第六十六話 脱走(2)
「悪いな少尉。付き合ってもらって。」
アルベルトは隣にいるナタリヤにそう謝りながらもスラム街の中を歩いていた。普段と違い二人とも傷んだ服を着て変なことに巻き込まれないように細心の注意を払っていた。
「別に気にしないでください。大尉もまだ連邦に来て間もないのですから色々と困ることはあるでしょうし。それに今回のことは私にも責任の一端はあると思うので。」
「君がそこまで責任を感じることはないと思うんだけど。」
アルベルトはそう言いながらも頼もしい彼女に感謝するしかない。実際連邦に来て数年程度しかいない彼の言語能力ではスラム街で会話をするのは無謀である。その上に土地勘も無い場所であるのならそれはなおさらのことであった。
ただそうは言ってもかなりの美少女であるナタリヤにちょっかいを掛けてくる輩は多かった。それを彼女は簡単にいなしているが、それで引き下がらないものも多くアルベルトは内心暴力沙汰にならないか不安であった。
こんな心配をするくらいならイオク・リャーエフを連れていきたかった。
しかしルーシーがナタリヤを連れていけと言うので彼女を連れてきたのだった。
「そういえば少尉はメーチェ少佐と姉妹だったか。」
「はい。腹違いにはなりますし、人生の半分くらいはお互い別々の場所に住んでいましたが。」
「そうか。」
なんかこれ以上は突っ込んではいけないとアルベルトは感じ、次の話題を考える。
「そういえばよく中尉がスラム街にいるって分かったな。」
「彼がどこかに逃げ込むとしたらここですよ。いつまでも前の成功体験を引きづっているタイプですから。」
「それに逃げ込むならここしかないということか。」
「ですが、割とここも広いですね。」
「そうだな。」
アルベルトはこのまま無暗に探してもシリル・ラークを見つけることは出来ないと思うものの歩き回って探す以外に方法は無かった。
そうやって考え事をしていると周囲の喧騒にイラつく。
「隊長。」
「どうした?」
「この声、中尉のものじゃないですか?」
だからナタリヤの言葉に一歩遅れて彼女の視線の先を見る。
そこにはチンピラと互いに集団を作りながら喧嘩しているシリル・ラークがいた。
「さて、基地に戻るか。」
「なに言ってるんですか?」
ナタリヤはアルベルトの肩を掴む。
「介入したくないんだよなぁ。あぁいうのは。」
その言葉は彼にとって本心であった。
「司令に言いますよ。」
「分かったよ。ただこの乱闘には巻き込まれたくないし、終わるまで待つとするか。」
そうして二人で喧嘩の様子を眺めていた。流石にこの状況にどうしたらいいのだろうかとナタリヤは思う。
そうして数分過ぎる。喧嘩はまだ続きそうだなとアルベルトは大きなあくびをしていた。そのとき喧嘩相手を倒し終わり次の敵を探していたチンピラがアルベルト達に眼を飛ばす。
「おい、てめぇら。さっきからなにじろじろ見てんだよ!」
そう言いながらガニ股でチンピラが近づいてくる。
「なぁ少尉。こういう場合、どうするのが連邦のマナー的に正解なんだ?」
「いや、私に言われても分からないです。」
「どうする? 逃げる?」
「いや逃げたらまた探さなきゃいけませんよ。」
「それもそうか。」
アルベルトは彼女の一歩前に立つ。
「あぁ! やんのか!」
「別にお前たちに興味はない。俺が用があるのはあそこの男ただ一人だ。」
アルベルトはシリルを指さす。
「んだと!」
その瞬間アルベルトはチンピラを背負い投げする。
「後どれくらいで喧嘩終わる?」
「なにを……。」
「知らないならいいや。」
アルベルトはそのまま頭を蹴ると相手を気絶させる。
その様子を見ていたナタリヤは色々と理不尽だなぁと思いながら眺めることしかできなかった。
*
「メーチェ少佐、アルベルトどうしているか知らない? ちょっと確認したいことがあったんだけど。」
「大尉なら今エルミート少尉とラーク中尉を探しにスラム街に行っていますよ?」
「は? スラム街?」
ユリアの反応にルーシーはしまったなと察する。
「私そんなの聞いてないんだけど。大丈夫なの、それ?」
「エルミート少尉がついているし大丈夫ですよ。」
かなり心配した様子を見せる彼女に対して一応のフォローをする。
「というかなんでラーク中尉を探すのにアルベルト自体が行っているの? そんなの他の人に任せればいいのに。」
「初めて持った部隊ですからね。色々と気にかけているんですよ。」
「そう。ただあまりそっちにばかり力を入れてもらってもこまるんだけど。あの部隊はあくまで一時的なものなのだし。第一後もう少しであの機体も完成するのだし。そうなったら部隊編成も大きく変えないといけないわね。」
「今度はどうされるのですか?」
なんとなく嫌な予感がしたルーシーはユリアに尋ねる。
「今のところ考えているのはまずリャーエフ大佐とアルベルトを二人だけの部隊編成にする。それで今彼が率いている部隊についてはメーチェ少佐、あなたに任せようと思っているわ。」
「え? 私ですか?」
「だって部隊編成的にも資質的にもそっちのがいいと思わない?」
「はぁ……。」
ユリアの言葉にルーシーはそう答える以外なかった。




