16 会見のその後
織田家の行列もうるさかったけど、美濃の行列もうわさ話で持ち切り。
大体は信長の奇妙な服装と礼服への着替えのことだったけど、槍や鉄砲とかの軍事面を評価する者もいる。
こちらも大将だけは静かだった。
(あのような大馬鹿かつ利口者が‥ワシの他にいたとは)
道三の背中にふるえが走った。
もし自分が二十も若ければ、おそらく太刀打ち可能であろう。
(だが、ワシ以外にあの若造に立ち向かえるのは今の美濃に‥おらぬ)
「どう見てもうつけでございましたな」
無言の主を心配したのだろう。木曽川を渡ったあたりで部下の猪子が話しかけた。
道三はやっと口を開く。
「だから残念なのだ。ワシの息子たちはみな、あのうつけに仕えるだろうよ」
猪子はビクッとした。
大将がここまで他人をほめたことはない。
天才だからこそ天才を見ぬけるのだ。
翌年、駿河勢が尾張に攻めて来た。
もちろん信長は兵を出したい。
でも敵の砦があるのは村木の地で那古野からは遠い。鳴海よりさらに南。
城をからにしたら、清州勢が必ず那古野に攻めかかる。
兵数がたりなくても信長は出陣をあきらめたくなかった。
ダメもとで道三に頼んでみる。兵を貸して欲しいと。
まさか、あっさり了解するなんて。
よほど気に入られたらしい。