表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『中川ゆらと科学部の36か月』 ――わたしを変えたのは、たぶん、科学と、あなたたち。  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/36

『卒業式、空に舞う手紙』

春の陽射しが柔らかく校庭を包んでいた。

 桜の花びらが風に舞い、まるで空から降り注ぐように降ってくる。


 


 今日は卒業式の日。

 伊織先輩をはじめ、三年生が学校を去っていく。


 


 教室はいつもより静かで、どこか張り詰めた空気が漂っていた。


 


 私は、そっと机の引き出しから小さな手紙を取り出した。

 それは、卒業する先輩たちに向けて、こっそりと書いたものだった。


 


(変わらない私を、変えてくれた人たちへ)


 


* * * 


 


 式が終わり、校庭に出ると、先輩たちが制服姿で笑顔を浮かべていた。


 


 伊織先輩がこちらに気づき、軽く手を振る。

 私は緊張しながらも、ポケットからその手紙を取り出した。


 


「これ、先輩たちに渡してほしいんです」


 


 友人に頼んで、そっと封筒を託す。


 


* * * 


 


 数日後。

 放課後の部室で、見慣れた封筒が机の上に置かれていた。


 


 それは、伊織先輩からの返事だった。


 


 封筒を開けると、丁寧な文字でこう書かれていた。


 


 『変わったな、中川』


 


 その一言に、私は息を呑み、胸がじんわり熱くなった。


 


 思わず涙がこみ上げてきたが、私はぐっとそれをこらえた。


 


(私、少しは変われたのかな)


 


 


 春の光が、私の背中を優しく押してくれた。


部室の静けさが、いつもより重く感じられた。

 もう、伊織先輩も、千紘先輩もいない。


 


 けれど、彼らの存在は確かに残っている。

 私の心の中に、優しく根を張っていた。


 


 封筒の中の言葉を何度も読み返しながら、私はゆっくりと立ち上がった。


 


「ありがとう、先輩たち」

 小さく呟いて、窓の外の桜を見つめる。


 


* * * 


 


 翌日、私は新学期の準備をしながら考えていた。

 もうすぐ、新しい一年が始まる。


 


 私も、変わらなきゃいけない。

 あの先輩たちのように、自分の道を見つけて歩くんだ。


 


 胸の奥の緊張と期待が入り混じる。


 


(きっと、私は大丈夫)


 


 そう信じて、私は深呼吸をした。


 


* * * 


 


 春風に吹かれて、桜の花びらがひらひらと舞う。

 それは、私から先輩たちへの、小さなありがとうの手紙のようだった。


 


 ゆらの高校生活は一区切りを迎え、でも物語はまだ続く。

 これからの三年間、彼女の成長と冒険が待っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ