ard.2
途中でなに書いてんのか分かんなくなってきたのは秘密。面倒になってきたのも秘密
てか台詞いてぇーーー!!まじで!!
きっかけは本当に些細な違和感だった
しかしその些細だった筈の違和感は綿雪のように少しづつ少しづつ降り積もっていき、果てには途方もなく巨大な壁となっていた
それでも最初はどうにか無視できていた。年頃の女のように夢を見ることで現実から目をそらして
だがその重さは無視するだけでは抗えなかった。重さから生まれる軋みは心に膿を作り出し、今はもうどうすることも出来ない
―――だから今日、彼女はソレを口にする事に決めた
万が一心の傷にならないかと心配したが、一度動かしてしまった流れはどうしようもない
「………ーラ…ん」
私の言葉でお前が癒されることの無い傷を負い、それで私を恨むなら全て甘んじて受けよう
「……キーラ…さ」
我慢出来なかった以上わたしはそれまでの女と言う事だったのだから
それにお前をそのように育てたのは紛れもないこの私だ
「キーラさん。聞いてますか?」
だが忘れないでほしい
このままではきっとお前が損をする
だからそれに気付かせてやる事が、私が身勝手な母親として最後に出来ることなんだ
「キーラさん。僕はもう行きますから。忘れないか心配なのでキーラさんのお弁当は僕が持っていきます。家を出る時は戸締まりと火の栓の確認忘れないでくださいね?あと………あー、ハンカチとちり紙は食器棚の上ですし、一度シャワーを浴びられるなら着替えは脱衣場に用意してます。脱いだのはちゃんと洗濯機にお願いしますよ?それと食器は水に漬けて置いてください」
どうにも思う
「……お前は、可愛くなくなったなぁ」
「おかげさまで。しっかりしなきゃダメでしたすから」
キーラの長い長い葛藤の末放たれた一言はとてもあっさりしたノータイムの一言で片付けられた
しかも言葉の後に深いため息付き
「………」
「……どうしました?」
「あのな。そういうところが―――」
「―――可愛くない。……でしょう?」
聞き飽きました。とばかりにこちらに目をやる事無くひらひらと手を振るスタンがなおのこと憎らしい
しばらくキーラは恨めしげな視線を送っていたが、やめた。これではどちらが子供かわからない
確かにスタンはしっかりしている。それは良いことだがこれはいかんせん老成し過ぎでは無かろうか
キーラとしてはもう少しやんちゃに育って欲しかったのだが、このままではスタンは人一倍早く老衰を迎えてしまいそうだ
それに、その《しっかり》にはどうにも歪で大きな穴がある
「じゃあ僕行きますから………二度寝しないで下さいよ?」
「ちょっと待て」
キーラは今まさに家を出ようと屈んで靴ひもを結び直し、手をドアに手をかけたスタンを呼び止めた。きょとんとした顔。ここだけ見れば年相応なのだが
「なんです?」
振り返るスタンを手招きし、呼び寄せる。キーラが差し出したのは一枚のメモ用紙。そこにはびっしりと分刻みで1日のスケジュールがかかれていた
「お前は今日は自主トレだ。メニューはこの通り。サボるなよ」
「あ、はい。サボりはしないですけど………」
キーラさんは?と言いたげな目線。キーラはそれに頭でっかちと会議だとだけ答える
「頭でっかちと?………何でまた」
ここですぐ察せ無いあたりがキーラがどうにも不安な要因の一つだろう
金銭を含めた運営戦略担当との交渉といえばすぐさま感づいても良さそうなものなのに
「賃金交渉」
「は……。はい?」
「なんだ。反応が鈍いな」
「いや、だって。お金なら」
困ってない。言葉には出さずともスタンの言葉は伝わってくる
スタンとキーラは企業の持つ軍隊に所属している
企業のカードとしての軍事力とビジネスとしての傭兵家業を兼ね、特に兵器を商う会社は自社製品のアピールを兼ねるそれへの投資を惜しまない
それは人的財産もしかりだ。優秀な人材には企業は金を惜しまない。希に登場する平凡な製品を伝説まで押し上げてしまうような怪物は企業にとってもほかの何者にも代え難い
例えば希少価値こそあれど、実力は未知数のスタンの契約金でさえしばらく遊んで暮らせるぐらいの金額だった
それは普通なら充分過ぎる額なのだろう。だが二人はとうに普通など捨ててしまっている
「金なら、なんだ。まさか充分だとでも?馬鹿を言うな」
故にキーラは語気を強めた。スタンはどこか金銭自体に悪を感じている節がある。ある種の潔癖症に近いそれはスタンが東洋の血を引いている事にもあるかもしれない
清貧を美徳とする気質は確かに美しいものだ
だが、それでは困る。スタンにはもっとその辺りに執着してもらわなければならない
「金があれば大抵の事は解決できる。確かにお前は対価の為に入った訳じゃないだろうが、考えてみろ。お前の言う【困ってる人達】の悩みの大半は金で解決できるんじゃないのか?」
スタンは喉に何かを無理やり詰められたような感覚を覚えた
回らない口に、いつもより過敏に動く頭
ぐるぐると回るのは人、人、人、人。赤く赤く燃える街。住処を焼かれ立ち尽くすあの人。争いで親を無くし貧困にあえでいた子供。戦火から逃れたくても逃れられない彼らはきっと金があればそうはならなくて。……なにより争いの要因そのものも思い返せば結局は金だった
「いいか?お前はどんな経緯であれ企業軍隊のハイレン型パイロットになった。ただの駒だった前とは違う。もう戦場ではお前が戦術そのものなんだ。自分の価値を認めろ」
「命を惜しめ。最大の対価を要求しろ。お前はこれから大量の人間を殺す。山ほどの人間を不幸にする。それで得られるモノが低廉な物でたまるか。人の命の価値は奪うにしろ与えるにしろ決して安くない」
「そしてお前はその金で殺した人間以上の人を助けるなりまた殺すなりなんなりすればいい。お前の望みを叶えるために私はテーブルについてお前を戦場に送り出すさ。私はお前に幸せになって欲しいからな」
「………一応言っておくが名誉の戦死なんてもってのほかだぞ。そんなものに幸せなどありはしない」
………そこに残るのは実感のわかない虚しい賞賛と途方もない喪失感だけだ
口元だけの笑みを見せるキーラが発した言葉は恐ろしい程冷たく、寂しく、部屋に響く
「命令だ。何があろうと誰になんと罵られようと帰ってこい。死ぬのは散々人を助け倒して腰が曲がってからでいいだろう?それにな―――」
一息置いて、キーラは今までで一番深刻な表情と声で
「―――お前が死んだら、誰が私の世話をするんだ」
そういってのけた
「………はぁ?」
「いや、だから。私の身の回りの世話」
スタンはキーラに呆けた声で聞き返して、結局同じ返事が返ってきたところで
一気にスタンの力が抜け、張り詰めていた空気は雪解けどころかバーナーで暖めたように緩んだ
まさかそうオトしてくるとは。口に出さず呟く
「……自分でやって下さいよ」
「無理を言う。今後一生店屋物だけで生きていけるわけ無いだろ」
スタンは深いため息をつく。この人は本当にどこからどこまでが本気なのか。そればっかりは今もわからない。笑いながら本気で語り、真剣な顔をして冗談を言う。一部の人以外にはまるで鉄仮面のくせに
だが確かなのはきっとこの人はとても自分を心配している。大切に思ってくれている
そしてそれは逆も然りだ
「わかりました。出来るだけキーラさんのご期待に添います。……お金の事は……まぁ、とにかくお願いします」
「任せておけ」
スタンの言葉に帰ってきた返事はとても力強い。きっとキーラはスタンに取って最高の結果を出してくれるだろう。スタンはあまり望んで居なかったにしろ、気持ちとしては心強い
再び、行ってきますと家を出たスタンをキーラは、あぁとだけ言葉を返して見送った
「さて……」
スタンを見送ったキーラは、やれやれと苦笑した。その後グーッと体を伸ばすと思った以上に気持ちいい。やはり深夜のデスクワークは地味に体に負担をかけているようだ。……昔は徹夜なんて………と考えてキーラは後悔した。自分で認めてどうする
伸びの際に見えた時計は朝の8:30
今日のアポイントをとった時間は11:30だ。さして場所は遠くない。タクシーを利用すれば10分もあればつく
と、なればすることは一つ
「……もう一眠りするか」
睡眠不足は加齢の友。若さを保つ為には充分な睡眠時間が必要だ。別段身なりに気を使うわけではないがどうにもスタンを始めとした自分への扱いが変わってきたような気がする。というか確実に変わってきている
やむをえん。やむをえないんだ……と自分に言い聞かせつつ寝室に戻っていくキーラ
その後、彼女の叫びがご近所に響いたのは、約束の15分前になった時だった