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第六十五話 脱走(1)

「司令に話したんですか?」


 ナタリヤ・エルミートはユリアの部屋から肩を落として出て来たアルベルトに話しかける。


「あぁ。イレスコ基地への出撃命令だったからな流石に今の部隊の状態じゃ出せないと言う以外無い。悪いな。」


 いつもと違い自信なさげに謝る彼に対してナタリヤはなにも言葉を掛けることができなかった。


「シュタイナー大尉。」


 二人が部屋の前で話していると、司令室からルーシーが出て来た。


「一応何があっても聞いてもいいですか?」


 やっぱりそれを聞くかという顔をアルベルトはする。


「それは別に構いませんが……。」


 言葉とは裏腹にあまり話したくないなぁという顔で彼は事のあらましを離し始めた。



 時間は五時間前まで遡る。


「貴官らにはこれからシミュレーションをしてもらう。」


 イレスコ基地への侵攻を外されてしまったアルベルトは次にいつくるか分からない作戦の前に部隊の練度を更に上げようとしていた。


「今更シミュレーションですか?」


 しかしいつも彼の意見に懐疑的だったシリル・ラークが反抗的な感じで言う。


「そうだ。今までの戦闘から必要だと判断した。」

「しかし自分は前の戦闘で十五機のキャスターを破壊しました!」

「それがどうしたんだ?」


 アルベルトはシリルの言葉をきょとんとした顔で首を傾げる。彼としては単純にその程度の数のキャスター撃墜記録が戦果になるとは思ってもいなかった。

 それがシリルを更にイラつかせた。アルベルトとしては例え何百機撃墜しようともシミュレーションを継続して行うことなど当たり前のことだった。なので彼が何に対して怒っているのかがよくわからなかった。


「ですから実機を使用した模擬戦をしたいです。」

「そんな燃料の余裕があるわけないだろう。」


 彼の言葉を実に合理的な理由で否定する。


「あぁ、そうだ。それと貴官の前の戦闘データを確認したが、もう少し効率よく動いた方がいい。この論文の戦術とか合うんじゃないか?」


 アルベルトは思い出しかのように彼に対してホチキスで閉じられた数枚の論文を渡した。その一方的なふるまいがシリル・ラークにとっては許しがたいものであった。

 他の部隊では褒められる戦果でもアルベルトは大したことがないと一蹴したのであった。


「いりません!」


 シリルはその論文を手ではねのけた。

 その行動をアルベルトは予測していなかったため、論文を落としてしまう。そして状況をすぐに理解するとため息を吐いた。

 

「言いたいことは分かった。だが、まだ実機を使用した模擬戦をするほどの領域に達していない。確かに中尉の腕は悪くは無いが、精々一般パイロットより少し強いくらいだぞ。だからこそまず基礎を見直せ。」

「そんなことをして何の意味があると言うんですか!?」


 アルベルトはこの一連の会話でシリルがどういうことをしたがっているのか把握をする。基本に忠実なアルベルトに対してトリッキーな戦い方をしたいシリル。その違いがあった。


「私はここにいる仲間と強くなってみせます。あなたの、帝国の人間の力など借りません!」


 だからこそアルベルトはその言葉に対し怒りを見せることはなかった。恐らく自分がシリルと同じ立場であったら同じ事を言っているだろうと思ってしまったからだ。だから彼はもう一度だけため息をつくとどうやってこの場を収めるべきか考える。今ここで部隊の雰囲気が悪くなって次の戦闘で負けることなどがあれば目も当てられないと。


 そう考え事をしていたため、アルベルトが周りに再び意識したのは音が響いたときだった。

 彼がその音をした方角を見ると、ナタリヤが平手でシリルの頬をはたいた後であった。


「隊長に謝ってください。」


 彼女ははっきりとシリルに対して怖気づくことなく言っていた。


「貴様、上官に対して。」


 するとシリルはアルベルトの予想通りナタリヤを殴ろうとするがその前にアルベルトがその間に自分の体を入れる。

 当然、そんなことをすれば結果は決まっているわけで顔に衝撃が響く。鼻血が出はしたもののなんとか倒れることなく

 だがそれでもアルベルトは冷静さを失うことは無かった。


「二人とも落ち着け。」

「ですが!」


 ナタリヤがシリルに今にも噛みつかんばかりに睨みながら言う。


「ラーク中尉。貴様が俺に思うところがあるのはよく分った。だが貴官にはまだそれほどの実力はない。」

「なにを!」


 アルベルトの言葉にシリルはいら立ちを隠さずに言う。


「いいだろう。そこまで実機を使った模擬戦がしたいというのなら付き合ってやろう。一分もかからないだろうしな。」


 その自信は今までの彼の戦いを見た結果から出るものであった。


「でしたら私が勝てば」

「いいだろう。貴官の好きにするがいい。司令からは俺が口添えしてやろう。だが負けた場合は言うことを聞いてもらう。いいな。」

「分かりました。」


アルベルトはそれに頷くと自分のオレロスに乗り込むためにデッキに向かった。



「それで、模擬戦でラーク中尉をシミュレーションで達磨にした挙げ句数十秒で撃破したと。」


 ルーシーはアルベルトから事のあらましを聞くと頭を抱えるように考える。


「やりすぎじゃないですか?」

「そうかもしれませんね。ただ命令違反によって作戦行動に支障が出ることだけは避けたかったのでプライドを完全に追っておこうかと。あんなものはあっても邪魔なだけですからね。」

「いや、その結果自尊心までへし折ってませんか?」

「まぁ少しイラっと来たので。」


 アルベルトの言葉にルーシーは少し引いたような顔をする。


「ですが、なんであそこまで攻撃的なんですか?」


 次にアルベルトはルーシーに質問をする。今回の部隊メンバーの選定にはルーシーも関わっているとユリアから聞いていたためであった。


「一言で言えばラーク中尉は上昇志向が強かったですね。それに彼の思惑としては彼自身と同じように育ちがあまりよくない環境から自分の腕だけで部隊長になるような人の元で働きたいと言っていましたし。」


 それがまさかこんな結果になるなんてという顔をルーシーはしていた。


「それで中尉がどこにいるのか目星はあるのですか?」

「いや、それが全く。もしそれが分かっていたらここまで苦労していないです。」


 アルベルトは両手を上げると困ったように回答していた。


「それなら恐らくスラム街にいると思います。」


 代わりにナタリヤが答えていた。

次は土曜日に投稿します。

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