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第五十六話 新部隊結成(1)

「ナタリヤ……。」


 ユリア・ベッソノワの副官であるルーシー・メーチェはアクタール基地で見つけた妹に驚かずにはいられなかった。金髪をショートカットにしている彼女と違い、妹のナタリヤ・エルミートは赤い長髪であった。


「お久しぶりです。姉さん。」

「最後に会ったのは、去年の夏ごろだっけ?」


 普段と違い彼女は敬語を使わずに腹違いの妹に話しかける。


「はい。二人とも共通の休みがあったのはそれくらいでしたからね。」


 彼女は自分の長い赤い髪をいじりながら答える。その癖は昔から変わらないなとルーシーは思いながら本題へと話を移す。


「今日から配属?」


 妹の軍服の階級章を見てそう尋ねる。 


「はい。ただ入ってもすぐには実戦に出る訳ではなく当分の間は新しい部隊に配属となるようです。」

「新しい部隊?」

「はい。なんでも精鋭部隊育成のために新設された部隊だそうです。」


 それを聞いてルーシーは彼女がどこの部隊に配属されるのか理解した。



 クーデターを開始してから一ヶ月、イルキア基地奪還後は散発的に小規模な戦闘があるのみであった。アルベルトも何回か戦闘はしたものの、大して重要なものでも無かったので敵を適当にあしらうだけであった。


 だから今回ユリアから呼出しを受けたのはなにかしら重要な戦闘があるのだろうと考えていた。アクタール基地を攻撃された際に排除できなかったダース・ユリオンやウラフ・ベリュミルの追撃とかだったら面倒だなと思いながらもユリアの部屋に入る。


 アルベルトが部屋の中に入るとユリアは立ち上がると彼の前まで歩くと一枚の紙を渡す。


「前々から話していたことだけど特殊部隊の中隊長、そのメンバーの初期訓練が終わったわ。だからあなたにはこれからその引き取りに向かってもらいます。」

「はい?」


 アルベルトは渡された紙に呆気に取られてしまう。一方で彼女はそのまま彼の襟元を確認するとため息をつく。


「まだ大尉の階級章つけてないの?」


 イルキア基地攻略の戦果を讃えられ昇進したときから付けている中尉の階級章を見てユリアはそう吐き捨てる。


「昇進ですか? そういった話は何一つ伺ってはいないのですが。というか部隊を持つ話についても噂くらいで内定したという話を今初めて聞きました。」


 その言葉を受けて彼女は机の上にあるモニタで人事データを確認すると大きくため息を吐く。


「あの馬鹿。」


 聞いただけで死人が出そうな声でその一言でアルベルトはなにか問題が生じたんだろうなということだけを把握した。


「まぁいいわ。これ以上あなたの昇進を遅らせるわけにはいかないから当分の間中尉として中隊長やりなさい。メンバーの最高階級も中尉だから。」

「ということは全員随分若いんですね。」

「えぇ。あなたの場合歳いってるパイロットにすると反感強そうだし。」


 その言葉に彼は苦笑いしか返せなかった。


 実際彼より歳上のパイロットであればあるほど、彼と戦ったことがある確率は上がる。いくら前の戦争から数年経っているとはいえ、まだ彼に対し敵対心を持っている人間がいるかもしれないとなれば、ユリアの配慮も納得のいくものだった。


「わかりました。それでどちらに向かえばいいんですか?」

「三階の会議室、そこに二時間後に集合よ。人員表はこれね。」


 アルベルトは自身の携帯端末にユリアから送信されたデータを受け取ると他に仕事を与えられる前にと敬礼して部屋を出ようとした。


「待ちなさい。」

「なにかありましたか?」


 口調とは裏腹にまだなにかあるのかと、アルベルトは怪訝そうな顔で振り向く。


「集合時間までなにするの?」

「休憩なのでゆっくりと休もうかと。それに新しく部隊を率いるのでしたらそのために隊員の顔も覚えておかなければいけませんし。」


 仕事を増やさないようにそうやることを答える。流石にこう言っておけば、ユリアも仕事を増やしにくいだろうと思うような回答を並べておいた。


「ご飯はどうするの?」


 しかし想定していた言葉は彼の予想を裏切るものであった。


「売店で適当に買ってしまおうかと。」

「それなら一緒にこの部屋で食べない?」


 ユリアからの申し立てにアルベルトは珍しいという顔をする。


「その辺に座っていなさい。」


 まだ返事すらしていないのにと思いながらアルベルトは彼女が指したソファーに座る。


 ユリアは冷蔵庫からお弁当を二つ取り出すと机の上にペットボトルのお茶と一緒に置く。

 それはアルベルトにとって少し懐かしい帝国風の物が入ったお弁当だった。


「どうしたんですか、これ?」

「さっきベルウッド侯が来てこれを置いていったわ。あなたと一緒に食べたらと。」


 なるほど、だからかとアルベルトは納得し、加熱式弁当の紐を引っ張る。

 ユリアも同じように紐を引っ張る。


「あぁ、これ加熱式なんだ。連邦じゃこういうのは無かったから少し新鮮かも。」


 そういいながら温めるまでの時間アルベルトはどうしたものかと窓の外を見る。


「今回の人事権に関して不満がありそうね。」


 しかしユリアがそう話の話題を作ってくれた。


「いえ、特に不満などはありません。そのうちこういったことになるということはメーチェ少佐からも伺っていましたので。」

「そう。ルーシーから聞いたの。珍しいわね。」

「なんだかんだで親衛隊だと一番話をしやすいのがメーチェ少佐でしたので。」


 それを聞いて彼女は納得する。


「そういう割には大分嫌そうな顔をしているじゃない。」

「誰でも新しくなにかすることは嫌ですよ。」

「そういう割には新しい戦術を試そうとすること多いじゃない。」

「自分がやるときはいいんですよ。ただ部隊を率いるとなるとそこに責任がつくから嫌なんですよ。」

「そう。だけど私が今回部隊を設立しようとした理由も分かってはいるでしょ?」

「はい。分かってはいるつもりです。」


 その言葉に対して言い返すことは出来ない。


「今度出来る悪魔シリーズ、基本的にはこの機体を扱うには左官クラスでなきゃいけないの。だったら部隊編成の功績で大尉、そしてその部隊を率いて実戦で成果を出させて少佐に押し上げるくらいしか方法が思いつかなかったのよ。」

「それは別に構いませんが……。ただそれだと基地内でも反感を買いませんか?」

「そんなことは分かっているわよ。だけど、この戦争に勝つにはあの力がいるのはあなたが一番よく分かっているでしょ?」

「それについては、そうですね。今の戦力比だと帝国や連邦に負けるのは目に見えていますから。」

「それに今回はルーシーの妹もいるからよろしくね。」


 それも初耳なんだけどなぁと思いながらアルベルトは加熱が終わったお弁当の蓋を開けた。


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