15 聖徳寺の会見
信長は美濃勢を圧倒した。
残るは大将、斎藤道三。
「早くお出で下さい」
お堂の階段を上がると、案内役がせかしてくる。
信長は聞こえないふりをして縁側に座りこんだ。
座敷には無言のジジイが座っている。
存在感が周りと段違い。
(こいつか。ふん、先にあいさつなんぞ、せぬ)
こっちから名乗るのは主導権を渡してしまうことに等しい。
ジジイの眼光に気を引きしめた信長。
案内役はあせって声をかける。
「こちらが斎藤山城守でござります」
「であるか」
名乗ったのは案内役であって本人じゃない。けど向こうから先に声をかけさせるのには成功。
(こんなものかな)
信長はするすると部屋に入った。
「お初にお目にかかる。織田上総介にござる」
道三の向かいに信長も腰を下ろす。二人は同時に頭を下げた。
斎藤道三は無表情だった。
先ほどの華麗な変身? も部下から聞いているはずなのに、おどろきも怒ってもいない。
(何を考えておるのか‥まるで読めぬな)
向こうが話しをふらないから信長も無言でにらみ
返す。
「遠い所ご苦労でござる。湯漬けでもいかがか?」
道三の命令で飯が運ばれ、食べる。
対面はそれでお終い。
「またいつかお会いしよう」
そう言った道三の表情がやっと変わる。
苦虫でもかみつぶしたように。
帰りの道中は大さわぎだった。
「見たか殿の変わりぶり」
「さすが亡き大殿の息子だよな」
「いつものうつけぶりは、ありゃーわざとだよ。敵をだますには味方からってやつ」
信長は一人無言で思いにふける。
信長の無礼な姿に怒りもせず軽蔑もせず、ただ表も裏も全て見透かそうとするあの眼光。
(あれが斎藤道三か。親父でも勝てないはずじゃ)
父親以上外で初めて見た大物だった。
湯漬けはお茶漬けみたいな物です。
たぶん。