第六十三話 次の一手(3)
「流石に四回目は無理でした。」
いつも通りアルベルトはユリアへ報告を行っていた。ただいつもと違い今回は失敗の報告であった。
「まぁここまでやれば十分か。」
アルベルトとしてはユリアにかなり叱られると思っていたが、思いの外彼女は冷静であった。
「それで部隊の方はどう? 実戦運用は出来るくらいにはなった?」
「まぁ、はい。なんとかそれくらいは。」
寧ろ自分達の方を気にかけていてくれるほうが彼としては怖かった。
「イレスコ基地への攻撃はどうされるのですか?」
「それについてだが、ジュリア・エイノワスとノイマン・チェーホフが当たるそうだ。」
「他の部隊が担当されるのですか?」
アルベルトはそこまで言った後に自分の中で状況を整理する。そしてユリアが怒らなかった理由を把握した。
「そういうことですか。もしかして前回からアガニコフ侯の部隊が戦果を挙げられていないからその補填に回したという感じですか?」
「そういうこと、私と二人きりのときはいいけど、他の人がいる前では言うのは気をつけなさい。」
「いくらなんでもそこまで非常識じゃないですよ。」
ユリアはジト目で彼のことを見る。
「そこまで信用ないですか?」
「えぇ。割と。」
彼は心外だなと言う形で頭を掻いていた。
「ですが、あの二人で占拠できるんですか?」
「どういうこと? 戦力としては充分だと思うんだけど。」
「エミリアもいるんですよ? とても勝てるとは思えませんが。」
そこまではっきり言われるのもどうなのだろうとユリアは思う。
しかしアルベルトが彼女と話す気を見せるのは珍しいのでユリアは立ち上がると彼をソファに座るよう促す。
そのためアルベルトは二人がけソファーの扉側の方に座ると彼女も同じソファーに座る。
二人がけとはいえ、そこまで幅が広いものでは無いので、割と身体がぶつかるのだが、ユリアはそんなことを気にすることもなく横を向くと彼の顔を覗き込むように話を進める。
「それで根拠を教えて。」
「恐らく普通に全ての戦術に対応されて負けると思います。エイノワス家は前回の戦争であまり戦っていませんし、チェーホフ家も今回が初陣ですよね? それに対して前回バリバリ前線で戦ってたあの二人が負けると思いますか?」
こんなの極めて一般的な考えでは?という顔をしながらアルベルトは答えた。
「だとしたらあなたなら勝つことは出来る?」
ユリアは更に彼に顔を近づけると正面から確認するように聞く。
「半々です。ヘンリー家の部隊を相手にするのは少しキツイですし。それにイレスコ基地なら放っておいても戦略的価値があまりないと思いますよ。」
「それもそうね。」
ユリアはこれ以上この話をしても仕方無いかと言う雰囲気を出す。
「まぁ当面の間はあなた達の部隊に仕事はないでしょうし訓練でもなんでもしていなさい。」
「分かりました。」
アルベルトは立ち上がるとそう返事をする。彼女も同じように立ち上がる。
「まぁもしかしたらイレスコ基地関連でまたなにかあって呼び出すかもしれないけど、当分の間はそれくらいよ。あぁ、そうだ。それと今回の作戦はお疲れ様。」
彼女はそう言うとアルベルトの頭を撫でた。
*
「この度は修理をしていただきありがとうございます。」
アルバート・デグレアはイレスコ基地の司令官であるダン・ヘンリーに直接礼を言っていた。
「別に機体の修理くらい大したことじゃない。君達にはクーデター軍が最初に基地を襲撃したときに一緒に戦ってもらったという恩義があるからな。それにイルキア基地の奪還も見事なものだったよ。」
「お褒めいただきありがとうございます。」
アルバートと一緒にいたエミリアが答える。
「ところでアークウィン侯。一つ聞きたいことがあるんだが。」
「なんでしょうか?」
「前線基地を叩いていた部隊にアルバート・デグレアという名前があったんだが、事情を知っているか?」
「それでしたらヘンリー少将の方が私よりもお詳しいのではないですか? どうやら皇子のクローンを作っていた計画は私が知らないところで動いていたみたいですから。」
エミリアがいつもより棘々しい理由はこれかとヘンリーは納得する。
「ということはクローンが生きていたということか。」
「だとしたらなにか問題でも?」
なるほど、ジョン・アニクウェスやエフゲニー・バラノフが忙しそうにしているわけだと納得する。
「だとしても私は無関係なのだがなぁ。」
「そうですか。」
エミリアはそう素っ気なく答える。エミリアとアルベルトの関係性を考えると攻撃的なのも仕方無いかと特になにかを言うことはしなかった。
*
『分かっているな、チェーホフ侯。今回の作戦はわざわざアガニコフ侯が用意してくださったものだ。くれぐれも失敗するなよ。』
「わかっています。」
ジュリア・エイノワスからの通信をノイマン・チェーホフは鬱陶しそうに聞いていた。言われなくても今回の作戦はアニクウェスが自分達のために用意していたこと、そしてユリアがその準備をしていたことなど分かっていた。
そしてそれが彼にとっては腹立たしかった。
チェーホフはユリアよりも一つ年上であったが、家督を継いだタイミングはほぼ同時であった。当初は彼のが今後連邦の上に立つ人物として相応しいという風潮さえあった。
しかしそれも今となっては大きく崩れ去る。
それほどまでにユリアが為したイルキア基地の占拠はインパクトの大きいものであった。
「いつまでもあいつの後塵に帰すわけにはいかない。」
そう呟くとイレスコ基地を睨みつける。
「必ず選挙してみせる。例えエミリア・アークウィンがいようとも……!」
次の投稿は5/8月曜日を予定しています。
また今週水曜日の5/3水曜日からはドミニア帝国設立の物語を投稿しようと思っています。よろしければこちらもご参照ください。




