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17 キーラとレグルス

「…………」


 私は、ベッドの上で鉄格子の向こうに佇む彼を眺めた。


(……思えば、こちらの人生に帰って来てから、初めて彼を見るわ)


 その姿は2回目の人生で出会った彼と変わらない。

 けれど、表情はずっと険しい。


 私に愛しい者を見る目を向ける事もない。

 2度目の彼とは違うレグルス王。私を憎んだ男。



「……何をしている?」

「はい? 何を、とは」


「王が来ていると言うのに、跪きに来ないとは」

「……ああ。権力を振りかざしに来られたのですね」

「何だと?」


「不服なら死刑にでも何でもなさればよろしいわ。そんな事でしか私の気を惹けない、哀れな男」

「なっ……!?」


「ありもしない罪で地下牢に投獄したのです。お安い御用でございましょう? ふふっ。これから、いくつの無実の首が貴方に斬られて落とされるのかしら? 地獄で悪魔と共に笑って見ていましょう」


 私はベッドで横たわりながら、彼から視線さえも逸らした。


 ガシャン! と強く鉄格子が打ち鳴らされる。


「貴様! 反省しているかと思えば、よくも……!」



「反省? 何を反省すると言うのです。愚かな。犯していない罪を私が反省する事はない。

 そんな事も分からないとは。

 ……貴方は、やはりカラレス王に認めて貰うには足りない俗物なのですね」



 ヒュッ……と息を呑むような音が聞こえた。


 ……これは彼にとって、もっとも赦し難き言葉。

 他でもない。キーラ・ヴィ・シャンディスにだけは言われたくなかった言葉。


「…………」


 怒りを通り越して、逆に冷静になったかしら?



「……私は、聖女の毒殺など企んでおりませんわ」


「黙れ」


「だって、私は貴方を愛していないから」


「黙れ」


「彼女を殺す理由がない。王妃の座になど興味がない。

 ましてや貴方の伴侶になどなりたくもない。


 勝手に、そう、勝手に。

 カラレス王が私に期待し、認めて、褒めてくださっただけなのよ?

 ……本当に、いい迷惑(・・・・)の、王からの賛辞だったわ」



「黙れッ!!」


 ガシャン!! と、また強く、さっきよりも大きな音で鉄格子が打ち鳴らされた。


 息も荒く、視線を向けなくても睨み付けられているのが分かる。



「……私は頑張ったから、カラレス王は褒めて下さったの。認めてくださったの。

 貴方と違ってカラレス王は認めて下さったわ。


 でも、1つだけ彼は間違いを犯した。

 それだけは残念だと思うわ。

 そう、たった1つの間違い。神さえも間違えた。


 レグルス・デ・アルヴェニア。

 私は、貴方の伴侶になりたくない。

 貴方の愛なんて要らない。

 貴方に指1本も触れられたくはない」



「黙れと言ったッ!!」


 再び打ち鳴らされる鉄格子。


「……ふふ」


(子供みたい。いいえ、子供なのね。親の愛を受け取れなかった子供……)


 私は、二度目の人生で確かめた、お父様の愛を胸に宿す。

 そして聞かされたお母様からの愛も。


 私と彼は違う。違うのよ。



「国王陛下。……心配しなくても良いのですよ。私は、どうせあと数日で死に絶えるでしょう。すぐに貴方の前から消えますわ」

「……何?」


「……今、この牢には水しか運ばれてきません。こうして話す事もすぐに叶わなくなりますわ。ですので、恨みつらみを吐き出したかったの。ふふふ。やっぱり、貴方は私の言葉に怒ったわ」


「…………待て。水しか運ばれていないだと?」


 レグルス王の声から怒りが抜け落ちた。


「ええ。5日前でしたかしら。聖女様が現れてね。私に食事を与えぬようにと。それから日に2度の水だけで生きておりますわ。……でも長くは保たないでしょう。……これまで会話らしい会話は重ねてこなかったけれど。

 ……もうすぐ貴方に話し掛ける事もなくなりますわね」


「……ッ!」


 私の言葉を聞いて、レグルス王はすぐに出て行ったわ。


(あら。本当にあっさり。今生の別れかもしれないのに)


 もしかしたら、この人生における彼は、本当に私への愛など持ち合わせてないのかもしれないわね。


 ……そう思っていたのだけれど。



◇◆◇



「キーラ様。大丈夫ですか?」

「…………」


 すぐにまた人がやってきた。現れたのは王宮医だ。


「……何故」

「食事を摂られていないとか。すぐに食べ物を食べては体調を崩してしまいます。まずは、水と……」


 何故か私の治療が始まった。

 と言っても辛いのは空腹ぐらいであり、衰弱はしていたものの、病ではない。


「……? 今、何か大きな音が聞こえたような」


 今や貴人牢の檻は開かれたまま、廊下の先の扉もだ。

 王宮医とその助手達は慌てたようにここへやって来たから、そのまま。


「……おそらく、王がこの事態を招いた者達を糾弾しているのでしょう」

「レグルス王が?」

「はい。……王のお考えはわかりません。ですが、キーラ様がこのように終わる事をあの方は望んでおられないのです」


「……そう」


 私は目を閉じて、王宮医に身を委ねた。



 ……ああ。彼は、この世界でも、やはり……私の事を愛しているのね。


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