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10話 生き残った者

2話目です

 俺とエリーナは、俺の作ったゴロッと肉のホワイトシチューにがっつくエルフの少女をまじまじと見ていた。

 とてもいい食いっぷりである。


「ん、おかわり?」


 おずおずと器を差し出してきたからそう聞くと、コクコクと頷くエルフ。俺はおかわりを皿についでやり、エルフの少女に手渡した。彼女は、満面の笑みで器を受け取り、その瞬間に、口いっぱいに頬張って、嚥下する。

 その度ごとに、彼女はとても幸福に満ちた顔をした。そんなに美味しそうに食べてくれるなら、作った甲斐があるというものだ。

 そうやって、彼女の口にシチューが吸い込まれていく様を見ていた時、俺の腹がぐぅ、と鳴った。ちょっと恥ずかしい。

 

「…俺たちも食べようか」

「ふふっ…そうね。私もこの匂いを嗅いでたらお腹空いてきちゃった」


 ということで俺たちも飯にすることにした。食パンを創造魔法で作った小さめのトースターでトーストし、シチューにつけて食べる。うーん、至福。シチューのしっとり感とパンのサクサク感がマッチしてマジで美味しい。

 …なにやら視線を感じる。ちらっと見ると、エルフの少女が、物欲しげな顔で食パンを見ていた。まあ、そりゃ、美味しそうなものを見たら欲しくなるわな。


「い、いる?」

「「うん!」」


 エリーナも便乗してきやがった。俺はエルフの少女に聞いたんだけどなぁ…まあ、美味いものは分け合わないとだな。それに、みんなで同じもんを食うってのも、なんかいい雰囲気になりそうだし(?)。

 俺は食パン4枚を焼き、それぞれに2枚ずつ渡す。受け取った瞬間に、2人は手でパンをひと口大にちぎり、シチューにディップして口に運んだ。


「美味しいわね!」

「……おいしい」


 おや、エルフの子が小さく美味しいって言ったぞ?さっきから全くといっていいほど喋らなかったし、喋れないものだと思ってたけど、喋れるんだな。

 そういえば、なんでこの子達は襲われてたんだろ?

 きついかもしれないけど、聞いてみるか。十中八九彼女は奴隷だろうけど、もしかしたら親元に返してあげられるかもしれない。


「ねえ、なんで君たちは襲われてたの?」

「…わからない。でも、わたしのおうちはもやされた」

「もやっ…え?」


 燃やされたとな?どういうことだ?

 親元に返すとか以前の問題では?


「多分、奴隷商よね。エルフは見目が美しいから、よく攫われちゃうの」

「なるほど…」

「それも特に、森の奥地なんかで暮らしているエルフなんか、街住みと違って足がつきづらいから、よく攫われるのよ」


 まあ、確かにそうか。奴隷なのはわかってたけど、エルフの奴隷事情までは知らなかったからなぁ…余計に辛い思いさせちゃったか。

 デリカシーが欲しい。


「そうなんだ…ごめんね……ねえ、君、名前わかる?」

「イスペランザ…村のみんなからはランザってよばれてた」


 ランザか…

 村に帰りたいか聞いてみると、村がもう無いと涙を浮かべて答えられた。家だけじゃなくて村も燃やされたんだそうだ。

 気まずい…


「なあ、ランザ、もしよければだけど、俺たちと一緒に来るか?」

「いいの?なぐったりしない?」

「しないよ」


 1番先に確認するのが暴行の有無って、この子の置かれていた環境がやばかったことが窺えるな。奴隷の扱いなんてそんなものなんだろうけど、やはり許せない。

 確かに、奴隷制度は現段階では必要な制度だが、少なくとも、奴隷だからといって無闇に暴力を振るうのはいただけない、というのが俺の考えである。

 

「エリーナもそれでいいよね?」


 連れていくにあたって、一応エリーナに確認をとっておく。


「もちろんよ!それに、ランザちゃん、めちゃくちゃ可愛いじゃない。いっそ私の眷属に…」

「それはダメ」

「なんでよ」

「眷属なら俺で十分だろ?」

「はぅっ!そ、それは告白と受け取っていいのよね?そうよね!」


 あ、やっべ、やらかした。

 これ以上下僕(しもべ)増やしても意味ないだろ的なノリで言ったんだけど、確かに告白に思えるようなセリフだ。…あかん、これあかんやつや。

 エリーナの目がマジな感じになった。なんか目からハイライトが消え失せて、完全に据わっちゃった。

 エリーナがその目で俺を捉えて、口を開いた。


「私も愛してるわ、ルーくんっ!!」


 そう叫びながら俺に抱きつき、押し倒してくるエリーナ。

 そんな光景をランザがシチューを無言で口に運びながら凝視するという、なんともシュールな絵面が展開された。

 ら、ランザ、目を閉じろ!そんなに凝視するんじゃない!や、やめろおぉっ!




 酷い目に遭った。あの後俺は、手刀でエリーナの顎を刈り、意識を奪った。完全な不意をつけたから良かったものの、少しでもそっちに意識が向いてたら、俺は今になってもエリーナから解放されなかっただろう。

 マジで、あと少しでも遅れてたらランザの前でえげつないディープキスされるところだった。

 前に1回あったんだよね。寝ぼけたエリーナが『ルーくん、好き』とか言ってぶっちゅうといかれたことが。

 だがまあこれではっきりした。エリーナは俺のことが好きだと。…ないわー。流石にないわー。

 いや、まあ、好かれること自体は嬉しいんだけどさ。ほら、エリーナって美人だし、ちょっと抜けてるところが可愛いし…ってああ、俺は何を言ってるんだ!?

 …あまり触れないでおこう。それが俺の精神を守ることになりそうな気がする。

 それよりもまずはランザだ。エリーナのことは後でなんとかしよう。


「わたしは、るーくんさんといっしょに、たびしたい」

「ルーくんさん…ああ、ごめん自己紹介まだだったね。俺はルーク。そっちで伸びてるのは、エリーナだ」

「ルーク…エリーナ…」


 何回か俺たちの名前を小声で呟いたあと、満足げに微笑むランザ。可愛らしいその笑顔に、思わずほんわかとしてしまった。

 例えるなら、アザラシの赤ちゃんがコロコロと転がっているのを見た時の気持ち?多分。


「んで、俺たちと一緒に旅をしてくれるんだっけ?」

「うん…!」


 フンスと鼻を鳴らし、俺に顔を寄せてくるランザ。

 ここまで澄んだ瞳見たことないんだけどっていうくらい綺麗なエメラルド色の目が、俺の目とピッタリあった。


「ありがとう。俺もランザが来てくれて嬉しい」

「〜〜っ!やった、やった!」


 こうして、ランザの同行が決まったが、やはり気になるのは、奴隷だったが故の衣服の汚れだろう。土埃を被って貫頭衣はどろどろ。おまけに襲撃の際に飛び散った血まで染み付いている。

 後、首輪と足枷が邪魔。


「ちょっとごめんね」


 俺はランザの首と足に手を伸ばし、首輪と足枷を引きちぎった。やっぱりこのパワー異常だ。明らかに鉄の首輪を豆腐を握り潰すように粉砕してしまった。

 ちなみに、奴隷の首輪には、異世界ものでありがちな爆発の術式なんかは刻まれていない。奴隷が覚悟を決めさえすれば、自爆テロができるからというのが理由だ。歴史上、実例が数度ある。

 まあいい。次は服だ。


「服、どうするかな…」

「お洋服くれるの?」

「ああ、あげるよ。可愛い洋服をね」


 それにしても、どんなのがいいのだろうか…

 今は少し肌寒い季節だし、そうだな、タートルネックのセーターに長ズボン、スニーカにベレー帽でいいかな。

 俺はそれを物質創造で作り出し、ランザに渡す。


「うわぁ、かわいい…これ、ほんとにくれるの?」

「もちろん」


 ぱあっと顔を輝かせ、ランザが服を受け取る。そして、なんの躊躇いもなく貫頭衣を脱ぎ捨てた。

 あら、立派だこと。何がとは言わないけど。

 着替えが終わり、ランザは上機嫌でクルリと1回転する。


「どうかな?ルーク?」

「は、はい、めちゃくちゃ似合ってます、可愛いです」


 気持ち悪いと罵ってくれて構わない。だが、勘違いしないでほしい。俺は事実を述べたまでである。


「うん……。ッ!あらあらまあまあ、ランザちゃん、可愛くなって…」

「エリーナ、私、かわいい?」

「ええ、ものすごく可愛いわ!」

「ほんとに?うれしいな!」


 気絶から目覚めたエリーナも、ランザの格好を褒めちぎった。

 かくして、旅の仲間が増えたのだった。

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