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令嬢が選んだ結末は、全員道連れの破滅でした  作者: ぱる子


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第14話 拡大する暴動

 首都ヴァルモンドの大通りを見下ろす窓辺に、先日までにはなかった高い柵が築かれているのが見えた。街の一角では、暴徒化寸前の群衆が衛兵との間で言い争いを続け、興奮が収まらない。遠くからは物々しい怒号や悲鳴が風に乗って運ばれ、人々の不安をさらに煽っている。

 地方の反乱は、いよいよ首都圏にまで波及していた。最初は小規模の領地で起こったささやかな抵抗運動だったものが、いつの間にか周辺領主や不満を抱えた農民層に波及し、抵抗の火種があちらこちらで燃え上がっているのだ。王国はもはや各地で内乱の様相を呈し始めていた。


 この事態に対して、王太子ルシアンは軍の増派を検討し、民衆に向けて「沈静化を促す布告」を行おうと躍起になっていた。だが、彼の呼びかけに応じる貴族や軍部は既に限られている。スキャンダル続きで王宮の権威は著しく失墜しており、地元の領主たちは自分の領土の安定だけを最優先にし、中央からの要請を軽んじる傾向が強まっていた。

 街中では、王太子の命令に従わない者が増えているという噂まで飛び交い、衛兵たちに対する信頼も揺らぎはじめている。結果として、わずかな衝突がすぐに暴動に繋がりかねない緊迫感が漂い、衛兵たちも十分な行動を取れず空回りしていた。


 この隙を突くように、再び不正の証拠がバラ撒かれ、あるいは関係者の証言が漏洩する事件が起こる。貴族同士の裏取引や買収の記録が貼り出され、民衆は「国の中枢が私腹を肥やしていた」と信じ込み、怒りの矛先を求めて彷徨うように街を走り回る。一方、公爵家の不正を糾弾する文書も広く出回り、「公爵が国土を切り売りしようとしている」といった過激な噂まで囁かれるようになった。

 どこまでが真実で、どこからが偽りか――もはや人々がそれを判別する余地などないほど混乱が進み、誰もが「自分は騙されているのではないか」と疑心暗鬼に陥る。こうして、少しの火種ですぐに暴発してしまう状況が完成しつつあった。


 王太子ルシアンは、焦りからメッセージを発しても効果が薄く、次なる手段として軍の強制力を試みるが、これも十分な兵力が集められず一部しか機能しない。加えて、クララは「民に寄り添う姿勢」を見せようと飾り立てたスピーチを試みるが、燃え上がるような民衆の怒りの前では白々しい言葉にしか響かず、王太子派に対する不満が収まる兆しは見当たらない。

 一方、レオポルト・ローゼンハイムは公爵家を守ろうと、わずかに残った家臣をかき集め、領内の反乱の火種を鎮めようと躍起になっていた。しかし、前途は極めて暗かった。すでに多くの領主たちが公爵への協力を拒否し、むしろ自分たちの権益確保に奔走している。公爵家としての統率力は有名無実化し、レオポルトの叫びは空しくこだまするばかりだった。


 そんな中、エレオノーラは私邸の書斎で新たな文書の仕分けを行っていた。これまでの暴露に続く新しい一手として、より過激な噂や証拠を外部へ渡す準備を進めているのだ。表向きは王太子や公爵家を糾弾するような情報が中心だが、地方の領主たちの腐敗や軍部の不正も織り交ぜ、国内のあらゆる組織に不信感を抱かせようとする狙いがある。

 配下のひとりが作業の手を止め、苦い面持ちでエレオノーラに問いかける。


「ここまで混乱が拡大すると、王国全体が潰れてしまうかもしれません。そんなことをすれば、あなたもただでは済まないのでは……」


「構わないわ。わたくしは最初から、“破滅”という言葉を覚悟しているもの」


 エレオノーラの返答には、取り返しのつかない結末すら意に介さない冷たさが宿っている。国が傾き、父の公爵家や王太子派が断罪されたとしても、彼女が生き延びるとは限らない。むしろ、自分も破滅に巻き込まれることさえ織り込み済みだ――そんな狂気にも似た執念を感じ取った配下は、思わず息を詰まらせる。

 ある夜、城下に流れる噂の中には「エレオノーラが捕らえられるのも時間の問題だ」という話もあった。実際、王宮は逮捕を急いでいる。しかし、逮捕令が下されたからといって、エレオノーラがすぐに姿を現すはずもない。

 むしろ、彼女は王太子派の士気が下がっている隙に、さらに強力な証拠を地方の新聞社や密偵組織へ渡していた。彼女が動かす複数の工作員が各地を駆け回り、新たな情報を流し込むたびに民衆の怒りは増幅し、暴動の報せは増加する一方だ。


 首都でも、ついに小規模な火災が発生し、一部では武装した衛兵に抵抗しようとする集団が現れた。宮廷の議会では「これ以上の反乱を許すことはできない」として、強権的な制圧を打ち出す意見が多数を占めるが、兵力も物資も不足しているため実現が難しい。

 貴族たちの中には、呆れ果てて国外へ逃れようと画策する者も増えつつある。もはやルシアンにもレオポルトにも頼れない、国そのものが崩壊しかけている――そんな認識が広く浸透しているのだ。


 激しさを増すこの騒乱の只中、エレオノーラは窓の外を見やりながら、遠くで鳴り響く喧騒に耳を澄ませる。どこかの区画で再び騒ぎが起きたのか、あるいは領外から駆けつけた難民や避難民が混在しているのか。夜風が運ぶ音は、まるで哀哭の合唱のようだ。

 しかし、彼女の面差しに揺らぎはない。邸内では使用人や配下が怯えた声を潜め、「今さらこんな大事になってしまっては誰が止められるのか」と戸惑うが、エレオノーラはむしろ「あとはもう流れに任せるだけ」とでも言わんばかりに淡白な態度を貫いていた。


(これが最終段階……どれだけの血が流れようと、彼らが自らの行いに向き合わない限り、国は滅ぶしかないわ)


 そうした静かな決意をうかがわせつつも、どこか「自分自身もその渦中で散っていく」ことを厭わないかのような冷酷さがある。幼い頃から貴族社会の腐敗を目の当たりにし、とうに失っていたものが多すぎるのだ。

 翌朝、城門前の市場には、さらに多くの難民や旅人が詰めかけていた。国内の混乱を避けて首都に逃げ込んだ者たちが、今度は首都でも厳戒態勢に阻まれ、行き場を失っている。ある女は、幼子を抱えたまま衛兵に泣きついても取り合ってもらえず、男は納得できないとばかりに怒鳴り合い、どこかで殴り合いが起きる。

 この光景を見た兵士のひとりは虚ろな顔で「この国はもう末期だ」と呟いたという。いつ王宮が焼き討ちに遭ってもおかしくない状態――いや、もし誰かが火をつければ、一斉に暴徒が立ち上がる可能性もある。

 ルシアンやクララ、レオポルトは、それぞれ軍を動かし沈静化を図ろうと試みるが、まるで水浸しの床を素手でかき出すような徒労感が拭えない。何かをしようとするたびに新たな暴露や噂が流布され、もはや誰が裏切り者で誰が正当な政権側なのか、一般市民はもちろん貴族たちさえ理解できなくなっていた。


 こうした絶望的な状況を尻目に、エレオノーラはゆっくりと髪を結い上げ、黒いドレスに袖を通していた。かつて公爵令嬢として宮廷に華やかに通った頃とはまるで違う、闇を象徴するような衣服。

 彼女は部屋を出る前に、机上の書類を一瞥する。それは、もう最後に残されたとっておきの証拠――王家の秘密に深く切り込む致命的な資料だった。これを世に放てば、王太子派も公爵家も、どちらも再起不能。

 実際、放てばどうなるかは想像に難くない。国そのものが崩れ去る可能性すら高い。だが、彼女は迷わない。ここまで深く腐敗した王国が生き残る手段など、あえて与える理由がない。

 騒乱の声が近づくほど、エレオノーラの胸は静かに燃えるような感覚を覚える。もうすぐ、“すべてが終わる”時が来る。破滅の淵へと落ちていく王国を、彼女は長年の怨嗟と共に冷徹に見送ろうとしていた。


 そうして刻一刻と迫る最期の幕に向けて、国は止めどなく崩壊を加速させている。どこまで抵抗しようとも、内乱と疑心暗鬼、そして各派閥の自己保身が絡み合って、誰にも収拾がつけられない。これこそがエレオノーラの狙いであり、彼女が幼い頃から練り上げてきた結末なのだ――そう感じさせるように、街の喧騒は激しく、切迫した余震のように連鎖していた。

 やがて、夜の帳が下りる頃、この国にとっての最後の決断が下されるかもしれない。その矢面に立つのが、王太子と公爵家、そしてエレオノーラ――三者三様の思惑が絡み合い、人々を巻き込み、歴史を大きく変える嵐が巻き起こるのは、もはや避けようのない運命に思われた。

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