第六十二話 次の一手(2)
「緊張感に欠けるな。」
「そうね。中身もウィスキーじゃなくて紅茶だし。」
シリルとノンナはウィスキーグラスを傾けながらつまらなそうに話す。
二人とも三日ほど連続で敵基地への攻撃を行っていた。最初の一回目は緊張感があったものの二回目、三回目も同じような内容であった。
そのため二人は今の作戦に不満を持っていた。
「特殊部隊と言ったら映画みたいに極限の状態で戦って勝つものだと思っていたけど。」
「極限の状態どころか少しでも敵に動きがあれば撤退するものね。そして出される指示は単純なものばかり。成果は全て隊長一人のもの。確かに面白くないわよね。」
「本当に。これではいつまで経っても能力が身につかないな。」
「知ってる? 陰ではあの部隊は戦闘もせずに戦果だけ挙げているとか言われているらしいわよ。」
「俺らに言われても困るよな。」
「本当にそうよね。それにしてもいつ戦闘ができるようになるものだか。」
二人はそういうとお互いに笑い合った。
いつか本物の精鋭部隊として認められるようなパイロットになりたいと。そしてアルベルトを超えてみせるとそういう思いをもって二人は紅茶を飲んだ。
*
「本当に敵部隊は来るのですか?」
アルバート・デグレアは自分を前線基地に連れてきたエミリアにそう尋ねた。
イルキア基地復興作業も残っているのにこんなところで油を売っていていいのだろうかという思いがあった。
『さぁ、来るかもしれないし来ないかもしれないし分からないわ。』
しかしエミリアの回答はアルバートが予想していたものと異なっていた。
だとしたらなぜそんな確率が低いところにわざわざ自分たちが出向かなければならないのかという疑問があった。
作戦概要とその意義もエミリアから聞いてはいた。
「これ以上敵の好きにさせたらイレスコ基地が落とされるかもしれないと分かってはいてもなぁ。」
そうぼやいていたときだった。
索敵システムに敵機という表示が出る。
前線基地から少しアクタール基地よりの岸壁にて機体に光学迷彩をはってやり過ごす。
「敵の数は九機か。」
モニターにて肉眼で通過した敵の数を数える。
『全機、迷彩解除。作戦開始!』
彼女の声に合わせてアレースを待機モードから戦闘モードに移行させる。そして背面を向いている敵のうちの一機に狙いを定める。
エミリアのアレースからライフルのロックが解除されたことを確認するとトリガーを引く。
「敵にかすっただけか。」
撃墜出来なかったことが残念ではあったが、敵の背面を取っている今有利であるのは確かであった。
『ヴィオネル基地の部隊と敵を挟み込む。』
「了解。」
その言葉と共にアルバートは引き続きライフルで攻撃を続けた。
*
「敵部隊の待ち伏せ、しかもエミリアか。思ったより早かったな。」
アルベルト・シュタイナーはオレロスのコックピットで事態を冷静に判断していた。
「全機スモーク散布、予定通り敵基地へ爆撃のみ行い撤退する。」
そういいながらアルベルトは一人ヴィオネル基地へライフルで攻撃をする。全機最高速度で移動している中敵基地に攻撃を当てられるとは考えていないので一人で攻撃していく。
風圧などによって全弾命中とはいかないものの、八割程度の命中率で迎撃兵器を破壊していく。
そのまま更にヴィオネル基地に接近する。
「全機、焼夷弾投下。」
オレロスの脚部のウェポンベイが観音開きで開く。その中には二メートル程度の白い筒が一機から片足三個、両足で六個搭載していた。
懸架装置のロックが外れ燃料気化弾が次々と投下され基地に被害を与えていく。
しかしその状況を確認することなく、速度を上げていく。そのままヴィオネル基地の真上を通り過ぎると左に旋回を始める。
「エルミート少尉、このルートに沿って先導しろ。」
『隊長はどうするのですか?』
「一応嫌がらせ程度に敵部隊に攻撃しておく。全機、エルミート少尉のあとに続け。」
ナタリヤが珍しく焦っている様子を見せる。ただ今はそれにかまっている場合ではないと、アルベルトは機体の速度を緩める。そんな彼の横をどんどんと追い抜いていく。
そして最後尾についたのを確認すると、機体を一瞬だけ反転させアルバートの機体に攻撃をする。そのまま直撃したかも確認することなく機体を再度反転させ加速させる。
アルベルトとしては何回か繰り返す予定であったが、アルバート達の速度が遅くなったのでこれで十分かと判断すると全速力で戦域から離脱した。
*
「ここまで距離を開けられたら追撃できないか。」
エミリアは遠く離れていったアルベルトのオレロスを見るとそう諦めた。
「デグレア少佐。機体は大丈夫?」
『はい。なんとか。』
彼からの返事を聞きながらも外からアルバートの乗るアレースを確認する。
幸いにも爆発が起きるような被弾ではないものの作戦行動を継続するのは不可能であった。
「ここまで損傷が酷いとイルキア基地に戻れないか。」
『申し訳ありません。』
「それは別にいいのだけど、ヘンリー少将に頼んでみるか。」
彼女はイレスコ基地にすぐさま電報を送る。するとすぐに了解したとの返事が来た。




