第六十話 新部隊結成(5)
「失礼します。」
黒い髪と黒い瞳の青年、アルベルト・シュタイナーが入ってくる。
「来たか。」
その声が少し嬉しそうになっていたのに気づいたのはこの場にいた第三者のルーシー・メーチェのみだった。
「それでお話とは?」
彼の言葉にユリアは立ち上がるとタブレットを渡す。
「作戦の指令書ですか?」
アルベルトは彼女からタブレットを受け取ると内容を確認する。
「そう。あなた達の初めての任務。」
ユリアは自分に目を向けることもしない彼に怒ることはしなかった。
「威力偵察ですか。確かに精鋭部隊らしいといえばらしいですが。」
彼はそう煮えきらない言葉で返す。それかま暗にまだ部隊として出すのには早いのではないかと匂わせていた。
「まぁそれがこの国の様式美だし、あなたの指揮なら問題は無いでしょう?」
しかし彼女がそう答えると沈黙する。その言葉の意図を考えているような様子ではあったが、ユリアとしてはこの言葉に大した意図は持っていなかった。ただイエスという答えさえあれば他の言葉はどうでも良かった。
「わかりました。作戦の方、必ず成功させます。」
その言葉に彼女は少し嬉しそうに笑う。
「そう。期待しているわ。」
そうしてアルベルトの頭を少しだけ撫でる。
「それでは、失礼します。」
しかし彼はそれに関心も無さそうにそれだけ言うと踵を返した。
その様子を見ていてルーシーはユリアの気持ちが少し分からなかった。彼に好意を持っているのは明白であったがその種類が少し謎であった。
「これで良かった? ルーシー。」
しかしそんな彼女のことなど気にかけることもせずユリアが話しかける。それは今回の作戦を彼の部隊に任せたいといったのがルーシーだったためである。
「はい。今回の強行偵察は元々親衛隊でやろうとしていたものですから。ですが、それだと出撃する人数が足りなくて確認する施設の数が足りませんから。そういった意味で彼が直接出撃しながらも人数が多い部隊の方が適していると言えるでしょう。」
「後はしっかりとやれるかどうかといったところかしら。」
ただその声は完全に彼を信用しきっているように楽しそうなものだった。
「それに関しては問題ないでしょう。シュタイナー大尉ならば引き際もよくわきまえていると思いますから。」
「そうね。」
そう上機嫌に答えるユリアにルーシーはやっぱりアルベルトのことを好きなのかなと思いながら書類仕事を再開した。
*
「聞いた? 新しい作戦があるって。」
いつものように休憩室にいたアルベルトの部隊の小隊長の一人であるシリル・ラークは同じ部隊であり友人でもあるレイナの言葉に顔を上げる。
「思ったより早いんだな。てっきりもっと時間をくれるものかと思っていたんだけど。」
彼は驚いたという顔をして彼女を見る。
「普通こんなもんじゃないの?」
シリルの言葉にレイナは首を傾げる。
「いや、今の訓練状況だと一か月くらいは猶予があるかなと思っていたんだけど。」
「戦争中だからじゃない?」
レイナの言葉を彼は聞かずに更に思考を深めていく。
「もしかして元々別の部隊にやらそうとしたことを違う部隊にやらせている?」
「なに言っているの? 第一仮にそうだったとしても私たちにはそれが事実なのか知りようもないんじゃない?」
「それも確かにそうだけど。ただもしそうだとしたらなにか危険があったから俺たちの部隊に回って来た可能性もあるだろうし。」
そう最悪の可能性を考える。
「それはないんじゃない? 隊長も出るとのことだったし、捨て駒にされることもないでしょう。」
「それは確かにそうだな。少なくともあの人が隊長のうちは部隊全体が捨て駒にされることはない。」
個人はどうかわからないけどなとシリルは暗にいう。
「シリルって隊長のこと嫌いよね。」
「別にそんなことはないと思うけど。」
彼女に言われた言葉に少しドキリとする。ただそれがごまかしているのはレイナの目から見ても明らかであった。
「まぁその気持ち自体は分からなくもないけど。」
「どうして?」
しかし彼女はそんなことをアルベルトに言う気など毛頭ないという感じでそう言葉を重ねた。
「あの人って本音で喋ることないでしょ? だからなにを考えているのかわからないから苦手だわ。」
「それは確かにそうだな。言うこと一つ一つが正論だけど、なんか軽いというか裏がありそうなんだよなぁ。」
「だからこそ出世できたのかもしれないけど。」
「気に入らないな。そうやって無暗矢鱈に戦火を大きくするのは。」
二人は憶測のみで話を進めていく。
「結局誰が上になっても風習は変わらないか。所詮上に立つのは庶民の気持ちが分からないやつばかりということだ。」
シリルはそういうとソファに体を預ける。そうしてふと扉を見ると自動で扉があいた。その音に二人とも見回りかなと警戒を強める。
「アッヘンバッハ准尉。」
「ラーク隊長。」
シリルの小隊の一人であるヘーメル・アッヘンバッハが部屋の中に入ってきた。
「クリヴォフ少尉もお疲れ様です。」
「お疲れ、准尉。」
レイナは部屋に入ってきたヘーメルの背中を押すとソファに座らせる。
「どうしたの? こんな時間に起きて。」
そうしてレイナはヘーメルの頭を撫でる。
「喉が渇いたので飲み物でも飲もうかと。」
「なにか買ってあげようか?」
レイナがそういうと小銭を取り出して自販機に向かおうとする。
「いえ、大丈夫です。自分で買いますから。」
「ほら、いいからいいから。」
そういって嬉しそうにヘーメルを引っ張っていく。
恐らく前に会ったテロで死んだただ一人の肉親であった弟の代わりなのだろうなとシリルは考える。そしてそれはヘーメル・アッハンバッハも同様で、彼もドリスカヤのテロでただ一人の家族であった姉を失っていた。
それほどまでに多くの魔術師が非魔術師のテロ行為で殺されていた。だからこそ彼は今の状況を変えようとこの戦争に参加したのであった。
「新しい作戦か。新しい部隊とはいえ、初めての隊長任務だ。気を入れないとな。」
シリルは自分の部隊から欠員を出さないように決意を固めるのであった。
「あんな部隊の二の舞にはさせない。」
ダースは以前いた全滅した部隊のことを思い出す。そのときの指揮官と同じことをするならば例え命令だとしても無視をする。それが彼の考えであった。
*
『各小隊の担当箇所はブリーフィングで説明した通りだ。これより無線封鎖を行う。全機低空にて極力敵に捕捉されないように注意しろ。』
アルベルトの通信が終わると副官であるナタリヤは彼の機体の後ろを飛ぶ。なにか異常があれば報告をする。それが役目であった。
ただそれだけのことだと分かってはいるものの、初めての実戦のため緊張はしていた。
移動中の無言の時間は緊張感を高めるが、深呼吸をしてなんとか落ち着かせる。そして目的としている基地をレーダで捉える。敵基地は奇襲を予想していなかったため敵部隊はまだ上がっていなかった。
「これが初めての作戦……。」
ナタリヤは攻撃開始をいつでもできるように敵基地の砲台に銃を向ける。
『全機、攻撃開始。』
トリガーにかけていた指に力を入れる。
次は金曜日に投稿します。




