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長らく放置してしまい申し訳ございません。
2026年明けましておめでとうございます。
本年より連載再開いたします。
その日、レティシアはいつも通り用事をこなし、帰路についていた。
今日は中々の収穫で、ほくほくしながら歩く。そうしていると、意図せず様々な声が耳に入ってくる。
「おかーさん、今日のごはんなーに?」
「そうねぇ何にしましょうか・・・・」
「おとーさんだ!おかえりなさい!」
「あなた、今日もお疲れさま」
そんな声を尻目に、人ごみに紛れながら自身の家を目指す。ここの北区に住む人々は、家族とささやかな家で過ごすものから、身寄りがなく道路の片隅で蹲るこどもまで実に様々だ。レティシアも、その内の一部でしかない。
なので、聞こえてくる雑踏にも特段感慨などないはずなのだが、レティシアはいつもこの時は妙な心地がしてしまい、足早に自宅へと戻るのだった。
北区の大通から、路地へと入りさらに数回曲がった先。自宅の玄関が見えてきたところで―――レティシアはふと、足を止めた。
「・・・・・・・なにあれ」
なにやら黒い何かが蹲っている。もごもご動くそれは、見るからにして得体が知れない。
いつでも攻撃魔法を出せるよう準備しつつ、その辺にあった小枝を手にしつんつんと突いてみた。
「・・・・う・・・・うううぅう・・・・ぬぐぅ」
「!?しゃべった!?」
驚いて思わず片手の攻撃魔法を消してしまった。注意深くよーーーーーーく見てみると・・・・それはどうやら、黒い蜥蜴のようだった。
玄関前に陣取っているので、どかさないと家の中に入れない。レティシアは深々とため息を吐いたのち、適当に動かそうとして―――
「お・・・・」
「お?」
「おなか、すいたぁあああああああぁあああ・・・・」
黒い蜥蜴が発したその言葉に、レティシアは「は?」としばし惚けることになった。
* * *
「いや~食った食った!!!生き返った~~~!!」
「いや、意味が分からないから」
面倒この上無かったが、黒い蜥蜴をどかさないことには家に入れない。仕方なく手にしていた本日の報酬―――鶏肉のシチューを差し出したところ、蜥蜴ははぐはぐと物凄い勢いで食べ始めた。今日の夕食ではあったが、ないならないで食べなくてもいいレティシアとしては困りはしないが釈然としない。
「いや~一時はどうなるかと思ったぜ!おまえいいやつだな!」
「動けるならさっさとどっか行ってくれる?」
「そんなつれないこと言うなよ~今晩は冷えるらしいし、ちょっくら泊めてくれや」
「あ・・・・ちょっと!」
言うやいなや、蜥蜴はてこてこ歩いて勝手に玄関を開け、中へ入ってしまった。レティシアは慌てて追いかけると、もう窓際で丸まって寝ている―――その背に、小さい翼を見つけてレティシアは眉をひそめた。黒いしゃべる蜥蜴は、どうやらただの蜥蜴ではないらしい。
「はあ・・・・まあ、いいか」
面倒なことは放置するに限る。その内出ていくだろうとその時は放置した。
その蜥蜴もどきは一向に出ていかないなんてこと、この時のレティシアには知る由もない。
* * *
「あなたねぇ、いい加減出て行ってくれない?」
「やだね~お前さんの魔力は心地いい。ほんととんだ魔力量だなぁ嬢ちゃん」
「その話は聞き飽きたわ」
蜥蜴もどきはなんと一ケ月も居座ってしまった。毎日出て行けと言ってものらりくらりと躱すだけである。曰く、レティシアの異常なまでの魔力量のおかげ(?)で尽きかけていた魔力が大分戻ったらしいが、それならそれでさっさと出て行ってほしい。
「まぁまぁ。お前さんのことだから、俺の正体分かってんだろ?」
「だからこそでしょ。面倒事はごめんなのよ・・・・ただでさえ危ない橋渡っているのに」
レティシアが日々の食糧を得るためにしていることは実は立派な法律違反だ。国の目が届きにくい北区だから出来ていることであり、王都で同じことをしたら半日もしない内に捕まるだろう。十にも満たないのに罪人にはなりたくない。
「・・・・お前さんなら、契約してやってもやぶさかではないぞ?一宿一飯の恩ってやつだ」
「一宿一飯どころじゃないけど、遠慮するわ」
「なんでだよ~」
「竜王と契約なんて、そんな面倒なことはお断りよ」
世の中平凡が一番だ。レティシアは平凡でいたい。自身が”平凡”とはかけ離れている自覚はあるが、ひとりでここに居るうちはそれでいられるはずだ。
―――だから、余計なことなど不要なのだ。




