8 長槍隊
信長は上機嫌で城に戻り、家臣たちを集めて槍作りを命じる。
「長さは三間から四間じゃ」
一間は六尺で、この時代の平均身長は五尺くらい。
つまり信長は、身長の四・五倍の槍を考えたのだ。
急な命令に家臣は大反対。
「とても使えるとは思いませぬ」
家老の林はすぐに言い捨てる。
「長すぎると突く動きができませぬが」
平手の爺もやんわり断って来る。
信長はキョトンとした。
「ん? これは上からたたきつけるのじゃ」
長い柄は良くしなる。しなりを利用すればたたくだけで破壊力が生まれる。
ちょっと考えればすぐに分かることだ。
「馬上ではあつかえませぬが」 まだ林は言い返してくる。
信長はちょっとイライラしてきた。
「これは足軽に持たせるのじゃ!騎馬兵は今までの槍で良い」
「そのような物、聞いたことがござらん。常識で考えなされ」
ブチっと信長は切れた。
「みなが知らぬ武器ならば敵も知らぬわ! されば先手も取れよう!」
若殿の全力の説得に家臣もあきらめた。
槍は足軽たちがあつかえるギリギリの長さで三間半に決まる。
約六メートル半ってところ。
ついでに新しい子分の話もしておく。
「そう言えば家来を探して来たぞ。まだ五十人くらいじゃやが」
「は?」
家臣たちは真っ青になった。
「侍をかかえておくのは銭がかかりますので‥さすがに多すぎまする」
平手が何とか止めようとして来るけど、信長には伝わらない。
「はぁ? 一々やとう方が面倒だろう。春や秋には戦えぬし」
この時代の兵はほとんどが農兵だ。
農作業がいそがしい時期に戦に参加する百姓などまずいない。
信長はそれでは不都合だと感じている。
彼が欲したのは将だけでなく軍勢も、だった。
こちらも主君のごり押しでやとうことが決定した。
「他にできることはないか?」
沢彦も時々呼びつける。兵法も学ぶ。堺には鉄砲とか言う新兵器が出回っていると聞けばさっそく手に入れる。
信長は古いやり方にこだわらず、新しい人間や武器を積極的に採用した。
その気性は一生続く。
林はこの後も登場します