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1.バケモノと不届きな出会い

新連載というわけで、短めのお話を展開していきます。

 早速だが、自分は子を育てたい。理由は後から見つけるとして、心の底から欲しているのだ。


「……そんなもの、どこからでも攫って来ればいいじゃないか」


このような趣のないことをのたまう阿呆は、私の数少ない……、いや唯一の友だ。とは言っても、自分は彼の、彼女だったか? とにかく、自分は『奴』の名前を知らない。


「しかし、お前の『知りたがり』も衰える気配が無いな。その知りたがりで、■のことも少しは知って欲しいもんだ」

「そっちの方面には、自分自身興味が無いんだ。自分にとって大事なのは、君が自分の友であるという事実だけだ」


自分の言葉に、奴は鳩が豆鉄砲を食ったような反応を見せる。そのような反応をするか。これはまた新発見だ。


「んっ! とにかく、■たちはそもそも子を作れないように出来てる。流石に、それは認識しているはずだ」

「それを承知の上で、自分は子を育てたいと言っているんだ。当然何処かから攫うなど、面倒ごとが大きすぎるしそんなものに愛などない」

「愛、な……」


『奴』はそう言って黙ってしまう。奴の顔が自分の目に映る。どうせ、視線を外せばすぐにでも忘れてしまいそうなその顔の、しかしその目だけは見たことがある。


「……■やお前のような『バケモノ』が、子を愛するだなんて出来るわけがない」


そう言う『奴』はどういうわけか悲しげで、その目は何かを懐かしむようだった。


 そんなわけで、『奴』と別れた自分は住処としている廃墟へと戻る道にいる。姿から真似て生活も人らしくと思っていたこともあったが、その結果がこのざまだ。姿にしたって生まれついて持っている『外殻』が付いたままのくせに『人間らしい』と思い込み、住処だってこの通り。その結果、嫌われ恐れられて『奴』しか友がいないはぐれ者の出来上がりだ。


「やはり、無理か。まあ、当然と言えば当然だな。……自分のエゴに付き合わされる、見知らぬ子も哀れでならない」


自分は今まであらゆるものを追い求めながら、それら全てに対して中途半端でしかなかった。何も手に入らなければどれほどよかっただろうか。中途半端に何もかもを掴んだが故に、自分は結果として真の意味で何かを成すことは無かった。


「そもそも何故、自分は……」


そう。自分が子を育てたい、愛したいと思う明確な理由が無いのだ。そのざまで、何が愛が無いだ。全く滑稽なことだ。さて、こんなことを考えている間に住処へと帰ってきたわけだが、自分はここに帰ってくるたびにある種の物悲しさを感じるのだ。


「戻ったぞ。……当然、迎えは無しか。……昔は違ったんだがな」


思い出そうとする、昔のこと。だが全てが霞んで、出てこない。誰かの声、誰かの温もり。愛しくて仕方のなかったあれら全てが、蜃気楼のように揺らいで不確かになっていく。


「これも中途半端の代償か……」


鍵すらかかっていない扉を開けて、中に入る。歩くたびに床の軋む音がしている。床が抜けるのも時間の問題か。だが、自分は何かそれ以外の異変を感じていた。


「……二階か」


もう何年も立ち入っていない廃墟の二階。何かが入り込んだのか、物音が聞こえる。獣や不埒な侵入者であれば、容易く撃退できる。だがもしも……。いや、想像は些細な結果すら生まない不毛なものだ。自分は意を決して、二階への階段に足をかけた。


「これも修理だな」


先程の床以上に軋んだ音がする階段をゆっくりと上がる。それを聞いてか、二階の物音が激しくなる。聞くにこれは足音。一人のものだ。


「さて、ここまでだ。おとなしく逃げるなら、命は取らないでおいてやる」


二階は狭くて一つの部屋しかなく、おまけに何も物を置いていない。故に二階に上がれば、その正体が一発でわかるのだ。


「言い訳があるなら聞いてもいい。興味深ければ逃がしてやる、ぞ……」


警告と共に二階に上がった自分。


「……これはまた、どういうわけだ?」


侵入者がどのような者か一目見てやろうと思った自分の目に映ったのは、部屋の隅でうずくまりながらもこちらを睨む、みすぼらしく汚れた子供だったのだ。てっきり賊や獣だと思っていただけに、これは想定外だった。


「……だ、れ」


自分が困惑している間に、掠れた弱々しい声で子供が何か言っている。誰かだと? この家の主に向かってその言い草は何だ? ……傍から見れば、ここはただの廃墟だったな。とは言え、(推定)人間の子供に自分の正体をおいそれと教えるわけにはいかない。であれば何を言うべきか。……そうだな、こうする他あるまい。……丁度いいことだしな。


「自分は、君を愛する者だ。……何も心配は、いらない」


言ってしまった。つい出来心で(自分たちにそういった心というものがあるのかはいまだ不明だが)すごいことを言ってしまった。目の前にいる子供は驚いた顔をした後、糸が切れたかのように倒れこんでしまった。自分の焦りは、増えていくばかりだ。

この手の話は慣れていないのです。それではまた次回。

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