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7話 冒険者になりました

 おはよう。昨日の風呂では散々な目にあった。やれ前向けだの、やれ背中流すだの…もう次からは絶対に1人で入ろう。

 さて、気を取り直して。今日の目標は冒険者登録をして、冒険者になることだ。ちゃっちゃと偽装身分証は作っておいて損はないし、食い扶持稼ぎにもなるしね。

 もちろん、エリーナと一緒に。パーティーも組むつもりだ、エリーナと。ソロでも良かったんだけど、何かしらの鎖でエリーナを縛っとかないと危ない気がしたのだ。気休めにしかならんかもしれんが。

 昨日風呂でそのことをエリーナに伝えると、『2人きりのパーティー…これはもはや結婚じゃないかしら…ふへへ』などと意味のわからないことを言って顔を赤らめていた。早まったか。いや、公衆の面前で痴態を晒さなかったからよしとしておく。

 取り敢えず、冒険者ギルドに行ってみよう。


「キャサリン、久しぶり!」

「あっ、お久しぶりですルーク様!」


 俺の言葉に返事をしたのは、ここフローグの街の冒険者ギルド受付嬢、キャサリンだ。実はこのキャサリン、うちにメイドとして働きにきていた。多分、俺が喋れるようになった4歳ごろのことだろう。その後、ここへの就職が決まって辞めていった。

 久々に顔が見れて俺としては嬉しい限りだが…俺の後ろで凄まじい殺気が漏れてきているから、登録は手短に済ませよ。


「冒険者登録したいんですけど」

「うーんでも、ルーク様はまだ5歳…」


 あれ、気が付いてないの?嘘だよね?背も伸びて、ツノまで生えてるし、なんならガッツリ目があってるよね?


「え、いや、あの、え、俺って人間のまま?」

「ふーん、え?」

「え?」

 

 もしかして、本気で気がついてなかった?

 もう一回言うけど、背もかなり伸びたし、ツノまで生えてるのに?


「あ、本当だ…よく見たら背も高いしツノも生えてる…」


 本気で気づいてなかったんだ…目までバチこりあってるのに気づかないとかあるんだ。

 なんかもう、怖いよ、キャサリン。屋敷にいた時から確かに『ちょっと抜けてるな』とは思ってたけどさ。

 ひとまず、それはおいておくとして、冒険者登録を済ませてしまおう。


「ではこの書類に、名前と種族、希望する職業を書いて、この部分の針を指に刺してください。それで登録は完了です」

「分かった。これでいい?」

「大丈夫です。ではお預かりしますね」


 そう言われたので、書類を渡すと、変な機械でプレスされた。ちなみに、偽名はマティスとした。なんとなくの思いつきである。

 プレス後、キャサリンがその機械からカードを取り出し、俺に渡してきた。


「これがギルドカードです」

「これが…」

「ルーク…マティス様とエリーナさんのランクは最低ランクの8となっています。依頼は、ひとつ上のランクまで受けることができます。また、各ランクで一定の成果をあげると、次のランクに昇格できます。ですが、ランク4以上は試験が必要になりますので注意してください。また、一定期間依頼を受けなければ、登録が抹消されますのでご注意ください」


 なるほど、わかりやすい。聞いた話だと、ランク7に上がるまでは1ヶ月に1回は依頼を受けないといけないから、今から受けに行こうかな。


「あ、それと、パーティー名を決めておいてください」

「パーティー名か…」


 どうせなら、かっこいいのがいいな。


「ここはやっぱり、私とルーくんの名前を取って、エリルークなんてーー」

「却下」

「ええっ!ルーくん酷いわ!?」


 任せたらなんか微妙ななネーミングになるからダメだ。

 そうだな…竜とドラゴノイドのパーティーだろ?

 今後世界中を冒険して旅したいし、俺の家系が竜と関わってるから、竜の旅団(ドラゴニック・ブリゲイド)とかどうだろう。なかなかいいんじゃなかろうか?全開とまではいかずとも、厨二病をうまいこと織り込めている気がする。


「いいわね。私もそれ、気に入ったわ!」


 提案してみたらエリーナも気に入ったようで何より。


「では、竜の旅団(ドラゴニック・ブリゲイド)で登録させていただきます」

「お願いします」


 よし、これでギルドの登録は完了だ。どうせこの後することもないし、適当な依頼を受けるかな。早いとこ稼げるランク帯まで上げておきたいしね。

 俺たちは、説明を受けたクエストボードの前に行き、クエストカードを見漁る。


「これなんかいいんじゃないかしら?」


 エリーナがとあるカードを指差しながらそう言った。指を差した方を見ると、“ドラゴンの種類調査 報酬金貨30枚 討伐した場合は討伐数に応じて追加報酬あり ランク5”と書かれたカードがあった。

 確かに、竜であるエリーナならばちょちょいのちょいだろうが、ランクがなぁ。俺たちは今の所ランク8だしなぁ。

 ダメ元で聞いてみるか。


「ねぇ、キャサリン、これ行こうと思うんだけど、どうかな?」

「えっと…ランクが高いし危険です!ダメですよ!」

「でも、このエリーナって僕の契約竜だから大丈夫だと思うよ?」

「え?」


 俺の告白に、キャサリンは目を見開いてエリーナを見た。


「本当ですか?」

「本当」

「絶対秘密ってわけじゃないけど、なるべく漏らさないでね」

「心得ました」


 それを聞いたキャサリンは、うーんと少し悩んだ後、わかりました、と言って、俺たちに依頼に行くことを許可してくれた。特例許可というのがあってそれを使ったらしい。キャサリンには感謝しないと。

 よし、許可とおおまかな地図ももらったし、早速出発しよう。俺たちは、竜の生息域調査の依頼に向けて出発した。




 生息地域は、フローグの街から東に20キロくらいの大渓谷にあった。この世界のドラゴンは、谷間とか巨大な窪みに住むのが好きなんだろうか?

 そんなことに考えを巡らすよりも、先に依頼をこなそう。どうせ後でエリーナに聞けば解決することだ。

 そう思っていると、エリーナが、俺の首根っこを掴んで渓谷に飛び込んだ。うん、血迷ったかと思ったよ。

 渓谷の底に無傷で着地すると、エリーナは大声で叫んだ。


「ウェルイゴの大渓谷にいる私の子らよ!集まりなさい!」


 鼓膜が破れんばかりの声量だった。骨の髄から震え上がるような振動を伴って声が駆け抜けていく。渓谷なんだから音の反響とかも考えて欲しい。


「オオ、コレハコレハ…エリノーリジーンサマ」

「ゴキゲンウルワシュウ…」

「コノヨウナバショニ、ナニカゴヨウジデショウカ?」


 しばらくして、そう言いながら3体の竜が現れた。

 色から判断して、それぞれ、青竜(ブルードラゴン)緑竜(グリーンドラゴン)赤竜(レッドドラゴン)だろう。

 

「ここにいる竜の種は貴様ら3種で全てか?」

「ソウデゴザイマス」


 それを聞き出したら、エリーナはこちらに向いて、グーサインを出した。

 どうやら依頼完了のようだ。


「あ、そうだ。貴様らの仲間でつい最近死んだ者はおるか?」

「オリマセン」

「そうか、ならいい」

「イッタイナニヲナサルオツモリダッタノデスカ?」

「大したことじゃない。私自ら弔ってやろうと思っただけだ」


 絶対嘘だ。

 だってこの依頼、竜の討伐数により報酬上乗せされる依頼だもの。

 絶対死体もらった後笑顔でギルドに差し出してるよ。


「トコロデ、ソチラノニンゲンハ?」

「ドラグローマの血筋のもので、私の…その…なんだ、旦那様(パートナー)だ」

アイボウ(パートナー)デスト!?」

「コレハオイワイガヒツヨウデスナ」

「ナニカゴイリヨウハアリマスカ?」

「そ、そうだな、貴様らの剥げ落ちた鱗とかはないだろうか?」

「スグニトッテマイリマス」


 パートナーって、言い方があるでしょ、もっと。しかも、なんでそんなに顔赤らめてるのよ。

 確かに、俺とエリーナは相棒(パートナー)で間違ってはないけどさ。

 そのあとは、竜たちの持ってきてもらった鱗を父にもらった収納袋に詰め込み、ちょこっと渓谷で素材の採集をしてから、ギルドに戻った。




「キャサリン、帰ったぞ!」

「お帰りなさい、ルーク様、ご無事で何より…」


 明らかにホッとした声音でそう言ったキャサリン。


「調査報告はこれだよ」


 何もなかったかのように、俺は(エリーナが)調べた頭数と種類を書いた紙をキャサリンに差し出す。


青竜(ブルードラゴン)が19匹に緑竜(グリーンドラゴン)が23匹、赤竜(レッドドラゴン)が14匹ですか…思ったよりも多いですね」

「あ、あと、これどうぞ!」


 俺は、マジックバッグから、赤竜の鱗(レッドスケイル)38枚、青竜の鱗(ブルースケイル)52枚、緑竜の鱗(グリーンスケイル)83枚を取り出して、キャサリンに渡す。


「討伐はできなかったんだけど、固まって置かれてるところがあったから、持って帰ってきた」

「こ、これは…ざっと見積もっただけでも、魔銀貨(ミスリルコイン)20枚分の価値はありますよ!」


 み、魔銀貨(ミスリルコイン)20枚…日本円で大体2000万円……

 これは、ヒャッホウ案件なのではないだろうか。

 前に父さんから餞別で貰った金貨も残っているうちに、財布がさらにあったかくなった。


「ギリギリ全て買い取れるので、買い取っちゃいますね」

「ありがとう、キャサリン」

「でも、その前に、ギルドマスターに会っていただきます」

「なぜ?」

「こんなものを持ち込んできたからですよ」


 …納得。

 そもそも、竜の危険度はランク4以上が常。そんな危険な魔獣の鱗をこんなたくさん持って帰ってきたともなると、一大事にもなる。

 俺とエリーナは、キャサリンについて行って、ギルドマスターの部屋に通された。


「お前が、ドラゴノイドのルークか」

「お前?」

「っ…!」


 やめて、エリーナ。

 ギルドマスター、なかなかにゴツメの渋いおっちゃんなのに萎縮して涙出ちゃってるから、やめたげて。


「そ、それで、どう言ったご用件で?」

「あ、ああ。君とその仲間が、あの竜の谷の調査依頼を達成したと報告がーー」

「仲間?私はルーくんのお嫁さん(パートナー)よっ!」

「ひっ!」


 エリーナ、ちょっと黙ろうか。

 話が進まないからさ。

 あとでいちご味のアイス作ってあげるから、ね?

 

「それで、俺たちを呼んだ目的を教えていただきたい」

「ああ。ズバリ言う。追加報酬を与えようと思うのだ」


 俺がエリーナから漏れ出る圧を押し留めて、話を進めた矢先、一度表情をリセットしたギルドマスターがそんなことを口に出した。

 俺が不審に思っていると、それに気がついたギルマスが、説明をしてくれた。聞いたところによると、あの依頼は塩漬け案件で、いつまで経っても消化されなかったらしく、少し前から、依頼達成で報酬を上乗せするようにしていたのだとか。

 流石にそう言われて、俺も納得。追加報酬の金額を聞いてみると、竜の鱗(スケイル)を買い取って金がないため、ランク2つ分の昇格が追加報酬となると言われた。

 俺たちにこれといって不都合はなかったので、受けることにする。


「分かりました、受けます。エリーナもそれで良いよね?」

「私はルーくんと一緒ならなんでも良いわよ」

「てことなんで、よろしくお願いします」

「恩に着る」


 そんなこんなで、俺たちは、ランク6に上がることができた。

 よーし、これからも依頼を受けまくってたんまり稼ぐぞ!

 俺はそう心に決めたのだった。

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