23 稲生の戦い・前
「弓兵、前へ」
戦いは矢のうち合いから始まる。お互い盾で防ぐから被害はほとんどでない。
矢がつきると今度は石を投げる。
当たると大けがするから慎重に前進する。
そして両軍の距離が近づいた所で騎兵や槍兵が前に出る。
そこまではいつも通りだった。しかし敵の顔が分かる位置にまで近づいて来ると、兵達から戦意が
少しずつ減ってしまう。
今回の敵はついこの前まで味方だった。
知っている相手になんて力はふるえない。
しかも敵軍を率いるのは織田家で一・二を争う猛将、柴田権六だった。
「織田家の大将にふさわしいのは信勝様じゃ」
柴田軍の猛攻に押されて信長軍の兵はじりじり後退した。
あせった信長は大声でさけんだ。
「敵に背を向けるとは何ごとじゃ! あれはみな裏切り者、正義は我らにある! 打ちやぶれ‼」
空気が変わる。
味方だけじゃなくて敵まで。
柴田軍の兵士だって主君に背くのは嫌なのだ。
裏切り者と呼ばれたら、どーしたって士気は下がっちゃう。
そして柴田軍には致命的な弱点があった。
総大将の信勝が戦場にいないことである。
信勝は絶対に戦場に出て来るべきだったのだ。
戦に自信がなくても、後方から正義をさけんでいれば良い。
「正しいのは信勝様だ」
柴田権六がいくら宣伝しても、本人がいるといないとでは効果は段違い。
正義は我にあり、と信じた兵は強い。
元々末森の兵より信長兵の方が長槍の訓練も積んでいる。
信長勢は優勢になり、柴田軍は逃げだした。
正義とは恐ろしいですね。




