33 決戦当日早朝 敦盛
多分この日の朝焼けはきれい。
「失礼いたします」
小姓の呼ぶ声に目を開いた。
どうやら少し眠っていたらしい。
障子が赤く染まって夜明けをつげている。
「鷲津と丸根の砦が敵に攻撃されています!」
「そうか」
信長の頭は一気に回転した。
(先鋒は砦攻めにかかりきりになる。とすると後ろを気にする余裕などないな。その間に義元の位置を突き止められれば)
しかし失敗したら織田軍は全滅。
(勝利か死か)
信長は立ち上がる。
体中がわき立つような興奮であふれているのに思考はやけに静かだった。
「橋介、敦盛を歌え」
そばの小姓に命じる。
「は? 歌でございますか」
いきなり歌えと言われて橋介は目をキョロキョロさせる。
信長がもう一度「敦盛じゃ」と念を押してやっと歌い出した。
「人間五十年~下天の内をくらぶれば~夢幻のごとくなり~」
信長は声に合わせてゆっくり舞う。
(人生はたった五十年、生まれた命は必ず滅ぶか。ならそれが今日であっても‥かまわぬわ)
心は決まった。
「みなに伝えよ、うって出る! 戦支度じゃ。粥を持って来い」
寝ずにひかえていた小姓たちがわらわら動き出す。
武具を用意する者、食事を持って来る者、他の家臣に知らせる者たちで、屋敷の中は一気にさわがしくなった。
信長は具足を身にまとわせながら粥をすする。
この作戦は時間との勝負だ。
「みな、熱田神宮に向え!」
信長は馬にまたがる。
あまりに急な展開に主君について行けたのはたったの五人であった。
敦盛は平家物語に出て来る美少年の死を
テーマにした歌です。
人生五十年は平均寿命じゃなくて
長生きして五十年らしい。




