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4話 旅路

「おはよう、ルーくん」


 目を開けると、ベッドにオリジン様がいた。朝からあの顔を間近に見れるとか、何のご褒美だろうか。うわっ、まつ毛長っ。

 …って、見惚れてる場合じゃない。挨拶しないと殺される…


「おはようございます、オリジン様…」

「もうっ!ルーくんたら。私のことは愛称のエリーナで呼んでって言ったのに…」

「す、すみません、エリーナ」

「敬語もダメ!」

「わ、わかったよ」

「うふっ、よろしい」


 そう言って満足げに微笑むエリーナさ…エリーナ。ちなみに本名は、エリノーリジーン・オリジンというらしい。まあ、そこは、“無限竜”エリーノリジーン・オリジンと一緒なのであまり衝撃はないが、姓まである竜は彼女だけとのこと。そこは竜の始祖特権だったりするのだろう。

 さて、エリーナさ…のことは一旦置いておいて、今日は俺の出発の日だ。昨日の今日で旅立ちっていうのはなんかちょっとおかしいが、それは話し合いの結果だからと素直に諦めることにした。

 えっと、用意は…昨日の夜したな。あとは着替え…俺は自分の着替えを引っ張り出して、さっさと着替えた。ちょっとした憧れから使用人に作らせた、探検隊のような外でも動きやすいような服装だ。あと、まるつばの探検家帽子をかぶって、赤いスカーフを首に巻く。

 馬車も馬も使えないから、徒歩で行くことになるし、服装としては完璧だろう。


「ルーくん、そのお洋服、かわいいわ!」


 使用人に出された紅茶を飲んでいたエリーナが言った。

 まあ確かに、ちびっ子が探検家の格好をする姿を見るのは、結構ほっこりするだろう。俺も前世甥っ子がやってんの見てほっこりしたものだ。

 ちなみに、エリーナに褒められて、俺の後ろについていたこの服を作った使用人も、嬉しそうにドヤ顔を決めていた。自分の作ったものを褒められて嬉しいのはよくわかるので、俺は何も言わずにおいた。

 そんなこんなで、旅の準備を済ませた俺は、父から大銀貨を100枚ちょっともらった。餞別だそうだ。さすが貴族家。餞別の桁が違う。

 俺はそれを受け取って、これも父から貰ったマジックバッグに入れる。この今住んでいる屋敷と同じくらいの体積が入る、便利魔道具だ。重量も軽減される優れもので、大きさもがま口の財布ほどである。中の空間は、時間経過もないらしい。

 便利だねー、ほんと。


「準備は済んだのかしら?」


 俺が一通り準備を終えたのを見て、エリーナがティーカップを机に置きながら聞いてきた。


「ああ、もう済んだよ」

「そう、じゃ、行きましょ。久々の人間の街だし、すごく楽しみだわ!」


 何か1人で舞い上がっているご様子のエリーナ。しかし、街か。

 俺も、この世界に生まれてからほとんど行ったことがないな。主に屋敷の立地という問題で。

 この際だし、エリーナと一緒に楽しむのも悪くないか。俺とエリーナは、ゆっくりと歩いて、屋敷から出ていった。


 家から1番近い街はフローグという街だ。近いと言っても馬車で2日かかる。

 隣のフェンレド侯爵領に位置していて、人口はフルベリア王国でも1、2を争う、大きい街である。ちなみに、うちの分家は領地を持っていない。というか、ドラグローマは本家以外領地を持っていない。そもそもの軍事力が強大なため、領地を与えてドラグローマ全体の力が王家や諸貴族の力を超えるのを防ぐためである。その本家の領地も、中規模の街ひとつといった具合だ。

 目的地の話に戻して、聞いた話だと、フローグの街は、交易都市が故に様々な国の食べ物が集まるという。

 

「じゃあ、今からそこに行くのね」

「そうそう。とりあえずそこでお金を稼ごう」

「あら?お父上の餞別があるのにお金を稼ぐと?」

「うん。いくら大量に金があっても、いつかは無くなるしね。今のうちに稼いでおかないと」

「でも、どうやって?」


 ふふん、俺はすでにこの世界に冒険者が存在していることを知っているのだよ!俺は街に着いたら冒険者登録して、冒険者としてやっていくつもりだ。もちろん、偽名での活動にする。一応訳ありの身の上なわけだし、本名登録は避けておきたい。

 ん?年齢制限?そんなもんないない。冒険者はある程度の強さが備わっていたら、誰であろうとなれるのだ。まあ、依頼や任務での怪我や死亡はギルド側は一切責任を負わないけど。

 でも、そのくらいの覚悟がないとなれないのが、冒険者という職業なのだ。だから、貴族がお遊びで冒険者になると、彼らから毛嫌いされる。俺が偽名登録したい理由のひとつでもあった。

 

「ところで、道中のご飯はどうするの、ルーくん」

「あ…」


 忘れてた…どうしようか。あ、道中出てきた魔物を狩ろう。街道が整備されているとはいえ、ここは普段あまり使われない道だ。魔物の1匹や2匹出てくるだろう。多分。

 調理器具や解体道具については入手の目処が立っている。

 その目処というのは闇魔法だ。闇魔法は、光と対をなす魔法とされているが、一般に、どこにも分類できない魔法の総称でもある。その中で、俺が見つけた物質創造も闇魔法に分けられる。

 作りたいものをイメージするだけの、簡単な魔法だ。というか多分、俺の扱う火炎放射や水圧カッターと言った魔法は全部これだ。要は屋敷内では全属性適性があると言われる俺だけど、本当は闇属性の適性しかなかったということである。

 調味料やらもこれで無限に手に入れられる。肉も作れるのだが、なんか気持ち的に肉の方はちゃんと狩ったほうがいい。魔力でできた肉なんて腹に溜まるかもわからんし。

 まあ、今飯のことを心配してうだうだ言っても仕方がない。今はこの旅を楽しもう。

 …と思ったらいきなり事件だ。


「あら、早速獲物ね。ちょっと私の力を見せてあげるわ、ルーくん。いくわよ、竜撃、至極之竜息吹(オリジンブレス)!」


 グレートディアーという魔物を見つけたエリーナが、活き活きとなんかヤバそうなのをぶっ放した。…やりすぎ、いくら何でも。出会い頭で虹色に輝く光線ぶっ放すとかどんな戦闘民族だよ。

 せっかくの獲物が、これじゃ地形ごと消し飛んでるじゃないか。


「どうかしら?ルーくん」

「いや、どうかしら?じゃないが」


 そのでっかい胸を張って、自分の成果を誇らしげに報告してくるエリーナ。けれども、明らかにやりすぎなので、褒めるということはせずにちゃんと怒っておく。

 まあ、竜の大渓谷で獲物にしていたのは、これでも原型を残していたのかもしれんが、ここは別の土地だ。そんな竜の始祖の攻撃を受けて無事でいられるほどの耐久性を備えてはいないのだ。渓谷基準で行動されたらたまったもんじゃない。

 俺は今後は切ぐれも気をつけるようにと注意して、創造魔法で今し方消し飛ばされた道を直してから旅を再開した。

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