年も、この場所で、科学部の一員として歩んでいこう。
そう誓いながら、ゆらはマフラーをそっと首に巻き直した。
冬の夜空は、澄み切っていて、星たちが優しく輝いていた。