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8話 チンピラに絡まれた

こんなにも早く評価してくださって嬉しい限りです

 ランク6になってはや7日、俺たちは、討伐クエストをメインに依頼を引き受けていた。

 やっぱり1番実入のいい仕事だし、ここ周辺は魔物の素材に対する需要の高い職業(薬師など)が多く、討伐依頼が絶えることがなかった。

 必要部位以外は全て自分のものになるし、その狩った魔物を売って上乗せで利益を得ることができる。金策としては最高効率であった。


「ルーくん、次はどの依頼にするのかしら?」

「そうだな…これなんかどうだ?ワイバーンの群れの討伐」

「ええと、なになに…“討伐報酬1体につき金貨10枚 亡骸の状態によって報酬額の増加あり ギルドからの追記…名持ちのワイバーン、『ボロス』を討伐した際には、特別報酬として、大金貨90枚をギルドより与える”ね…良いんじゃないかしら」

「だよな。ランク制限も、かなり緩いし」

「それに、あの竜のなり損ないはいつか息の根を絶ってやらないとと思ってたしね」


 そう言ったエリーナの顔からは感情が抜け落ち、絶対零度の視線が、『ボロス』へと据えられていた。俺の背筋がゾクリとし、本能でこれはまずいと悟った。多分、『ボロス』はエリーナにとって地雷だ。そこには触れないようにしようと、決めた。

 さて、依頼についてだが、今回討伐対象となっているワイバーンは、危険度ランク5の魔物で、単体ならなんとかできるが、群れると手がつけられなくなる。まあ、基本的に群れで生活する魔物なので、単体で狩れることの方が珍しいのだが。

 ただ、今回は違ったが、ネームドと言われる一際強力な魔物は、群れより単体でいることを好む傾向がある。余談だが、竜の谷の竜たちはほとんどがネームドである。あの谷に集結している竜だけで国の一つや二つ、下手したら大陸全土が焼土となってしまう戦力だ。

 話を戻して、ネームドとは、過去、幾度となく討伐に失敗している個体や、突然変異した個体のことを指している。今回確認されたのは、送り込まれた師団級(1万人ほどの軍隊)の討伐隊を何度も返り討ちにしたワイバーン、『ボロス』である。その危険度ランクは、一般的な龍を凌ぐ3。わかりやすくいうなら、大災害級と例えられている。

 そんな『ボロス』の討伐金はもうすごいことになっている。普通のワイバーンが、金貨10枚のところ、その900倍の大金貨90枚である。この機を逃す手はないだろう。これをみすみす逃すのはただのバカだ。俺はエリーナと頷き合って、ギルドを後にした。




「出現地帯って、確かここだったよな」

「そのはずよ」


 それらしい気配は…ないな。そもそも、本当にワイバーンなんていたのかと疑ってしまうほどに、気配がない。空は雲ひとつない快晴で、ワイバーンどころか、高空を飛行する鳥も見当たらない。

 うーん、どうしたものか。

 そう悩んでいると、上空から、無惨に食い荒らされたブラッディブルが大量に降ってきた。次に、デリッシャシープが、同じように落ちてきた。

 上を見上げ、目を凝らすと、ビジュビジュと、中空が揺れ動いているのが見えた。隠蔽のスキルか魔法かだろう。俺が一瞬間見ただけでは気づかなかったことから、かなり高度なものだということが窺える。


「あれか」

「あれね。まさか隠蔽のスキルを使えるとは思っても見なかったわ」

「結構な高さがあるなぁ…俺の魔法は射程圏外っぽいし、ここはちょっと、エリーナに任せようかな。竜使いみたいなことをしてみたかったし(本音は、あれを俺がやったらなんかエリーナが荒れそうだったからなんだけど)」

「ルーくんが私に命令を…んふっ、良いわね」


 身震いさせて、自分の肩を抱くエリーナ。その顔は恍惚とした表情を浮かべている。そう、わかりやすくいうなら、長いことお預けを食らっていた好物を目の前に出された時のような…

 ともかく、エリーナが何か変なものに目覚めてしまった気がする。

 早めにお願いしよう…

 

「ま、いいか。じゃあエリーナ、至極之竜息吹(オリジンブレス)をお願い!」

「わかったわ!」


 俺のお願いを受けてエリーナは、瞬く間に竜形態になった。久しぶりに竜の姿を見たが、やはり美しいと感じてしまう。と、少し違和感を抱いた。真紅の目が、サファイアのような青色に変わっていたり、黄金の紋様が浮かび上がっていたりしたからだ。

 そんなことに気を取られていたうちに、エリーナは口をがっぱと開け、蒼白の竜砲を撃ち出した。極太のそれは、隠蔽されていたワイバーンたちを焼き払い、次々と撃ち落としていく。数秒間ブレスを撃った後に、上空に残っているワイバーンは、1匹だけだった。


「あれがボロスか」

「そうね。ああ、本当に憎たらしい顔」


 人間形態に戻ったエリーナがそう言う。額には青筋が浮かんでいる。


「竜になれなかった下等な分際で、私の子供たちを多く殺したあいつは生かしちゃおけない…絶対に殺す」


 エリーナが、地獄の底から天の彼方までを凍りつかせるような低く冷めた声でそうぼそっと呟いたのを、俺は聞き逃していない。なかなかに怖かったので、触れることはできなかったが。

 そのうち、ボロスがフラフラと降下してきた。


「ギャアアアッ!」


 俺たちの前まで降りてきたかと思うと、巨大な火球を放ってきた。だが、俺たちには通用しない。俺は、片翼を顕現させて、火球を防ぐ。ドラゴノイド、便利だ。基本的な能力が総じて底上げされているから体が軽いし、こんな風にトリッキーな闘い方もできる。

 ボロスは、エリーナのブレスで弱っているのか、火球が驚くほど軽い。衝撃で言えば、卓球のボールが軽く打ち込まれたくらいだろうか。ここまで瀕死であれば、勝ったも同然だ。


「終わりにしよう。エリーナ、お願い」

「ええ、ありがとうね、ルーくん。至竜之爪撃(オリジンクロー)


 半透明の光の爪を顕現させたエリーナが、音を置き去りにしてボロスに突っ込む。次の刹那、はるか向こうに見える山と一緒に、ボロスの首が落ちた。

 文字通り、エリーナは一瞬でボロスを片付けたのである。俺の顔が引き攣ったのも無理はないと思う。まさか、ブレスより爪の方が強いなんて。


 

 もう依頼も終えたので今日はもうフリーだ。もちろん、依頼の報告を終わらせるまで依頼の達成にはならないが、もう終わりとしてもいいだろう。

 エリーナも、どこかすっきりとした顔をしている。

 その時、グゥと、エリーナのお腹がなった。当の本人は、恥ずかしそうに顔を伏せてる。

 そういえば、朝から何も食べていなかったなと、思い出す俺。じゃあ、ここでご飯にするのもいいだろう。俺は、作り置きしておいた、ハムと卵、トマトとレタスとチーズの2種のサンドイッチ、冷たい紅茶をマジックバッグから取り出して、エリーナと一緒に楽しんだ。周りが血まみれだったのはこの際気にしないことにした。


「さて、もうそろそろ出発しようかな」


 昼食を食べ終え、血の海の上で惰眠を貪った後、俺はそういった。

 エリーナがゆっくりと体を起こし、眠たげなまなこを擦った。そして、特大のあくびをかます。いつも通りの、昼寝後のエリーナで、少しホッとした俺である。


「…もうちょっとだけ寝させてくれないかしら?」

「はいはい。それは街の宿に帰ってからにするよ」

「ムゥ…」


 俺は、座り込み不退転の姿勢を見せるエリーナを引き摺り、フローグの街に帰った。




「はい、これどうぞ」


 俺は、どんとボロスの首をカウンターに乗せた。そして、他のワイバーンの奥歯を乗せる。討伐した証拠としてだ。もちろん、ワイバーンの死体は、全て回収してあるが、ここで出す分にはいささか大きすぎる。なので、討伐証明となる奥歯だけを置いた。

 俺の出したものを見たキャサリンは、青ざめた顔で俺とエリーナを奥に連れて行った。

 しばらく連れて行かれた応接室で待っていると、慌てた顔をしたキャサリンと、どこか疲れた様子のギルマスが入ってきた。


「おい、本当に本当なのか?」


 開口一番の言葉は、それだった。どうやら、本当に倒したのか疑問に思っているらしい。


「さっきからそう言ってますって…」

「ふぅむ…」


 ギルマスは、まだ俺が倒したことを信じていない様子だった。

 でも倒しちゃったのは事実だし、嘘をついても、メリットないからなぁ。まあ、本当の意味で倒したのはエリーナだけれど。


「…じゃあきくが、どうやって倒した?」

「えーと、俺の相棒(パートナー)に頼んで?」

「まぁっ!ルーくんが私をp!」

「ちょっと黙って」


 その後、根気よく説明して、納得してもらった。話し合いは変わり映えしないので、割愛させてもらう。最終の決め手は、俺のマジックバックの家紋とだけ言っておく。

 と言うわけで、報酬の金貨360枚と大金貨90枚を受け取り、俺たちはギルマスの部屋を後にした。ワイバーン36体よりもボロス1体の方が価値が高いってなんだよと、改めて思った。

 ホールに戻ってギルドを出ようとした時、後ろから声がかかった。振り返ってみると、ガラと頭の悪そうな連中が4人いた。みんな一様に、エリーナを舐め回すように見ている。

 気持ち悪いな。

 その内、そいつらが気色の悪い笑みを顔に貼り付けて近寄ってきた。


「おいコラ、てめえらいい気になってんじゃねぇぞ、おお?」

「はぁ?」


 巫山戯たことを抜かす馬鹿共に、俺は心底呆れ返った。

 こいつらの顔は見たことがないから、今日か昨日この街にきたんだろう。だから、冒険者ギルドの人間が『こいつらバカだな』という視線を向けている真意にも気が付かない。

 

「俺たちが必死こいて魔物と戦っている間に、お前らは不正してボロ儲けってか?」

「調子乗ってんじゃねえぞ。今すぐその金置いていけや」

「それが無理っつーなら、おい、女ァ!テメェが俺たちを楽しませろよ?」


 俺が何も言わないのをビビっていると判断したのか、畳み掛けるように言う男たち。ただ、最後の男の発言が、俺の琴線に触れた。

 俺のまとう雰囲気が変わったことを悟った幾人かの冒険者たちは、そそくさとその場から離れていく。それが正解だ。


「いきすぎだよ、お前ら」


 俺は、短くそう言った。驚いた。自分の発した声の低さに。


「舐めんじゃーー」


 俺の一言が気に障ったのか、男の1人が俺を殴ろうと腕を振りかぶった。

 その次の瞬間、ビシャッという音と共に、血飛沫が舞う。

 俺に襲いかかった男の腕の肘から先を、切り飛ばしたのだ。もちろん、手刀で。俺は隙を作らず、ヤクザキックを放ち、男を壁まで吹き飛ばす。男は、壁に埋まってようやく止まった。

 男はその一撃で意識が消え去っていた。それどころか、もはや瀕死であった。

 他の連中が呆気に取られているうちに、俺はもう1人の男の懐に潜り込み、顎を思い切り殴り気絶させる。多分、顎の骨も一緒に逝っただろう。


「クソッタレ!ジースをよくもっ!」

「遅いわ、ボケ」


 激昂して理性が吹き飛び、光り物を抜いた男の背後を瞬時に取り、頭を掴んで思い切り地面に叩きつける。頭を地面にめり込ませた男は、ぴくりとも動かなくなった。大丈夫、殺してはいない。


「ひ、ヒィッ、やめろっ!」

「お前はエリーナで楽しむ発言したよな?絶対に、許さない」


 俺は手刀で、男の脛から先を一気に切り飛ばした。歩行能力を失った男は、その場に崩れ落ち、激しく地面と激突した。


「お、俺の足が…足があああっ!」


 醜く悲鳴を上げる男。足ぐらいでギャーギャー喚くなよ。お前の発言はそんなチンケなもんは比べもんにならないくらい重たかったんだから、安いもんだろうに。

 俺は、ゆっくりと、けれど確実に男に近寄っていく。


「や、やめてくれ…お、俺が悪かったから…」

「ダメに決まってるじゃないか」


 男の許しを請う言葉を一蹴し、その頭を床ごと踏み抜いた。

 もちろん殺さないように手加減して、だ。男の目はぐりんと回転し、意識がなくなったことを示した


「ふぅ、これに懲りたらもうちょっかい出すんじゃないぞ?」

(ルーくん…かっこいい…)


 全て終わらせた後、エリーナが何か呟いていた気がしたが、聞こえなかったので、あまり深く考えないようにした。どうせ大したことじゃないだろうし。…いや、大したことかもしれない。

 その後、ギルドの修繕費諸々を支払って、俺たちはギルドを後にした。男たちをボコしたことについて、何かしらの罰則が適用されるかと思ったが、その場に居合わせた人たちが証言してくれたので、今回の騒動は一方的に相手が悪いということで片が付いた。

 …無理やりだけど、なんとかなったな。

 冒険者ギルドを出た頃には、もうすっかり日が落ちて、真っ暗になっていた。

 俺たちは足早に宿に戻り、晩御飯を食べて眠りについた。

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