3 沢彦和尚
寺では沢彦と言う坊主が本と一緒に待っていた。
(げっ、本かよ)
ずらっと並んだ漢字をながめるのはただの苦行。
和尚は読み聞かせてくれたけど、礼儀作法や親孝行の話なんて大嫌い。
「若殿には退屈でございましたか」
吉法師が体をムズムズさせても和尚は怒らない。
(いい奴なのかな)
評価を上げてやっても良いかなんて吉法師が考えていたら、別の本を取り出した。
「ではこちらに変えましょう」
吉法師はため息をつく。
「祇園精舎の鐘の声ぇ~諸行無常の響きありぃ~」
嫌な奴だった。
顔をしかめた吉法師に沢彦は笑いかける。
「これは平家物語です。源氏と平家の争いはご存じですか」
「んん゛~、義経公とか平清盛くらいなら聞いたことある」
「では、織田家のご先祖様が平家の生き残りであることは?」
それはさすがに知らなかった。
「これからお聞かせいたすのは平家の栄華と滅亡です」
自分の先祖の話ならちょっとは聞く気になる。
話の最初は平清盛が権力の頂点を極める流れだ。けっこうワクワクする。
寺通いは思ったより楽に続いた。
平家物語はちゃんと読んだことがないので
まちがっているかもしれません(-_-;)
沢彦が何を教えていたかは不明ですが、
信長が平家物語に言及する記述は
信長公記にあったので、この時期に
学んだのかな? との説を立てました。