2 吉法師
名古屋の方ごめんなさい。
「あーあ、面倒くさい」
吉法師は大声をあげた。
父親から、後を継ぐために勉強しろと命令されたのだ。
「若、頑張りなさりませ。学問さえ身に付ければ那古野の城をお与え下さると殿もおっしゃっていましたよ」
世話係になった平手政秀の言葉も吉法師にはピンと来ない。
自分の城が持てたら、そりゃすごい。だけど場所が嫌。
「那古野なんて何もないじゃないか」
今住んでいる勝幡の城なら遊び相手もいっぱいいるし、津島の市にも近い。
でも那古野にあるのは田んぼに畑に原っぱくらい。
走り回るのは楽しいけど田舎すぎるのが困る。
「寺なんかより市に行きたいぞ!」
「市にも連れて行ってあげますから、まずは寺に通いましょう」
嫌がる吉法師を政秀はなだめ続ける。
「経なんてワシは覚えぬぞ」
「でしたら問題ありませぬ。寺と言ってもあそこは神社、経ではなく祝詞でしょう」
「覚えるのが嫌なんだよ!」
「おやおや織田家は元々神主のお血筋ですから‥大丈夫ですぞ。多分」
結局引きずられるように寺通いは始まった。
吉法師が寺通いを始めた時期ですが、信長公記には那古野に移ってからと
書いてあります。
本作では天王坊と那古野城では距離がはなれすぎているので、
勝幡城に住んでいた時期に設定しました。