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『中川ゆらと科学部の36か月』 ――わたしを変えたのは、たぶん、科学と、あなたたち。  作者: 南蛇井


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『結晶と、心の形』  

一月の朝は真っ白で静かだった。

 雪がしんしんと降り積もり、世界をふんわりと包み込んでいる。


 


 科学部の部室では、私たちが冬の観察実験に取り組んでいた。

 テーマは「雪の結晶の形の観察」。


 


 先輩の指示で、特別に用意されたスライドガラスの上に、降り積もった雪をそっと乗せる。

 私は息を殺しながら、顕微鏡を覗き込んだ。


 


「すごい……」

 思わず小さく漏らす。


 


 顕微鏡の視野には、六角形の美しい結晶がきらりと輝いていた。

 形は一つひとつ違い、どれも繊細で精巧だった。


 


(こんなに細かい形が、自然にできるなんて……)


 


 私はじっとその結晶たちを見つめながら、記録を取っていく。


 


* * * 


 


 観察を続けるうちに、私は少しずつ結晶のパターンに気づき始めた。

 それは、まるで心の形を映し出しているようだった。


 


「中川、観察の仕方がすごく丁寧だな」

 伊織先輩の声が背後から聞こえた。


 


 私は驚いて振り返り、すぐに顕微鏡から目を離す。


 


「そんな、偶然ですよ……」

 顔が熱くなりながら答えた。


 


「偶然じゃないよ。お前の観察眼は、ちゃんと成長している」

 先輩はそう言いながら、小さく微笑んだ。


 


* * * 


 


 放課後。

 私は部室でノートをまとめていた。


 


 そこへ、新入部員の後輩たちがやって来た。

 数人が私のノートをのぞき込み、興味深そうに質問してくる。


 


「この結晶の写真、どうやって撮ったんですか?」

 「その観察方法、詳しく教えてください!」


 


 私は少し戸惑いながらも、ゆっくりと説明を始めた。


 


(もしかして、私が教える立場になる日が来るのかも……)


 


 そんな予感が、静かに胸の中に芽生えていた。


 翌日、部室には数人の新入部員が集まっていた。

 彼らは私のノートを興味深そうに眺めて、質問の嵐を浴びせてくる。


 


「どうやって顕微鏡の焦点を合わせるんですか?」

「雪の結晶って、なんであんなに形が違うんでしょう?」

「写真はスマホで撮ったんですか?」


 


 最初は戸惑ったけれど、ゆっくりと一つずつ答えていく。

 手元の動きも説明も、自然と丁寧になっていることに気づいた。


 


「雪の結晶は、気温や湿度の変化で形が変わるんですよ」

「だから、観察するときは、できるだけ早く、環境を壊さずに扱うのが大事なんです」


 


 後輩たちがうなずき、感心した表情を見せる。

 その姿に、私はじんわりと嬉しさがこみ上げてきた。


 


* * * 


 


 その日の終わり、伊織先輩が部室に顔を出した。

 彼はにこりと笑って、


 


「中川、お前、いい先輩になるな」

 そう言った。


 


 私の胸が熱くなった。

 責任と期待に押しつぶされそうな気持ちもあったけれど、それ以上に――


 


(頑張ろう、もっと成長しよう)


 


 と強く思った。


 


* * * 


 


 冬の窓から差し込む淡い光。

 結晶のように、私の心も少しずつ形を変えながら、確かな輝きを放ち始めていた。


 


 これからも、ゆらの科学部の物語は続く。


 



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