魔術実習
レティシアが王立学院に通い始めて、二週間目。
基本的に決められた時間割で授業が進められるが、新学期特有でこの週は少々特殊だった。
王立学院では、入学もしくは進学して二週目に「魔力判定」が行われる。魔術学院と違いここでは魔力は必須ではないが、王立学院卒業後の進路にも関わってくるため魔術関連の授業も豊富にある。その際、効率良く授業を行うためまず最初にどのくらいの魔力があるか生徒一人一人を判定し、班分けを行うのだ。魔力判定をした翌日からその週はすべて、魔術関連の授業で埋め尽くされている。
つまるところレティシアの得意分野なので非常に楽しみだった。授業内容は恐らくレティシアが娼館にいた頃独学で取得した程度なのだろうが、こっそり研究中のあれやそれやを試せないかな、と期待していた。
さて、レティシアたちはその「魔力判定」のため、広い校庭に集められていた。万が一何かあっても対処できるよう、屋内ではなく外でやるようだ。
「やあ諸君。今年も君たちに魔術が何たるかをお教えするレスターだ。よろしく頼む」
先日カミルと会話した通り、懐かしい顔がそこにはいた。お行儀良く整列している生徒の中からレティシアを見つけると、レスターは嬉しそうに微笑む。
レティシアもまた笑顔を返すと、彼はうんうんと数回頷いた。
「では、順番に判定を行うが―――この装置は最大十万までだ。去年の時点で十万を超えていた生徒は別の方法で計測するので、呼ぶまでまっているように」
なるほど、とレティシアは思う。ウィリアスタもアレクセイも十万などとうに超えているが、判定装置は最大値以上を計測してしまうと壊れるのでどうするのかと思っていたら、装置を使わずに計測するようだ。ウィリアスタたち以外にも数人、十万以上の生徒がいるようだ―――魔力量は平均で千以下内、千以上となってくるとそこそこ優秀、十万あればかなり優秀、の部類に入る。ちなみに、魔術学院に入る為の最低魔力量は百万で、国家魔術師ともなると測定不可の領域になってくる。
順番に測定され、去年より上がってて喜ぶ者、変わってなくて落ち込む者、さして気にしていない者と反応は千差万別だ。魔力量によって使用できる魔術もその威力も、更には術式構築の際重ねられる魔方陣の数にも影響してくるので将来魔術関連の仕事に就きたい者は王立学院と言えど魔力量は気にするらしい。
さすがに高位貴族しかいないクラスだけあって、魔力量ゼロの生徒はいないようだった。
「―――よし。では、次に既に昨年時点で十万以上だった生徒は前へ、ああ、ノーズフィーリア嬢も前へ出るように」
レスターが何を考えているのかさっぱりだが、名指しで呼ばれてしまったので渋々ウィリアスタと並んで前へ出る。去年いなかった人間が、しかも貴族ではないのに十万以上なのか―――と懐疑的な目を向けられている気がする。
レティシアの他に、ウィリアスタ、アレクセイ、エルネスティーヌと、見知らぬ令嬢一人と令息が二人、前へ出た。存外多い数に、意外と優秀な人材がいたりするかもしれない、思った。実際、わざわざ魔術学院から講師に来ているのはそう言った生徒を見つける為でもあるのだろう。
「……君がここにいる誰よりも―――何ならこの国で一番かもしれないって、バラしちゃえば?」
「冗談はやめて、ウィル」
「あれ?そいやリオネルは?」
「外だひゃっほーいって、どっか飛んでったわよ」
いつも肩にいる黒竜の姿が見えず不思議に思ったアレクセイが問うと、げんなりしながらレティシアは答えた。どうもあの黒竜は人間の授業がだいぶ退屈らしく、授業中はどこか気ままに飛んで行っては放課後戻ってくることが多い。
「さて、ここからはお楽しみの時間だ。皆楽しみにしていたんじゃないか?」
にやり、と笑ったレスターを見て、レティシアは物凄く嫌な予感がした。それを察知したかのようにレスターがレティシアを見て更に笑みを深める。
「具体的な方法は後程また説明する。まず、ここに残ったメンバーで魔術で戦ってもらおう」
途端、生徒たちがざわめきだす―――「素敵!王太子殿下が魔術を使うところがまた見られるのね」「アレクセイ様も中々腕が立つと聞く」「エルネスティーヌ様もお強くってよ!」と実に様々な声の中、「あの平民?は本当に大丈夫なのか?」という声も聞こえてきたレティシアは、うっかり殺さないよう気を付けよう―――と気を引き締めた。
「では、二人一組で戦ってもらう。対戦相手に希望はあるか?なければこちらで、と、ファーレンハイト嬢、希望が?」
レスターが説明し始めるや否や、真っ先に手を挙げたのはエルネスティーヌだった。彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべてええ、と頷きレティシアを見た。
「わたくしは彼女と戦ってみたいですわ。さぞかしお強いのでしょうから」
ウィリアスタとアレクセイ、どっちと組もうかなぁなんて考えていたレティシアは突然指名されて虚を突かれ、目を丸くする。
「……構わないけど……レスター……先生?いいんですか?」
「本人の希望なら俺は問題ないぞ。……ちゃんと手加減しろよ」
最後はレティシアにだけ聞こえるよう風に魔力を乗せ、声だけ届けてきた。そう思うのなら却下してほしい―――このメンバーでレティシアとまともに戦えるのはウィリアスタとアレクセイだけだ。手を抜く、というものは存外難しいのである。
その他の組み合わせ―――ウィリアスタとアレクセイ、令嬢と令息、残った令息二人になった―――が決まると、レスターがパチンと指を鳴らした。すると、四角い箱のようなものがそれぞれの頭上でぷかぷかと浮き始める。
「この箱を壊した方が勝ち。ちなみに、この箱は魔力で攻撃を加えていくと壊すのに必要な魔力量が減っていく仕組みだ。壊れた時にその際込められた魔力量が表示される仕組みになっている」
これは魔術学院で一年生の時にもやった方法だ。ただし、魔術学院では箱と一対一になり、逆にどんどん強化されていく。魔力が尽きるまでただひたすら破壊し続けなければならない。魔力量を上げる為の(地獄のような)訓練をうまく活用したようだ。
話を聞くに、去年もこの方法で十万以上の生徒は判定したようである。
「では、せっかくなので一組ずつやろう。最初は―――」
一番最初に令息二人、次いで令嬢と令息……と、順調に進められていく。二年生でも魔術実習の授業はあり、その中で戦闘訓練もあったのかそこそこ様にはなっている。レティシアから見れば赤子がよちよち歩きしているようにしか見えないが。
「―――よし、そこまで。いやぁ殿下、また腕をあげましたな。カールハイツもさすがだ」
ウィリアスタとアレクセイの戦闘は中々見物だった。父が師のため、アレクセイはそれこそ物心つく前から師事していたそうだが、魔力量はウィリアスタのほうが上だ。小手先が器用なアレクセイと知略的なウィリアスタは中々良い勝負だったが、軍配はウィリアスタに上がったようだ。
「今年は俺の勝ちだな、アレク」
「護衛対象が俺より強くてどうすんだよ……」
疲れた顔をしたアレクセイを見て、レティシアはくすりと笑う。出会った頃からこの二人は仲良しで、信頼し合っている。
「ウィル、にいさま。お疲れ様」
「くっそー勝ち逃げできると思ったんだけどな~」
「ふふふ。俺の方が一勝多いから、俺の勝ちだ」
どういうこと?とレティシアが問うと、入学当時既に十万を超えていた二人は毎年このような方法で判定していたそうだ。その際、交互に勝っては負けていたのだが、今年遂に決着が着いた、ということだった。
「……毎年、この方法でね」
「そう。まあ、だからこそレティを指名したんだろうね」
「誰のせいだと……!」
「俺のせいじゃないことは確かだよ?何もしてないからね」
確かにそれはそうなのだが、元凶は間違いなくウィリアスタだ。今も彼が屈んでレティシアの耳元に口を寄せて喋っているせいで、エルネスティーヌにはそれはもう非常に睨まれている。
「……ま、丁度良いかもね」
そろそろ色々と面倒になってきたところだったので、ここらでエルネスティーヌ含め小うるさい外野を黙らせておくのもいいだろう。
「では次、レティシア・ノーズフィーリアとエルネスティーヌ・ファーレンハイトは前へ!」
レスターの号令で開けた場所に出ると、エルネスティーヌと向かい合う。彼女は実に露悪的な笑みを浮かべていて、何を考えているのか手に取るように分かった。
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