丹羽五郎左衛門長秀
「城が完成する間に調略を進めたい。美濃方面は揖斐の市橋に連絡を取れ」
城攻めにおいて絶対に阻止すべきはの援軍である。
以前から連絡を取り合っていた美濃の国人に指令を出す。
もちろん城内から崩しておければさらに良し。
「小口砦の調略は‥」
「それがしにおまかせくだされ」
「お前は‥ ああ五郎左か。分かった、まかせるぞ」
五郎左は大人しく目立たない男だった。
(調略にはちょうど良いかもしれんな)
「炭はいらぬかぁ、炭ぃ」
「炭売りか、こっちに来い」
五郎左は行商人をよそおい、まずは下働きの小者から手なずける。
「お買い上げ助かります。暖かくなったので売れ残っていたんですよ。安くしておきますね」
「ほほう、こちらも助かる」
「お城なら買ってくれるかと思い正解でした。小牧山の城でも売れるでしょうかねぇ」
五郎左は世間話のフリをして相手の反応をうかがう。
「小牧山の城? ただの出城だろう」
「そうですか? 大きな城と聞きましたよ。織田家中がそろって引っ越すらしいとも」
「へぇ~ それは知らなかった。」
「戦になったら大変ですな、お侍様にお知らせしては」
ふむ、とうなずく小者に五郎左はニッコリする。
数日後に五郎左が小口砦を訪れると、今度は侍に引き合わされた。
(しこみが上手くいったようじゃ)
「そなたが先日申した小牧山の城の話、誠であろうな」
「へえ、この距離なら小口を落とすのも時間の問題かと」
「なぜそれがそなたに分かる」
「それがし丹羽五郎左と申す。信長公の家来にて」
あっけに取られる敵にぺこりと頭を下げて、五郎左はさっさと逃げ帰った。
一度顔を見せたから次は手紙を小者にたくす。
「丹羽五郎左からと伝えれば分かるぞ」
五郎左の声は段々と小口砦の上層部に届いた
「小牧の城が完成したら必ず小口を攻めますな」
「お味方が間に合えば良いが‥ もし間に合わなければどうなることか」
「亡くなられた側近の恨み、忘れてはいないようです‥ 我が殿は苛烈ゆえ‥」
立て続けに届くやんわりとした脅し文句に、小口砦の者たちは震え上がる。
「あの、城は引き渡しますので、どうか我々を逃がしてはいただけぬか」
一兵も失わずに五郎左は城を手に入れた。
猛将の柴田勝家、後の天下人豊臣秀吉、本能寺の変を起こす明智光秀、今孔明だよ竹中半兵衛、忍者の疑い? 滝川一益などキャラの立ちまくる織田家中で、活躍の割にひときわ地味な重臣、
それが丹羽五郎左衛門長秀であった。




