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『中川ゆらと科学部の36か月』 ――わたしを変えたのは、たぶん、科学と、あなたたち。  作者: 南蛇井


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若葉祭、私たちのショータイム

科学部が文化祭で脚光を浴びる日なんて、入部当初の私は思いもしなかった。

けれど今、講堂のステージ袖には、白衣を羽織った部員たちがそわそわと並び、観客席には生徒や保護者でぎっしりだ。


「先輩、緊張してます?」

ナナミが不安げに私の顔をのぞきこむ。

「うん、してる。でも大丈夫。だって、あんなに練習したんだもん」

私は笑ってそう言うと、自分の手のひらを軽く叩いて気持ちを引き締めた。


きっかけは、去年の若葉祭。

展示だけでは埋もれてしまう、でも実験の楽しさをもっと伝えたい——そんな話をしていたとき、ナナミが言ったのだ。


「演劇部とコラボとかできないかな? 科学実験って、舞台映えすると思うんですよね!」


大胆な提案に、最初はみんな目を丸くしていた。

でも、やってみると面白い。液体の色がぱっと変わる瞬間、火花が散る瞬間、反応の合間に「科学者」と「助手」のやりとりを挟む——それはまるで、化学反応のように新しい可能性を見せてくれた。


脚本は文芸部、演出は演劇部、効果音は放送部。

学年を超えて協力し合いながら、科学部が中心になってショーを組み立てていく。

気づけば校内では「今年の目玉は科学部らしいよ」と噂されるほどになっていた。


開演のベルが鳴る。

幕が上がるその瞬間、私はナナミと目を合わせ、深くうなずいた。


「科学って、こんなに面白いんだよ」

そう伝える準備は、もうできている。



「さあ助手くん、ここでこの液体を加えてごらん」

「ええっ、本当に大丈夫なんですか? 爆発とかしませんよね!?」

ステージの上では、科学者と助手の軽妙なやり取りが飛び交う。


ナナミ演じる助手が戸惑いながら試験管に液体を注ぐと——

しゅわっ、と音を立てて中身が紫から黄金色に変化し、観客席からはどよめきと拍手が起きた。


舞台袖でその様子を見ていた私は、思わず拳を握りしめた。

きれいに決まった。

何度も練習した仕掛けが、ちゃんと「感動」に変わった。


次は私の出番だ。

舞台中央に立ち、客席を見渡す。

照明の眩しさに一瞬目がくらむけれど、不思議と怖くはなかった。


「科学は、ただの知識じゃありません。

 それは“気づく”こと、“試す”こと、そして——“伝える”ことです」


私の言葉に、客席のざわめきがすっと静まり、全員の視線が集まる。


「私たちはこの数か月、放課後に何度も集まって実験を繰り返しました。

 失敗もしました。口論もしました。だけど、諦めなかった。

 だって、私たちは“面白い”を伝えたかったからです」


私は振り返り、ナナミと視線を交わす。

彼女もまた、少し涙ぐんだ目でうなずいてくれた。


ラストの演出は、「光の庭園」──

舞台上の全員で手に持ったガラス容器を一斉に揺らすと、化学反応で淡い光がともる。

青、緑、白、紫……それぞれの瓶が、暗い講堂をそっと照らしていく。


光に包まれた瞬間、客席から割れんばかりの拍手が響いた。


カーテンコール。

ステージ中央で、私はマイクを握りながら深く頭を下げた。


「ありがとうございました。これが、私たち科学部のショータイムです!」


その声に、ナナミも、結城先生も、そして客席の誰もが笑顔だった。

「伝える」って、こんなに楽しいんだ。

そう思えたこの日が、私たちの最高の文化祭になった。




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