表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/17

『小さな失敗、大きな気づき』

11月の空は、どこか澄んでいて冷たい。

 秋の終わりが近づき、落ち葉が校庭に舞っている。


 


 科学部の部室では、私たちの班が実験の真っ最中だった。

 私は、手順書を見ながら、慎重に薬品を計量していた。


 


「ゆら、もう少しで完了だよ。落ち着いて」


 千紘先輩の声が背中から聞こえる。


 


 でも、その言葉に応えられなかった。


 


 「あっ……!」


 


 思わず叫んだのは、計量カップを傾けた瞬間。

 薬品の一部が容器から溢れてしまった。


 


「え……!?」


 


 濡れたテーブルの上に、色のついた液体が広がっていく。


 


 「しまった……ごめんなさい……」


 


 動揺が全身を駆け巡る。

 班のみんなの視線が、一斉にこちらに注がれた。


 


「大丈夫、大丈夫。まだ間に合うから」

 伊織先輩が落ち着いた声で言った。

 でも私は、胸の中がざわざわして、言葉が詰まった。


 


(迷惑かけちゃった……)


 


 実験は続けられたけれど、私はずっと頭を抱えていた。


 


* * * 


 


 放課後。

 部室はすっかり静かになっていた。


 


 私は深呼吸して、ゆっくり立ち上がった。


 


「みんな、ごめんなさい」


 


 班のメンバーが顔を上げる。


 


「私がミスしたせいで、時間も材料も無駄にしてしまった」


 


 緊張して声が震えたけれど、それでも言い切った。


 


「でも、これからはもっと気をつけます。責任を持ちます」


 


 静かな空気のなかで、誰かがぽつりと言った。


 


「ゆらなら大丈夫。そう思ってる」


 


 私は、目の前の仲間たちの顔を見て、少しだけ涙ぐんだ。


 


(失敗は怖いけど、隠したらもっと怖いんだ)


 


 それが、私の大きな気づきだった。


 

 翌日。

 部室の窓から差し込む朝の光が、机の上のノートを柔らかく照らしていた。


 


 私はいつもより早く部室に来て、実験の準備を始めた。

 昨日の失敗を胸に刻んで、丁寧に器具を並べる。


 


「おはよう、中川」

 千紘先輩の声が響く。


 


「おはようございます」

 少しだけ自信を持って答えられた。


 


 班のメンバーも続々と集まってきた。

 みんな笑顔で迎えてくれて、安心した。


 


* * * 


 


 実験は再開された。

 今度は私も積極的に手を動かし、声を出す。


 


「この薬品を混ぜると、色が変わるんですよね?」

 「そうそう、混ぜるタイミングが大事だから、声かけてね」


 


 私の質問に、先輩たちは丁寧に教えてくれた。

 そのやり取りが、前よりずっと自然だった。


 


* * * 


 


 午後になり、実験は順調に進んだ。

 私が注いだ薬品が、鮮やかに反応して泡を立てる。


 


「おお、いいね!」

 伊織先輩が目を輝かせる。


 


「ゆら、さっきの失敗は気にしなくていいよ」

 「え?」

 「ミスは誰にでもある。大事なのは、そこから何を学ぶかだ」

 「はい……ありがとうございます」


 


 その言葉に、私は力が湧くのを感じた。


 


* * * 


 


 夕暮れの部室。

 私はノートに今日の記録を書き込んでいた。


 


 失敗したあの日から、私の気持ちは少しずつ変わってきた。


 


(失敗しても、責任を取れば、また前に進めるんだ)


 


 そう思うと、実験も部活も、もっと楽しみになってきた。


 


 これからも、きっと――


 


 ゆらの科学部の日々は続いていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ