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人生ゲーム-嫁-

作者: 古狗

手に入れたばかりのカートリッジを差し込めば新しい人生が始まる

スリルと駆け引きに満ちたラブゲームをクリアしてエンディング(華燭の典)を迎えた私が次に挑むのはどんな人生だろうか

それにしてもエンディングと思っていた結婚式がラスボス(元恋人)現わる最終ステージと分かった時はどうしようかと思った

それも今となっては良い思い出だ


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「ペミ子さんこの埃は何かしら」

今日もまたコイツだ

この老婆はいつもそれだ

窓枠や手摺りに僅かばかりの埃を残しておく事で行き先を決める事ができる敵キャラ

そう分かってからも相変わらず腹立たしい

言葉は通じないようだ

問題は姑と名乗るコイツの倒し方だ

もう2年以上てこずっている

最初は油を引いた階段に誘導したり火の着いた囲炉裏に向かわせたりしたのだがどうにも上手く行かない

油をぴちゃぴちゃ舐めて「まーご」と鳴いたり囲炉裏の灰を巻き上げて高らかな笑い声を上げたりするだけだった

そして次の日には決まって何事もなかったかのように同じ事を繰り返す

続いて慎ましやかな態度や気を引くそぶりを試してみたが効果はない

先だってクリアしたラブゲームのノウハウはここにつながっていないようだ

思い切って随分昔にクリアしたお転婆田舎娘の放課後ステージで身に着けた技を使ったがこれも意味がなかった

風呂場におびき寄せてお尻から爆竹を腹一杯詰めてやったのだがビクともしない

蛙とは違うという事が分かっただけだ

ただ幸いお尻から爆竹はボーナスステージで使える事が分かった

少々難儀していた旦那というキャラだったが布団に誘い込んだところで手違いで目一杯爆竹を喰らわせてしまったのだ

ところがそれがキーですっかり私に参ってしまったアイツをようやく手懐ける事ができた

人生何が役に立つか分からない

これくらいにしておこう

今日は少し疲れた


SAVE


急に意識が遠のく感じがする

ツーンと鼻の奥が痺れて頭がキーンとする

わさびとかき氷だ

目の前のわさびかき氷が次第にくっきりとした輪郭を持ち始める

その向こうにしかめっ面の老婆が見える

「ペミ子さんわさびのかき氷てこりゃ怪っ体な代物やね」

「あんたもようこんなん見つけてきたわ」

少し答えを聞こうか

意識を遠くに集中して世界の答えを聞く

答えは答えは

撃ち放て

もう一度耳を澄ます

撃ち放て

はっきりとそう言っていた

指先に意識を集め老婆の額に撃ち込んだ

ギャッという叫びと共に老婆が飛び上がる

残念

外れだったらしい

何事もなかったかのようにぶつくさ言いながら老婆はわさびかき氷を食べ続けている

いたって平穏無事だ


SAVE


人生の鍵はいつもひょんな所に落ちている

2億8千万年も苦しめられた姑と名乗るこの老婆

その執着は墓にあった

自分の城/安息の地を永遠に支配しそこに安んじようというのだ

「ペミ子さん貴女は由緒正しき凹凸家の嫁なんだから」

「お墓には入って貰いますわよ」

2つの科白が繋がった

そうと分かれば簡単だ

姑の部屋を出て正面の窓枠から僅か数ミクロンの埃を少しずつ遠くに延ばしていく

鑑識の化学分析を要する程の埃も彼女なら見逃さない

うろんな目でよたよたと埃に導かれ歩いていく

自分の意思に見えて操られるがままに

「ペミ子さんこれは何かしら」

「ペミ子さんこの埃は」

「ペミ子さん」

「ペミ子さん」

埃は家の外へと続き畦道を通り過ぎ野原へと辿り着く

最後は深い穴だ

老婆が急に何かに怯えたように後ろを振り向く

すかさずペミ子は言う

「ここがお前の墓場だ」

そして穏やかな笑顔で続ける

「お義母さん」

松明を投げ入れると勢いよく燃え上がる

ゲームクリアだ

エンディングのクレジットが浮かび上がる

最後のクレジットは彼女に宛てたものだった

Special thanks: Ototsu Ogibo

壮大なゲームだった

大変な事だらけだったが今となってはいい思い出だ

私はペミ子

何物にも縛られない

磨き上げたテクニックが全て解決してくれる

何物にも縛られない

これがゲームである事にすら

いざとなったらカートリッジを外してしまえばいいのだから

新しいカートリッジでは警察の追撃を巧みに交わしそうしたらブタ箱で牢名主として君臨する

いつだって新しい生き方ができる

私はペミ子

いつだって止める事ができる

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