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10 王への伝言

「なん……だと!?」



「……キーラ・ヴィ・シャンディス侯爵令嬢は確かに告げました。

『レグルス王を愛していない』と。むしろ婚約破棄については喜んでおり、聖女との仲を祝福していました。

 正妃の座に興味もなければ側妃になるつもりさえ、なさそうです。


 ……皆の前で、神の御前で宣言しても良いとさえ。

 彼女は、レグルス王を愛しておりません。

 証拠さえなく、動機だけで投獄された彼女ですが……その動機さえ疑わしいとは。


 大神官エルクス・ライト・ローディアがここに宣言します。

 聖女ユークディア・ラ・ミンクの毒殺について神殿を挙げて調査を始めると」



「……なんだと!? これは王城内で起きた殺人未遂だぞ!」



「はい。しかし、一連の流れにおいて神に対する冒涜があったと言わざるをえません。

 何より、聖女の命が脅かされたというのに、王宮の捜査はありえないものばかり。


 ……はっきり申し上げますが、レグルス王。

 今からこれみよがしにキーラ・ヴィ・シャンディスに不利な証拠が出てきたとして。

 神殿は、その証拠が捏造か否かまで疑い尽くし、納得するまで徹底的に調べ上げます。


 彼女は既に何者かの手によって陥れられている可能性が高いのですから。

 この場に居るとは申しませんが……今から彼女を陥れようと画策する者が居るならば、相応の覚悟をしていただきましょう」



「王家の捜査を疑うと言うのか!」


「当然です。何故、疑われないと思うのですか? ……レグルス王。神官の立場から言わせて貰えば。

 今、最も疑わしい者は……貴方です」


「なっ! 貴様! よくもそんな事を……!?」


「……レグルス王は、神の予言で決められた王の伴侶が不服であった様子。

 毒殺されかかったとは聞きましたが、聖女も今や健康なのでしょう?

 まるで、最初から毒を飲んでも死なない事が決まっていたかのように」



 大神官の言葉に集った一同は、顔を見合わせた。

 そう、聖女ユークディアは無事なのだ。まだ誰も、この事件で命を落としてはいない……。



「……レグルス王が、キーラ様に何の恨みがあるのかは分かりませんが。

 彼女は婚約破棄を喜んで受け入れ、貴方から離れようと考えていたのです。


 まさか王に愛を捧げない事が罪だとでもおっしゃるワケではないでしょう?

 彼女の方は、貴方から離れられる事に感謝さえしていたと言うのに、その様子では……」


 大神官は溜息を吐いた。

 レグルス王は、少なくともキーラに執着しているように思えたのだ。


 それが良い意味か、悪い意味かで言えば、後者だとは思うけれど。



「……あえて、もう一度。忠告します。レグルス王。並びに王を諫めるべき大臣達。

 せめて、彼女を地下牢から貴人牢へ移しなさい。

 疑いを掛けるにしても、その手順も処遇も、正当なものでなければならない。


 彼女が持っている、主張して、当たり前の権利をお守りなさい。

 ここで王の横暴を許す国だと、貴族や民に知らしめ、神に告げるつもりですか?


 ……神は見守っています。仮にこの世で上手く事が運んだとしても……。

 貴方達がしでかした事は、死後、必ず裁かれる事になる。


 ……どうか、正しい事を。多くの民を守る為にも」



 神官の言葉と、神殿の後押しを受けて、大臣達は互いを見合い、そして王に意見をする事になった。

 少なくともキーラを地下牢に投獄するのだけは間違いだ。


 仮に彼女が疑わしいままだとしても。それだけは絶対。


 だから大臣達の意見は、キーラの牢を移す事で一致した。



 歪んだ王も、大臣すべてと神官、神殿の前で正当な決断を迫られては覆す事は出来なかった。

 その程度の理性だけでも王に残っていた事に、一同は深く安堵する。



◇◆◇



「まぁ。牢を? ようやく、当然の処置が取られたのですわね」


 キーラの前に兵士が現れ、貴人牢へ誘導される事になった。


「……逃亡を企てれば容赦は出来かねます。覚悟して下さい」

「ふふ。逃亡? 私が? 何の為に?」

「……何のとは」



「罪を犯していない私が、何の為に逃亡するのです。


 それとも罪人かどうかではなく、蛮族のように『気に喰わない者』を殺して回る趣味の者でも王宮にまぎれているの?

 ふふふ。それなら……騎士様達は頑張らないといけないわね。


 貴族や王族を守る為ではなく、人間としての在り方を守る為に。

 ええ。どうか王国の誇りを守ってちょうだい?」



「……キーラ、様?」

「なぁに?」

「あ、いえ。その」

「言っていいわよ」

「……は、はい。その。別人のように思いましたので」


「あはは! 別人? 私が? 違うわ。間違っている。

 私が。今の私こそが……本当の私、キーラ・ヴィ・シャンディスなのよ。騎士様」


 キーラは胸を張って歩いた。

 数日、地下牢に押し込められ、やつれていたにも関わらず。


 気品を失わず、しかし、それでいて今までのキーラとは何もかも変わったように。


 こうして大神官エルクスの口添えもあり、キーラは地下牢から貴人牢へと移る事になったのだ。



 キーラが『レグルス王を愛していない』と伝言した事が、どれだけ、かの王の心を抉ったかを思い浮かべて……、キーラは一人、静かに笑った。


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