第五十七話 新部隊結成(2)
「すみません、お待たせしました。」
「シュタイナー大尉、いや中尉のままなのか。」
会議室の前に着いたアルベルトはその前に立っていた将官に挨拶する。
「時間の方は大丈夫でしたか? 司令と話をしていたので。」
時間自体は問題なく丁度五分前に到着していたが、念のため言い訳をしておく。
「遅刻はしていないし大丈夫だ。」
表面上は問題ないかと思うが語気が少し強かったので少し怒らせてしまったかとアルベルトは内心思いながらも平静を装う。
「ありがとうございます。もう中に入っても大丈夫ですか?」
「そうだな。挨拶は考えてあるのか?」
「ベッソノワ司令に確認してもらいながら作りました。」
「それは、安心していいのか?」
少佐の言葉にアルベルトは苦笑いする。
部屋の中で待機していた八人の軍人は中に入って来た二人を見ると敬礼する。
「貴官らは中級訓練を修了し、これより新設される特殊部隊に配属されることになった。そして隣にいるアルベルト・シュタイナー中尉が貴官らの隊長になる。中尉は階級自体は高くないが、兵士として、そして隊長としても優秀な人物である。分かっているとは思うが、くれぐれも変な気は起こすなよ。」
将官からの話が終わり一歩引き下がるのを確認するとアルベルトが一歩前に出る。
「本日現時点を持って貴官らは本日新たに発足することとなる第七艦隊第105中隊の隊員となる。知っての通り、我が部隊は精鋭扱いとなるが、貴官らの中にはまだ実戦を十分に経験していないものも多い。そのため最初は退屈な任務となるものもあるだろう。だが、いずれは精鋭部隊として困難な任務を担当することになる。そのためには困難なことがあるだろう。しかしそれを成し遂げなければならないのが我々精鋭部隊だ。失敗することは許されない。ゆめゆめそれを忘れるな。」
手短に挨拶を済ませる。
「各自機体を受け取り次第調整に入れ。以上だ。」
解散というとアルベルトは部屋から出ていく。アルベルトが乗るはずだった機体はまだ完成していないが一応問題がないか確認をするために格納庫に向かった。
*
格納庫にて部隊員が各々機体の話を聞いているのをアルベルトは見て昔初めて新鋭機であるクロノスを受領したときのことを思い出す。そして皆が目をキラキラさせながらそれぞれが整備兵と話しているのを見て羨ましくもあった。
しかし隊長であり機体の受領がまだ先である彼は整備長の元に向かっていた。
「これが今回配属される新型機ですか?」
「そうです。機体名はオレロス、基本的な構造はウルに準じたものとはなっていますが、各部に装備を追加することが出来るように調整しています。また制御出来るパラメータも増やしているため、ウル以上に各パイロットの能力を引き出せると思います。」
大分気合が入っているなとアルベルトは感心する。
「ありがとうございます。それで以前私の機体に搭載するようにお願いしていた通信関係に関してはどうでしょうか? それと推力増加の件に関しても。」
「もちろんです。カタログスペックも全て単体試験ではなく組み上げた後の数値となっています。」
「そうですか。ありがとうございます。」
アルベルトは礼を述べると目の前に並んでいる九機のグレー色の機体のうち、現在艤装中の一機を見つめる。
「この機体が大規模作戦時以外で使う機体か。」
直線的なウルとは対照的に曲線が各部に用いられている機体を見て皮肉気に笑う。
「天使シリーズの機体デザインに似ていますね。」
「元々ベッソノワ家が天使シリーズに似せて作ろうとした機体の技術も参考にしていますか、ね。ただ基本的な構造は、先程も言ったようにウルと同様です。」
「そうなんですね。ところで例の新型機の方は現在どうなっているんですか?」
整備長はその問いかけに少し言葉を詰まらせる。その理由は彼がその機体の主担当でないため知っている情報があまりないため思い出しながら話しているためだった。
「あの機体でしたら現在基本的なフレームは組み立てが終わっています。もちろん帝国軍の機体の技術もふんだんに盛り込んでいます。装甲や武装に関しても現在製造中で問題はないと思います。ただ遠隔攻撃兵器に搭載する予定の動力炉が中々うまく仕上がらないとのことです。」
「やっぱり動力炉は帝国の方が進んでいましたか。」
イルキア基地で取得したデータが役に立っているのに、彼はなんとも言えない気持ちではあった。
「はい。元々素材関係は帝国の方が進んでいましたから、そういった意味では動力炉の製造装置も中々うまくいかないというのが現状です。ただ、何基か完成しそうだとの報告を受けてはいます。」
「それで製造は打ち切りになりそうですか。」
「多分そうなります。なにせ一基開発するのに千基以上の動力炉を作らなければいけませんからね。しかもパラメータも結局ランダムなままなので良品を多数製造するのはほぼ不可能ですし。」
「そうですか。」
そうなるとなにかあったときは替えが効かないということに胃が少し痛くなる。ただそんな彼の憂いを吹き飛ばす一言が整備長から発される。
「機体名と色は後程司令が決めるそうです。」
「色? 機体の色ってグレーじゃないんですか?」
「なに言ってるんですが? ワンオフ機はパーソナルカラーになりますよ?」
「そうなんですか。」
「大尉はどのような色がいいですか?」
「ネイビーとかですね。そういった色が一番機体に映えますから。」
その言葉に整備長はそうですねと遠い目をしながら答えた。
*
「精鋭部隊と言えども、配属されたのはまだ実戦を経験して間もない兵や新兵だけ。これでは精鋭部隊と名乗るようになるのは当分先だな。」
精鋭部隊の第二小隊隊長として任命されたシリル・ラークは落胆するような声でそう感想を述べた。ただ自室と言えども防音がしっかりとしているわけでもないのでそこまで大きな声を出せなかった。
「そうよね。私も最初はようやく精鋭部隊に組み込まれると思って喜んだけど、これじゃあまり意味ないよね。」
同じく第二小隊に配属されているノンナ・パドワはシリルの言葉に同調していた。
「しかしよりにもよって隊長があのアルバート・デグレアとはな。あの人は部隊の指揮経験など全くないだろ。それが急に精鋭部隊の隊長だとか言われてもはい、そうですかとはならないよな。」
その言葉に第三小隊隊長のマドキナが加える。
「しかも今回の人事についてはベッソノワ司令のごり押しだという話らしいし。それなら失敗する可能性が低いように配慮されているとは思うけど。」
「名ばかりの精鋭部隊か。それはそれで嫌だな。」
「そうよね。出来る限り出世するのならば成果を出さなければいけないし。」
「そうだよな。こうなると異動したいよな。」
二人はそういうと力なく笑い合う。




