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後半

やっぱり長くなってしまいましたー

どうしても状況説明が多くなってしまいます。頭の中では簡単にまとまってる気がするんですが。



 

 今年の初め、大陸北部にここ百年記録されていない程の巨大な魔獣が出現した。魔獣が現れた周辺は瘴気のせいで草木は枯れ、瘴気のせいで魔獣化した動物たちは人畜を襲う。既に北方に位置する国々が討伐を試みたがことごとく失敗し被害は拡大していた。被害の報告はじわじわと南下しておりこのままではこの国も近隣諸国も魔獣と瘴気に覆いつくされてしまう。


 このためにこの国でも討伐隊を送ることになった。当初は第二王子ローランドと首席聖女リリアナを含め王宮魔導士、魔法騎士達がメンバーだった。危険な旅ではあるが巨大魔獣を討伐できればこの国の力を近隣諸国に知らしめることが出来るし実際に討伐した者達は英雄として名を馳せることになるだろう。選ばれたメンバーは気合を入れて準備をしてきたのである。


 ところが出発まであと一月という時にいきなりローランドとリリアナが外れただけでなく力がある若い魔法士や騎士達は古参の者達と入れ替えられていた。王宮内ではあからさまではないが、王太子派と第二王子派の派閥争いが水面下で行われている。頭の固い年寄りたちが多い王太子派が今回の討伐隊員を交換させたのではないかと陰でささやかれた。


 晩餐会から一月後討伐隊は出立した。

 後発隊は食料の追加補充や医療品、けが人の搬送用品など荷物が多く準備にも予定より時間がかかり一日遅れの出発となった。それに加え聖女達や非戦闘員の医師や従僕達も同行するため大所帯になり進みもゆっくりになる。


 なんだか、雰囲気は悪くないのね。


 あの晩餐会の時ロゼッタの後ろでリリアナを睨みつけていた聖女たちがまるっと同じ馬車にいるのだ。王都から馬で五日、馬車なら七日はかかるこの旅。針のむしろを覚悟していたのだが彼女たちは礼儀正しくリリアナに接してくれて意地悪をされることもない。ローランドも初めは臨戦態勢でリリアナを守ろうとしてくれていたが肩透かしを食らったようだ。


 思えば晩餐会の後、王宮内で他の貴族たちにあってもいつもと変わらないどころか逆に同情的な目で見られていたくらいだ。ある侍女などは‟ロゼッタ様に裏切られたリリアナ様に皆同情的です“とか‟ロゼッタ様が色仕掛けで王太子殿下をたぶらかして首席聖女の地位を奪ったなどの噂が広がってるようです”、と教えてくれた。


 これでは悪女は断罪された私ではなくお姉さまだわ。


 侍女にはそんな噂に惑わされないように、ときつく言っておいたが、肝心のロゼッタはエドワード王太子殿下の執務室に入り浸り状態で、それがかえって彼らの評判を悪くしていたのは否めない。


 まあ、断罪劇と言ってもお話で訊くほどのものじゃなかったし、魔獣討伐の方がずっと大ごとだものね。お父様からもお母さまからもお叱りを受けなかったし、出立前に両陛下からもくれぐれも気を付けて無事に帰ってくるようにお言葉を頂いたし。こんな感じならエドワードお兄様とお姉さまが無事に魔獣討伐を成功させたらまた良好な関係を築けるかもしれないわ。


 そんな風に考えたら気が楽になった。


 そう、私は気楽に考えていたのだ。本当にバカだった。

 魔獣討伐の現場に到着するまでは、何もかもが元通りになると思っていたのだ。




 ~~~




 魔獣との戦いが行われている現場に近づくにつれ瘴気の影響で空気は澱み辺りは薄暗くなってきた。聖女達は不安げに窓から外を眺めていた。その時、どんよりとした空にいきなりまばゆい閃光が走ったかと思うと大きな爆発音と耳をつんざくような魔獣の咆哮が聞こえてきた。続く地響きに一行は動きを止めた。


 ‟何事だ!”


 ローランドが前方にいる者達に確認する。


 “わ、わかりません。ですが魔獣討伐隊が戦っている方角です”


 容易な戦いでないことは予想されていたがそれを実感できずにいた面々に緊張が走る。ローランドは何度も魔獣と対峙したことがあるがこのような衝撃は経験したことがなかった。

 衝撃が治まるのを待って移動を再開し、たどり着いた村に一行は陣を敷いた。村人たちは既に避難してるのかもぬけの殻で少なくない数の魔獣の死骸が散らばっていた。


 そこへ一人の若い騎士がフラフラと近づいてきた。瘴気に当てられ上に傷つき満身創痍だったが幸いリリアナの治癒魔法の効果で話ができる程に回復した。屋内に運んでベッドに休ませてあげなければいけないのはわかっていたがローランドたちは彼に戦況を問いただす。


 ”しっかり説明しろ!一体何があったんだ!戦いはどうなっている?兄上たちは? “


 だが、彼はむせび泣くばかりでなかなか詳しい状況はわからない。ようやく開いた口から出た言葉にその場にいた者たちは驚愕した。



 “全滅?”



 ‟ほとんどのまじゅ…は倒しました…ですが巨大魔獣を倒すためには全滅覚悟の戦法でなければならず…”


 討伐隊がこの地に到着した時、小中の魔獣の群れが村に迫っていた。先ず村人たちを避難させ、そして魔獣を迎え撃った。魔法士たちや魔法騎士たちは的確に魔獣の核を打ち倒していったがとにかく数が多く長く苦しい戦いになった。

 ようやく巨大魔獣に相対した頃にはほとんどの者が傷を負っていた。これ以上魔力を無駄にしてはならない。そう判断し、かねてより計画していた巨大魔獣の倒す方法を試みることにしたのだ。


 ”巨大魔獣を倒す方法?”


 ローランドが聞き返す。そんな計画は聞いたことがなかった。

 息を整えた若者が話を続けた。


 ”巨大魔獣には通常の攻撃魔法では通用しない事が他国からの情報でわかっていました。王宮魔法士とロゼッタ様の研究の結果、魔獣の核を貫き通すには魔獣に匹敵する量の魔力を一気にぶつけなければいけない、と。でもどれ程魔力量が多くても今この世界にそれほどの魔力を持つ人間はは存在しない。だから彼らが考えたのは何人もの魔力を一人か二人の魔法士が極限まで吸い上げ練り上げて一気に魔獣を貫く、と言う方法でした“


 魔力を吸い上げる?


 ‟魔力を吸い上げることが出来るのはロゼッタ様と筆頭魔法士様のみです。お二人はその場にいた魔法士、魔法騎士の魔力にご自身の魔力を加え一気に魔獣にたたきつけるとおっしゃてました“


 お姉さまが魔力を吸い上げる…


 ‟兄上…まさか…だから“


 ローランドの耳に兄の言葉が蘇えった。


『私は魔力量だけは人並み以上だから…』



 ‟私はローランド殿下に報告するように命を受け、この村に戻ってきました“


 騎士が話しているうちに瘴気のせいで薄暗かった空が晴れ、青空がゆっくりと広がって行った。



 ‟王太子殿下、首席聖女様、および魔法士と魔法騎士殿十数名…あの場に残っていました。他は既に力尽きていて…私が離れた後すぐに計画に踏み切ったはずです“


 “その場にいなかったのならまだ全滅したかどうかはわからないではないか!”


 噛みつくようにローランドが若者を問い詰める。


 “ですが、そ、それが…初めからの計画だったのです…全滅覚悟で力を出し尽くすしか方法はないと”


 言うなり泣き伏した。


 ”何…?”


 全滅…?計画?初めから?どういうこと?


 混乱しながらもなんとか頭を働かせる。

 人間の体に流れる魔力は使えば減る。時間が経てば戻るが極限まで魔力を使い果たせば動けなくなってしまうのだ。同時に自分の器以上の魔力を体内に取り込めば器が崩壊しかねない。魔力を吸われた人間も吸った人間もただでは済まないのだ。しかも巨大魔獣を倒すほどの攻撃魔法を発動させれば近距離にいる者が巻き込まれるのは必須。そして討伐隊の中に防御陣を張れる魔法士もその場から逃げられる人間も一人としていないのだ。



 じゃあお姉さまは?



 その時、私の後ろで一人の聖女が泣き出した。お姉さまと親しかった伯爵令嬢だ。


 ”ロゼッタ様がおっしゃっていたのはこういう意味だったの…まさかご自身を犠牲にされるなんて“



 ”そんな、お姉さま!”


 駆け出すリリアナの腕をローランド様が掴む。


 ”離して!お姉さまが!”


 ”わかっている。俺も行く“


 “そうです、もしかしたらまた生きておられるかも”


 ”私たちも!早くいきましょう“


 他の聖女たちも護衛たちも口々に言った。


 馬車で移動している途中、聖女様達はお姉さまから聞いた話を教えてくれた。


 あの断罪劇はお姉さまが強引に首席聖女になるための茶番だったこと。それは王太子殿下にとっても同じで今回の危険な討伐にローランド殿下と私を行かせないための策だったと。だから晩餐会の後、聖女様達はお姉さまに頼まれて私に同情的な噂を広げてくれたこと。ただ彼女達にもこの討伐はエドワード殿下とお姉さま、宮廷魔法士全ての命を犠牲にするほどのものであったとは知らされていなかったらしい。


 ああ、お姉さま!どうか生きていて!



 ~~~



 体が動かない


 指一本さえも


 でも、残った片目が青空を映している


 巨大魔獣が塵になって崩れていくのは見えた


 殿下は


 皆は…だめ 確認する力もない


 ああ、でも私達やり遂げたのね


 熱いものが込み上げてきた。


 私は守れたのね


 可愛い私の妹を


 大切な人々を


 リリーならきっと首席聖女として立派にやっていける


 巨大魔獣を倒した後はあの子の治癒魔法が傷ついた人々を癒してくれる


 あたたかな春の日差しのようなあの子ならきっとみんなを幸せにしてくれる


 もう限界かしら


 息が肺に入ってこない



 思考が途切れそうになった時唇に柔らかいものが触れた。


 ”僕の魔力を吸って、ロゼ“


 言われて反射で唇を動かした。暖かいものが流れ込んでくる。

 少し呼吸が楽になった。


 ”ロゼ…”


 ”王…た…殿下…”


 “エドだよ。君は僕の魔力を全部吸い上げなかったんだね”


 “多すぎて…”


 ”だから今、少し君に分けてあげられる。僕もそんなには持たないけどね“


 顔を傾けると見慣れた碧い瞳が近くにあった。美しい黄金色の髪も肌も血と汚れでいつもの高貴な王太子は見る影もない。足が動かないのかずりずり這いつくばってロゼッタの元へやってきたようだ。


 ”汚い顔“


 フフフ…と笑うと


 “ひどいな。君だって髪ぼさぼさだよ。聖女のくせに”


 と、拗ねたようにいう。


 ‟…エド様、私、聖女ではないのよ。治癒魔法もろくに使えないのだから。それに…本当はあなたの隣にあの子がいるのはいやだったの“


 ‟奇遇だね。僕も隣には君がいて欲しかったよ“


 “巻き込んで、ごめんなさい”


 頬に何かが触れた


 ”僕だって無駄に多い魔力を使って一つくらいは王太子らしいことをしてみたかったよ。だから今とても満足してる。そしてこの場に君といれて本当に幸せだ“



 ~~~


 一月前


 ”そのようなこと、許せるわけが無かろう!”


 国王は蒼白な顔で怒鳴った。


 ここは国王の政務室。国王夫妻のほかに王太子とロゼッタ。宰相であるロゼッタの父となぜかその妻、そのほか国の重臣たちが数名。そして筆頭魔法士のみが集められていた。


 ”ですが父上、いえ、陛下。これしか方法はないのです。もう何度もロゼッタと筆頭魔法士殿と話し合いました。既に近隣三国では討伐はことごとく失敗。多くの魔法士、魔法騎士、そして勇者と呼ばれる者を失っております“


 “だからといって王太子であるお前が行くなどと”


 ‟私の中の魔力量は通常の五倍以上と言われました。なのにこの体では小物魔獣一匹倒すことは出来ない。私はそれが悔しかった。今こそそれを役立てられる“


 “多くの魔力量が必要なら相応の人数を連れて行けばよかろう”


 なんとかエドワードに反論する王に筆頭魔法士が声を上げた。


 ”恐れながら陛下、この計画は時間との戦いでもあります。他人の魔力を吸収してる間はお互いの両手を合わせた状態で吸う方も吸われる方も無防備になります。そして間他の者達が防御魔法を使うか魔獣と戦うかして彼らを守らなければいけません。人数が増えるごとにその時間が延び危険が増えるのです“


 “あらかじめ魔力を吸収しておくことは出来ないのか?”


 ‟残念ながらロゼッタ様も私もこの試みは未経験。試しに一人分の魔力を吸ってみましたがかなり体に負担がかかりそれが長時間になると体に不調をきたします。そして許容量の限界かそれ以上の魔力を吸い上げた場合はすぐさまそれを放出しなければいけません。器は長くは持ちませんから“


 “それはどういうことなのです?”


 今まで黙っていた公爵夫人がハッとしたように尋ねた。ロゼッタの母親である。


 ‟十人分もの魔力量を吸い上げた器は五分、あるいは十分もすれば壊れます“


 “!”


 夫人は息を飲んだ。


 ‟お前は、身を犠牲にするつもりか…”


 公爵は唸るように娘を見た。


 ‟犠牲とは考えておりません。私の力を最大限有効活用するだけです“


 ”父上、これが最小限の人数で巨大魔獣を倒すことが出来る方法なのです。どうかご理解ください“


 エドワードが言い募る。

 そこで長く将軍職を務めてきたギルダールが前に進み出た。


 ‟そこで予定となっている討伐隊のメンバーも大幅に入れ替えたいと思っています。若くこれから国を担っていく者たちを連れていくことは出来ません。私を含めおいぼれ達が王太子殿下とロゼッタ様をお守りしこの勤めを果たすことをお許しください“


 ‟ギルダール将軍…”


 ‟そしてローランドを王太子に、そしてリリアナを首席聖女に押し上げて復興に当たらせますよう“


 エドワードとロゼッタは国王夫妻の前で膝を折り礼をした。



 気持ちを静めようとしてしばらく沈黙していた国王は最後にもう一度抗ってみた。


 “このような計画、ローランドもリリアナも承知するはずがない。それか共に行くと言い出すだろう。どうやって説得するつもりだ?人員の入れ替えだって文句を言うものが出てくるだろう。どうやって納得させる”


 それを聞いたロゼッタがにっこりと笑った。


 “それについては私に考えがございます。皆さまには茶番に付き合って頂くことにまりますが”



 ~~~



 ”断罪劇、面白かったわね“


 ‟そうだね。リリーには可哀そうだったけどね“


 ”あの子の泣き顔は最高に愛らしいのよ“


 ”相変わらずだね…”


 ロゼッタはリリアナを可愛がってるくせに彼女に泣き顔が見たくてたまに意地悪をする。小さいころエドワードはそれに付き合い、そしてローランドが怒るのだ。


 “確かに面白かったな”


 いつも自分を律して己の欲や感情を押し殺してきた生真面目なロゼッタとエドワード。だから今回の茶番の断罪劇は久々の悪ふざけだったが発した言葉には本心も混じっていた。治癒魔法が苦手な聖女と魔力はあるのに魔法が使えない王太子。二人は自分の欠けた部分を補おうと懸命に努力してきた。ふざけたり遊んだりしたのはいったいいつ振りだろう。


 ごめんなさいね、リリー


 また息が苦しくなってきた

 もう何も見えない

 だけど…


 ”エド様…私には見えるの。リリーとローリーが国民に祝福されて手を振っているの。あれは凱旋パレードではなくて結婚式かもしれないわ“


 “僕は君と一緒にパレードを…”


 エドワードの指がかすかに動いてロゼッタのそれを握った気がする。

 



 遠のく意識の中で愛しい者達が呼ぶ声が聞こえた気がする。




 ‟お…さま―!“

 ”あに…え―!“



 END




読んでいただきありがとうございます。

テンプレの断罪劇を書いてみたかったのですが、じゃあその後は?と思うと難しい…

ロゼッタとエドワード、二人のこの後はご想像にお任せします。

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