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5話 おや、体が…

 お、ジャイアントボアだ。

 ジャイアントボアとは、その名の通りでかい猪の魔物である。肉は美味で、貴族の食卓にのぼることもある。


「水圧カッター!」


 俺の魔法がジャイアントボアの脳天をぶち抜いた。結構な距離離れていたが、さして問題なく貫通するあたり、物質創造のヤバさが窺える。

 それは良いとして、飯だ、飯。昨日の晩はまともに食ってなかったからな。


「エリーナ、ご飯にするから、手伝ってくれない?」

「え?料理の手伝い…?私料理なんてしたことないわよ?」

「ああ、解体の方」

「解体ね?任せてちょうだい!至極之竜(オリジン)…」

「ストップ。ステイステイ」


 あの獲物ごと地面を消し飛ばした攻撃を放とうとしたので、咄嗟に制止をかける。確かに解体手伝ってとは言ったが、何も粒子レベルに解体してとは言っていない。

 俺に止められたエリーナは発動途中で止められて不機嫌そうだったので、とりあえずブレスはお空に向けて放ってもらった。なんか中空で爆発したが、気にしないことにした。

 そんなエリーナさんは置いておいて、俺は、死体を吊り下げるフックや台なんかを物質創造で創り出し、ジャイアントボアを掛けた。結構重たそうだったが見た目に反して案外軽かったので、苦も無くフックに吊り下げることができた。

 その後、慣れない解体だったのでだいぶスプラッタな光景になったが、なんとか解体を終えた。

 肉の準備ができたら、一部をマジックバッグに入れ、残りを料理することに。以前食べた感じだと、豚肉に近かった感じがしたので、少し厚く切って豪華版トンテキにしようか。

 幸い、大学では一人暮らしをしていて、料理には自信がある。俺は、キッチン用品で必要なものを物質創造で作り出していった。




 というわけで作りました、タレから付け合わせまで。いやぁ、大変だった。素直にトンテキのタレを作り出しておけば良かったと何度思ったことか。

 まあ、今それを言ったところで後の祭りであるので、今後は料理に関する創造物質の話題には触れない。


「まあ、美味しそうな匂い…普段は生のお肉を食べていたけど、料理するとこんなにも美味しくなるものなのね!今度からもお願いするわね。そのうち料理もしやすくなるでしょうし」

「は?それってどういう…」

「はーい、おかわりよ、ルーくん!」


 ちょっとエリーナの言っていることがわからない。そのうちってなんだ。めちゃくちゃ怪しい。

 追求しようとしてものらりくらりと躱わすあたり絶対に何か隠している。けどそれ以上に問い詰めようとしても、まるで相手にしてくれなかったので、俺は諦めて自分のトンテキを焼いた。

 飯を食い終わって腹も膨れたところで、昼寝タイムだ…エリーナだけ。俺とエリーナが契約してからまだ少ししか立っていないが、俺はすでにこの竜はもしかしたら竜の始祖ではないのではないかと疑っている。

 エリーナは俺の作り出した寝具にくるまって気持ちよさそうな寝息を立てているが、俺は見張りだな。あれ、おかしいな。俺は一応竜使いで、竜にお願いして使役する立場なんだけどな。


「…もう食べられない」


 やけにはっきりとした寝言が耳に届く。もうこいつ起きてるんじゃないのかと思ってしまう。

 これが竜の始祖、無限竜ねぇ。さっきも言ったが、絶対に嘘だと思う。

 と、いつまでも眠りこけるエリーナさんはほっといて、物質創造の検証をしたい。5歳までにあらかた検証はしたが、他にもまだやってみたいことが残っていた。

 例えば、重力を作り出したり。これはブラックホールを出現させられる時点でお察しだけれども。他には禁忌とも呼べる生命の創造とか?

 これも試してみる。が、さすがに無理だった。生物の形を型取りはするものの、それは動くことのない肉人形になるばかりだったのだ。正直、後処理のことを考えたらそっちの方が良かったので、結果オーライだ。

 …いかんな、最近どうも倫理のネジが緩んできている気がする。なんか色々としてどっと疲れてしまった。

 ふとエリーナの方を見ると、いまだに起きる気配もなくスヤスヤと夢の世界を旅していた。ぐうぐうといびきをかき始めたエリーナを見ていると、とつぜん俺の腹がなった。

 …小腹が空いた。

 とりあえずお菓子作ろう。疲れた時は甘いものに限る。いろんな検証の時に小麦粉やら何やらを出してあるから、それ使って何か手頃に作れるものを考える。


「簡単に作れて、なおかつ美味しいものだろ?」


 あ、あれなんか良いんじゃなかろうか。

 クッキー。

 生前はよく家で映画を見る時のお供に作ってたっけ。よし、じゃあ、クッキーを焼くぞ。

 物質創造のおかげで、熱調整の可能なオーブントースターも作れるし、チョチョイと構造を弄って、燃料を魔力で代用させることも可能だ。今更ながら物質創造なんでもありだなおい。

 急ピッチでクッキー生地を作り、寝かせ、オーブンで焼き上げる。ココアと通常の2種類と、その二つがチェス版のようになっているものを焼き上げた。結局、エリーナが起きるまでに、全部で大体100個くらい焼き上げることができた。焼きすぎとは言わせないぞ。

 ちなみに、作った後に物質創造で出せば良かったと思ったのは内緒だ。


「んっ…スンスン…何だか、美味しそうな匂いがするわね…」


 焼き上がってしばらく、エリーナが匂いに釣られて目を覚ましたようだ。


「クッキー焼いたんだ。エリーナも食べる?」

「いいの?食べるわ!寝起きに甘いものなんて最高ね」


 ずいと顔を寄せて、そう言ってきたので、皿に少し分けてとり、エリーナに渡す。ニコニコ顔で受け取るエリーナは、やはり竜の始祖には見えなかった。

 サクッという小気味良い音を響かせながら、エリーナはクッキーを次々と口に放り込んでいく。

 最後、食べ終えてから、口の周りについたクッキーのカスを舐めて、にっこりと笑った。


「ルーくんの作るお菓子は美味しいわね。次も何か作って欲しいわ」

「任せて。美味い飯は活力の源だしね」

「期待してるわね、ルーくん」


 お気に召したようで何よりだ。

 俺も少しばかりクッキーを食べて、残りはマジックバッグに入れて保管だ。さて、やりたいことも済んだし、そろそろ出発しよう。


「ん?何?もう行くの?」

「うん。目的の街まで遠いし、日が暮れるまでにもう少しくらい前進しておきたいしね」


 俺が準備を始めたのを見て、エリーナがそう言ってきた。その表情から、もう少し寝ていたかったことが窺える。

 あっ、今欠伸しやがった。朝弱いとかならわかるけど寝起き弱いはやめてほしい。昼寝とか気軽にさせられなくなっちゃう。

 流石に昼寝で時間を取られるわけにはいかないから、気分が戻るまで、俺が引っ張っていっている。大体1キロくらい。昨日の昼も、今日の朝も、俺が轍に沿ってエリーナをずり釣り引っ張った。

 ってあれ?その割には全然疲れてないな。体力が増えた?それとも筋力?でもどちらにせよ、その2つは少なくとも、5歳のそれではないことは確かだ。

 だって…


「フンッ」

「わぁっ、ルーくんすごい!!」


 大岩を軽々粉々にできるようになったから……いや、あり得んだろう。

 なんでだよ、俺はただエリーナを引き摺ってただけだぞ?何があったら大岩を素手で粉微塵にできるようになるんだ。

 それに加えて、足腰ならまだしも、何故に腕力が?今オーブンを持ち上げたのも純粋な腕の力だけだ。一歳足腰は…いや、訂正しよう。足腰もおかしい。なんで普通にジャンプしただけで10メートル以上跳ぶんだよ!?

 

「あら?効果が出るのが早かったわね」


 自白したなこの竜…一体俺に何をしたらこんな『効果』が出るというのだ。明らかな異常事態でしょうが。

 原因として怪しいのは、というか思い当たるのは、ねぇ。


「ん?どうしたの、ルーくん、そんなに私を見て。あ、もしかして私の美しさに見惚れちゃったかしら?良いのよ!もっと見ても!」


 やめろ。変な動きをするんじゃない。ちょっといやらしいんだよ。


「そんなんじゃないよ。ただ、ここ数日で俺の能力がすごいことになってるから、原因としてエリーナが考えられるなぁって思っただけ」

「そうよ。出会ったその時から私の魔力をフルパワーでつぎ込んだ甲斐があったというものよ。おかげで後少しでルーくんはドラゴノイドになれるんだから」

「は?え?ドラゴ…なんて?」

「ドラゴノイドよ。竜と人との混血種族なんて言われてるけど、実際は竜の魔力を多量に取り込んだ人間種なの。私の魔力を限界地まで取り込んだルーくんがなる種族よ」


 つまり俺は知らないうちに人間を辞めさせられたと。わかった。こいつはパートナーに報告もせずに独断専行で物事を決めちゃうタイプのやべえやつだ。絶対。


 詳しく聞いたところによると、俺に魔力を移して、エリーナの眷属としての原色(そういうものがあるという認識でいてほしい)のドラゴノイドにするためだった。眷属の寿命は主人に拠るらしく、俺とずっと一緒にいたいという願望を満たすためにやったそう。

 バカなんじゃねえのか?俺はそう叫んだ。せめてやるなら俺の許可を取ってからにしてくれ。


「でも…何か言っちゃうとルーくんがドラゴノイドになってくれないと思ったから…」


 目をうるうるさせて、少し震えた声でそういうエリーナ。なぜこの竜は俺にここまで懐いているのかという疑問は残るが、事前に説明してくれていれば了承したのに。


「もう事後報告はやめてね、エリーナ」

「ええ、もうやめるわ。目的は達成できたし」

「目的…達成……?っ!まさかもう…!」

「ええ!これからもずっと一緒よ、ルーくん!」


 どうやらもう手遅れなようだ。後少しって言ってたからまだ魔力許容量が残っていると思ってた。

 でも、一応、ドラゴノイドになるということは認めてしまったわけだし、俺は抵抗を諦めて空を仰いだ。





 俺はドラゴノイドになってしまったらしい。正確にはまだなっていないが、取り込んだ竜の魔力が変化の基準値を超えているから、ドラゴノイドになるのも時間の問題だとか。

 俺はもう割り切って考えることにした。竜に頼りがちになるところを自分の力で補えて、むしろ欠点がなくなった。そう考えるべきだ、うん


「もう済んだことだから責めないけど、他にどんな影響があるの?」

「成長が早くなったりするわね」


 はい見た目にモロ変化の出る影響きた。どのくらい成長スピードが加速するのかはわからないが、そんなに早まらないことを願いたい。

 俺はもうどうとでもなれという気持ちになり、引き続きエリーナを引き摺っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 多少の稚拙さがあるけど、自分個人としては面白い
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