『卒業式、空に舞う手紙』
春の陽射しが柔らかく校庭を包んでいた。
桜の花びらが風に舞い、まるで空から降り注ぐように降ってくる。
今日は卒業式の日。
伊織先輩をはじめ、三年生が学校を去っていく。
教室はいつもより静かで、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
私は、そっと机の引き出しから小さな手紙を取り出した。
それは、卒業する先輩たちに向けて、こっそりと書いたものだった。
(変わらない私を、変えてくれた人たちへ)
* * *
式が終わり、校庭に出ると、先輩たちが制服姿で笑顔を浮かべていた。
伊織先輩がこちらに気づき、軽く手を振る。
私は緊張しながらも、ポケットからその手紙を取り出した。
「これ、先輩たちに渡してほしいんです」
友人に頼んで、そっと封筒を託す。
* * *
数日後。
放課後の部室で、見慣れた封筒が机の上に置かれていた。
それは、伊織先輩からの返事だった。
封筒を開けると、丁寧な文字でこう書かれていた。
『変わったな、中川』
その一言に、私は息を呑み、胸がじんわり熱くなった。
思わず涙がこみ上げてきたが、私はぐっとそれをこらえた。
(私、少しは変われたのかな)
春の光が、私の背中を優しく押してくれた。
部室の静けさが、いつもより重く感じられた。
もう、伊織先輩も、千紘先輩もいない。
けれど、彼らの存在は確かに残っている。
私の心の中に、優しく根を張っていた。
封筒の中の言葉を何度も読み返しながら、私はゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう、先輩たち」
小さく呟いて、窓の外の桜を見つめる。
* * *
翌日、私は新学期の準備をしながら考えていた。
もうすぐ、新しい一年が始まる。
私も、変わらなきゃいけない。
あの先輩たちのように、自分の道を見つけて歩くんだ。
胸の奥の緊張と期待が入り混じる。
(きっと、私は大丈夫)
そう信じて、私は深呼吸をした。
* * *
春風に吹かれて、桜の花びらがひらひらと舞う。
それは、私から先輩たちへの、小さなありがとうの手紙のようだった。
ゆらの高校生活は一区切りを迎え、でも物語はまだ続く。
これからの三年間、彼女の成長と冒険が待っている。




