表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6話 フローグの街

 あれから数十時間のうちに、俺は完全にドラゴノイドになってしまった。分かりやすい変化といえば、身体能力が以前変化を感じた時の比じゃないくらい上昇したことや、肉体年齢がおよそ12歳になったこと、その気になれば翼を出したり、鱗を出したりできるようになったことかな?

 やばい。なにがやばいって、これ、全部1週間の間の出来事だということが。たったの1週間で7年分歳を取ったって、成長速度が凄いでは片付けられないだろう。

 ま、うだうだ言っても仕方がないから、愚痴はここまでにしよう。早いこと成長できて困ることもない。

 さて、俺たちが旅に出てからすでに1週間弱経過している。どれだけのろのろ歩いていてもそろそろフローグの街が見えてくる頃の筈だが…


「あ、ルーくん!遠くに街が見えるわ!早く行きましょう!」


 お、ようやくか。エリーナの言った通り、確かに、街道の先に街が見える。遠目でも分かるくらい大きな壁に囲まれた都市だ。

 ふと横を見ると、つい数秒前までいたエリーナの姿がない。辺りを見渡しても、特にそれらしい痕跡もない。前を見てみる。あっ、アイツ、全力で走っていってる。

 アレは1人にしたらいけないやつだということを俺は知っている。俺は猛ダッシュでエリーナの後を追った。




 はぁ、はぁ、なんでこいつは息が上がってないんだよ。軽く3キロはあったぞ。俺が肩で息をする横で、エリーナは涼しい顔をして目を輝かせていた。

 街の入り口に辿り着いた俺たちは、入街検査を受けるため、街の入り口である門に向かった。


「もう、私とルーくんの身辺検査をするなんて、身の程知らずにも程があるわね!」

「どうどう。ステイステイ。落ち着いて。あとで美味しいデザート作ってあげるから」

「本当に?じゃあ許すわ」


 検問を受けると伝えたら、エリーナが目に見えて不機嫌になったので、宥める。デザートだけで機嫌が直るんだから、ちょろくて助かった。

 こんなのでも一応竜の始祖らしいから、刺激しすぎるとまずいのだ。俺は門兵のところまで行き、検問を受けることにした。幸い、並ぶ人はいなかったので、せっかく直ったエリーナの機嫌がまた崩れると言うことはなかった。


「どうぞー」

「はーい」


 門兵の声に従い、俺とエリーナは、検問の場所まで行く。そこで、門兵の前で立ち止まった。


「ええと…お、お前は…!?」

 

 その門兵が俺の顔わ見るなり、ガチガチと震え出して、武器を手に携えた。そして大声で、『魔族襲来、数は2!総員、迎撃準備!』と叫ぶと、騎士団詰所からわらわらと騎士たちが剣を手に出てきた。人を魔族呼ばわりするとは失礼な。

 ほら、俺の隣でエリーナがガチギレしてるぞ?この全身から溢れ出る真っ赤なオーラが見えないのか?それ以上刺激したらまずいって!


「あ、あのー、なんで俺が魔族なんですか?」

「しらばっくれるな!そのツノ、魔族の証だろうが!」


 は?ツノ?俺は頭に手を伸ばしてみた。あった。右側頭部から前方にかけて、1本、うねるような形状をした太いツノが。

 俺は、ジト目でエリーナを見る。そして、ツノのことを聞いた。


「なあ、エリーナ。このツノ、何?」

「ん?それね、私の眷属である証よ」


 余計な真似しやがってほんとにぃ…

 赤いオーラを吹き出しながら、とても優しく答えるという器用な芸当をして見せたエリーナ。そこだけは普通にすごいと思うが、現実逃避をするのはやめておく。今は疑惑を晴らすのが優先だ。


「お、俺は魔族じゃ有りません!」

「誰が信じるか!」

「そ、そうだ!これを…」

「なんだそれは?」

「身分証です」


 俺は、マジックバッグのドラグローマの家紋を見せつけた。冒険者には偽名で登録しようとは思うが、この家紋、あると何かと融通が利いて便利なのだ。


「それは…ドラグローマ家の…」

「そうです。ですのでーー」

「身分詐称と窃盗も追加だ!お前たち、取り押さえろぉ!」


 どうしてそうなるんだよ。俺が頭を抱えていると、今まで静かに怒りを煮やしていたエリーナが動いた。即座に危険と判断した俺は、すぐさまエリーナにストップをかけに入るが、間に合わない。

 門兵たちよ、御愁傷様。恨むなら少しもこちらの言い分を信じなかった自分を恨んでくれ。


「おい、貴様、私のルーくんが身分詐称と窃盗をするわけがないじゃない?今すぐ訂正しなさい」

「ひっ…!」


 驚くほど低い声でそう詰め寄るエリーナ。恐怖で脂汗をかきまくる門兵をよそに、エリーナは止まる気配を見せない。


「それに、ドラゴノイドは魔族には属さない、亜人種のはずよ?」

「ど、ドラゴノイドっ!?し、失礼しました!わ、私が悪うございました!も、もう、お、お通りいただいて結構でーー」

「五月蝿い、黙らっしゃい!私の可愛いルーくんに冤罪をかけておいて、許されると思っているのかしら?」

「ひっ、た、助けーー」


 俺に冤罪をふっかけてきた衛兵は、エリーナの恐怖に対する涙目になっている。ふと見てみると、股間から暖かい液体が漏れていた。

 自業自得ではあるが、他人の目のあるところで漏らさせてしまったことに対して多少の罪悪感を覚えた。流石に見ていられなかったので、助け舟を出す。


「それで、俺は入れます?」

「はイィっ!わたっ、私が…税金も納めておきますので、そのまま行ってください…!」


 ガクガク震えながら、エリーナにいじめられていた門兵が言った。通行の許可をもらった後、その場にい続けるのは申し訳なかったから、そそくさとお暇させてもらった。

 まあ、一悶着はあったが、無事街に入ることに成功した。

 

 さて、俺のツノも翼と同じように出し入れできると思ったのだが、無理らしい。

 翼が良くてツノがダメな理由がわからんが、それに対して文句を言っても後の祭りだ。もう気にしないようにした。

 一応門兵に入街許可証をもらってきたし、多分大丈夫。街を見て回る途中、見回り中の騎士に目をつけられたが、それを見せたらさっさと引き下がっていった。


「それで、美味しいお菓子を作ってくれるのよね?」

「へいへい、作りますよ。何がいい?」

「そうねぇ、何か甘いものが食べたいわ」


 甘いものか。久しぶりにあれが食べたい。

 そう、アイスだ。

 となると冷凍庫が必要になってくるわけだが…それは物質創造の魔法で作ればいいか。作った冷凍庫がバレるわけにもいかんし、人目につかない場所の確保の方が優先だな。


「じゃあ、先に宿を取ろうか」

「ええ!早く行きましょ!」


 首から入街許可証をぶら下げ、街中を練り歩くこと数十分、宿を見つけることができた。富裕層御用達の高級宿、マスカベーティ。

 一般客室は王城の一室かと見紛うほどに豪華。しかもその上に、それよりもさらに豪華なスイートルームもあるんだから、いかに贅を尽くして作り上げたのか、そして、いかに金をむしり取るために作られたのかがわかる。だが、ここでいい。高い宿ってどこの世界でも共通してセキュリティが固いんだよ。まあ、父から聞き齧っただけだけども。


「すみません、スイートルームを取りたいんですけど…」

「ああ、はい、ですがお客様、ちゃんとお支払いできますか?」


 少し引き攣った顔で言う受付嬢。そりゃツノが生えて魔族に見えるんだから仕方ないか。魔族は人間と長い間争い続けているからな。

 それはいいとして、スイートはひとり大銀貨4枚。

 2人で8枚。

 俺は今100枚ほど持っているから、結構余裕なのだ。

 4日くらい泊まりたいな。


「じゃあ、これで」

「え、ええっ、だ、大銀貨32枚…す、すぐにご用意させていただきます。4日の宿泊でよろしいですね?」

「はい、それでお願いします」


 少しばかり周りの休暇中の金持ち連中の視線が痛かった。


 部屋は、筆舌に尽くし難いほど豪華だった。家具から調度品に至るまで、全てに金がかかっている。この世界の調度品の類は、どこかしらに工房の名前や作者の名前が刻まれているのだが、それが全部著名なドワーフだった。


「これ、ドラグローマの本家が経営してるんだって」


 ここに決めた理由は、それもあった。身内の経営するところならばまだ安心できる。他領に出展できるほどに規模になっているとは思わなかったが。


「ふーん、ルーくんの血筋の本筋がねぇ。いい商売してるじゃない。あの三男坊は気に入らないけど」

「あれ、知ってるの?」

「ええ。祭壇で起きたことは全て把握してるの」


 そうだ、腐ってもコイツは無限竜、竜の始祖なんだった。

 忘れていたぜ。


「それはそうとルーくん、おやつ作って欲しいの」

「はいはい、今作るよ」


 今回は、生前よく作っていたバニラアイスにしよう。


 材料は、グラニュー糖、牛乳、卵に、生クリーム、そしてバニラエッセンス。

 今回は量が欲しいからちょっと材料を多めにして作ろう。

 まずは、ミキサー(物質創造の魔法製)にグラニュー糖を入れ、その上から牛乳を入れる。そこに卵、生クリームも入れる。 材料を入れ終えたら、再びミキサーにかける。 しっかりと混ざってから、金属トレイに移す。冷凍庫に平らな場所が無いなら大きめのタッパーに薄く広げておいても大丈夫だ。 その後、バニラエッセンスを振る。 あらかた終わったら、様子見しつつ、都度混ぜていく。仕上がった後の口当たりが良くなるから、固まりも潰しておくと良い。 カチカチに固まる前に、必ず混ぜておくのがコツだ。 大分固まったら、平らにするよりも崩したままのほうが、つい時間を置いてしまっても食べやすくなるから、少しばかり崩しておこう。


「よし、できた!」


 結局ものになるまで、1時間ほどかけてしまった。エリーナ不機嫌になってないかな。


「ん?できたの、ルーくん」

「できたできた」


 内心不機嫌になっていなかったことにホッとしつつ、俺はアイスクリームを皿に盛り、エリーナに出してあげた。


「これは乳でできてるのかしら?いやでも、すごく甘いし冷たいわ!」

「それは良かった」

「あら、もう食べちゃった…ねえ、ルーくんまだある?」

「あるよ」


 俺は今度は、練乳をかけて出してあげる。


「この白くてトロッとしたのも乳かしら」

「そう。練乳っていうんだ」

「美味しいわ。ねえルーくん、私、これ気に入ったわ。また今度ちょうだい」

「いいよ。今日はもう日も暮れるし、お風呂に入って寝ちゃおうか。明日したいこともあるしね」

「そうね、じゃあルーくん、一緒にお風呂とやらに入りましょう!」

「うん、そうだ…ね……?」


 今この駄竜なんて言った?一緒に風呂に入る?

 ファっ?


「いや、なんで?」


 ほんとになんで?駄竜さんあんた自分の体が割と男の欲望を刺激するって気づいてますか?!


「だって、私、お風呂がどんなのか知らないし…」


 そっか、知らないなら仕方がない、とはならないよ?

 

「もう、そんな細かいことは気にしないで、ほら、ルーくん、お風呂行くよ!」

「いやっ、ちょ、まって、あっ、アアアアアアアッ」


 その日俺は、何かを失った気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ