ard.1
いやstandardに平穏とかって意味は無いことぐらいわかってますよ
……無いですよね?
基本的にPC使わない限りあんまり推敲しないんで誤字脱字はお察し下さい
朝は弱い。掃除はしない。料理はここ10年しているのを見たことがなければ食べたこともない
見かけは実年齢が何かのジョークに思えてしまえる程なのに出不精の上付き合いは悪く、恋人どころか友人は両手で数えられる程度で、更には変なところで世間知らず
確かに彼女は足を一本失っているため車椅子であるが、それが彼女にとって運動機能の面では何のハンデにもならない事は嫌と言うほど知っている
そしてハンデにならない=何かするというわけでもないという事も
ボロの出始めた2年目くらいに気付いた。基本的に生活面はだらしないヒトなのだと
だからこそあの人は自分がいない約1年。一体どうやって生活してたんだろう………と、あらゆる角度から真剣に考察し始めた青年は手元のフライパンの中で目玉焼きから焼けた卵に変わりつつある今日の朝食に気が付いて、慌てて火を止めた
火を止めた時には既に頭の中はサイドメニューのサラダのドレッシングに切り替わっており、さっきまでの考察は完全に霧散
毎朝ついつい考えてしまう謎はどうやら明日もいい暇つぶしになってくれそうだ
素材の味を殺さないように、よく研がれた包丁に映る相貌は幼さを残し青年と言うには幼すぎ、しかし少年としては大きすぎる顔立ち
癖のついた栗毛と相俟って公共の放送に乗れば青い果実大好きのお姉さま(幅広い意味で)方に大受けし、そうでなくともちょっとした街角マダムキラーになりうる素質は十分だろう
しかし包丁を持つ腕の裾からのぞく腕はは、顔とは不釣り合いに太く、明らかに一般人のそれではない
もっとも一番に目立つのは彼の首もとから一面に広がる酷い火傷痕
命に関わるレベルだったろう傷痕は彼が一般にいう《不幸》な過去を持っている事を伺わせるが、まるで包丁に羽が生えたかのように操る彼の表情に暗いところは無く、どころか楽しげでもあった
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「………終わったけど」
一通り作業を終え、リビングの木製テーブルには、一皿に2枚のトースト。別皿には目玉焼きにウインナーが添えてあり、両サイドにはコーンスープとトマトサラダ
全て完成するまでに25分。ある程度の準備は昨晩に済ませていたし、そこに関してはまずまずだな……と納得するが
青年はある事に頭を悩ませる
青年お手製の見た目から食欲をそそる朝食の中。向かい合った席の中央。つまりテーブルのど真ん中に鎮座する巨大な皿。そして中に大量に盛られたポテトと鱈のフライ。フィッシュ&チップス。多い。ひたすらに
つまり客観的に見て余計な装飾を廃し極々簡潔に彼なりの言葉で言うなら
―――昨日の夕飯の残り、だ
「なーんでこんなに作りすぎちゃったかなー……」
うなだれた青年は手を伸ばしポテト一つ掴み口に運んだ。一晩たったポテトはしんなりしてしまったがまぁ美味い。お弁当にもギリギリ行けそうである。……度を過ぎなければ、の話だが
きっかけは毎朝の謎の提供者である元保護者兼師匠兼オペレーターで
彼女にしては珍しいリクエストだった
「スタン。今日はフィッシュ&チップスが食べたい」
買い物に出かける際、何気なくかけられた彼女の一声。スタンは青年の名で、彼女は二人でいるときはあまり彼を名前で呼ばない
名前で呼ぶとすれば仕事等のある程度重要な要件か、あるいは彼女がスタンに怒りの鉄槌を下す時かと言うのがお決まりだ
その為夕飯のリクエストを重要事項にされた事に少し驚き、その時は生返事で答え家を出て、その後リクエストの中身自体に首を傾げる
彩の乏しい食事を嫌い、更に師としてスタンに食事制限を課してくる彼女がよりによって油と炭水化物の塊とは一体どういう風の吹き回しか……
思い悩むまま店に向かって歩き、そして屋台で思い当たる。今日が何の日かという事を
今日は9年程前、初めて二人で外に出かけた日で、その時あんまりにも喋らないスタンに困り果てたのだろう。多分その打開策として買って貰ったのが―――
「―――フィッシュ&チップスか………」
そんな事を思い出してついつい興が乗り、大量に作ってしまった訳だ
スタンは鱈のフライを一掴みし、口へ運ぶ
一晩で染み込んでしまった塩とビネガーの風味が鱈のコクと絡み合って口の中に広がり、その味はなんとも
「……まぁ、まずまず」
「まずまずなのは結構だが………減らんな、その山……」
鱈のフライを咀嚼し、揚げ方の反省点を洗い出していたスタンの後ろからかけられる、朝にふさわしくないウンザリしたような声は車輪の音と共にスタンの後方からテーブルを回り込むように
「んー。今日のお弁当にでもします。……自業自得ですしね」
返した返事がこれまた辟易したような声色になってしまったのは、きっとしょうがない事だろう
「別に今日の朝もソレでよかったんだぞ?」
「そんなのは僕のプライドが許しませんよ」
それにこの油っこさは流石に胃にくる。彼女なら尚更だろう。昨日も割とすぐに手が止まっていたし
昨日は
―――最近油ものが食えなくなったなぁ……と嘆く彼女に
―――年ですかね。と出かけた所を無理やりポテトと共に胃に押し込んだ。万が一口に出ていたら3日は口を聞いて貰えない
彼女は殊勝な事だ。と苦笑いし、車椅子から狙いの椅子の両脇についた手すりを支えに腕の力で体を持ち上げ、一瞬片足立ちになるようにして移動した
冷蔵庫から出したオレンジジュースをコップに注ぎ、トーストの横に置いたスタンと椅子の上でテーブルに向かい、体勢を整えた彼女は目が合う
「おはようスタン」
スタンが口に加えたポテトを見て何かを思い出したのだろう。見せた笑みは朝日に纏って見とれる程綺麗だ
春の朝。日差しは柔らかく、風も優しい。穏やかな挨拶にスタンも自然と笑みがこぼれた
「えぇ、おはようございます。キーラさん」