4 学び
「和尚、銭とはどうやって手に入れるのじゃ」
寺通いがしばらく続いたある日、吉法師は沢彦に尋ねた。
「はて、何ゆえそのようなお考えを?」
「爺の政秀が銭がないとぼやいておってな。では市で銭を買って来いと言ったら」
無理だと笑われた、と伝えると和尚は少し考えこんだ。
「吉法師様は銭とは何であるかお分かりになられますか」
「え?」
予想外の問いに吉法師は考えこんだ。
(銭って‥あれだろ? 丸くて真ん中に四角い穴があいてる)
でもそんな事が答えな訳がない。
(銭とは何か、か。知ろうとしたこともなかった)
吉法師はあぜんとした。今まで当たり前に見て来た物について何も分かっていないことに。
吉法師が市に行く時は、必ず世話役や護衛が数人で供をする。
そのうち一人はいつも巾着袋を持っていて、その中に銭が入っている。
吉法師が団子を食べれば、袋から銭が出されて店の者に渡される。
餅を欲しがっても、柿を手に入れても、そのたびに世話役は銭を店番に渡していた。
渡さないと何も手に入らない、それが市の決まりのようだった。
「銭とは‥交換する物か」
吉法師のつぶやきに、和尚は「ほぉ」と感心する。
(この方、頭は悪くない)
吉法師は考え続ける。
「つまり銭を手に入れるためには、何かと交換すれば良いのじゃな」
「はい正解です。日持ちする物なら高く売れますぞ。米に酒、布や茶わんなど」
「う~ん、じゃがそれはワシには手に入らんぞ」
「城持ちになれば年貢として納められましょう。それまでのごしんぼうかと」
「しかしなぁ、那古野に行ってしまえば津島の市に毎回は来れぬし‥そうじゃ那古野にも市を開けば良いのじゃ!」
将来の希望に吉法師は心をおどらせた。しばらく我慢の時期なのは、すっかり忘れて。
ルビ入れなおして文字数も直しています。