12 うつけ
うつけはバカって意味です。
信長本人はまぎれもなく合理的に行動している
つもりだった。
しかし周りはそう見てくれない。
「親の葬儀にもまともに出られないのか」
「侍をあんなにかかえこんで、鉄砲など高価な物を
買うとは、銭の無駄使いじゃ」
「上総守ぃ?勝手に官職名を名乗るのであれば、
せめて教養はお持ちでないと」
「織田家の殿があんなうつけとはなあ」
織田家中に信長の悪口が飛びかう。
子供の頃から信長をかわいがってきた平手政秀は
心を痛めた。
特に最近は自分の長男まで信長との仲が悪い。
(このままでは織田家がバラバラになってしまう)
平手の予感は当たった。
今川対策として、織田信秀は鳴海の城を武将の
山口にまかせていた。
しかし山口は信秀が亡くなったとたん、今川に
寝返る。
城を獲られると、その周辺の支配権も奪われる。
信長も兵を出したけど、たかが八百人では城を取り
囲めない。それにまず、信長にはまだ城攻めの経験が
絶対的にたりなかった。
(このままでは尾張は今川の物になってしまう。いや
その前に信長様が家督を追われてしまうか)
平手政秀は覚悟を決めた。
信長へ態度を改めるよう手紙を残して、腹を切る。
こうして信長は実の父と育ての父を立て続けに
失った。