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第五十五話 思い出

「やっと終わった。」


 奪還したイルキア基地で諸々の作業を終えたエミリアは自分の部屋に戻ると大きくため息をついて椅子に座った。

 そのまま机の上にある写真に目を移す。


「アル……。」


 彼女は写真に写っているアルバートの顔をそっと撫でる。

 この時に戻ればもしかしたら違う未来があったのかもしれないのにと思う。


 そんなことを考えても何一つ意味がないことを分かりながら彼女はこの写真を撮ったときのことを思い出す。それは二人が付き合って初めて行ったデートのときに撮った写真だった。



「待った?」


 エミリアが十五歳の誕生日を迎えてからの初めての週末であった。いつも二人でどっか遊びに行くときに集合場所にしている最寄り駅で先に待ち合わせ場所にいた彼女にアルバートは小走りで駆け寄った。


「別に待ってはないけど。」


 私はそう嘘をついた。本当は集合時間の一時間前に来てしまっていた。アルバートも三十分前に来ているのでそこまで遅くはなかったので気を使ってそう答えた。


「そうか。ならいいや。」


 彼はそう言うと私の手を握る。この行動は付き合う前には全く無かったことだった。

 ただどう見ても恥ずかしいのだろう、顔を見ることは出来なかったが耳まで真っ赤だった。

 だからもう少しちょっかいを掛けてみたくなる。アルバートの手を少し強めに振りほどく。それに彼は遊ぶのを辞められたときの子犬のように少し残念そうな目で見る。

 その顔も少し見ていたいところはあったがからかう方が面白そうだと彼の腕に抱きつく。抱きついたところで私のが身長が高いため少し変な体勢にはなる。


「おい待て、エミリア。俺はそんなに目立ちたくない。」


 先程までの優しそうな声と違って、急に冷静な声で話しかけてくる。


「あ、いつものアルに戻った。」


 だからといって辞める気は無いけどとアルバートの胸に顔をグリグリと押し付ける。


「あんまりそんなことやると化粧崩れない?」

「別にパテとか使ってないし。それに崩れやすいところは流石に当ててないわよ。アルの白いシャツも汚れちゃうでしょ?」


 彼からの心配をしたのか辞めて欲しかったのか分からない質問になんとも言えない気持ちになる。それと同時に自分の浮かれていた気分も沈んでくるのを感じる。


「なんかもうちょっとロマンチックにならない?」


 だからいつも通り彼に無茶振りする。


「誰が変な空気にしたんだよ……。」

「え? 私?」


 それは流石に心外なんだけどと首を傾げる。


「いや、こんな明るい時間帯に……。」


 彼がなにかを言ってもそのまま無言で圧力をかけていく。それが一番効果的だと分かっていた。


「分かった。分かったからその顔を向けてくるのは辞めて。なんか辛い。」

「ちょっと、辛いって何よ?」


 流石にこの言葉は許せないと彼を問い詰める。しかし苦笑いでアルバートは逃げようとする。

 そんな彼に少し腹が立ったので髪の毛を引っ張る。


「ちょっ、エミリア。あんまり俺の髪は触らない方がいいよ。刺さることあるから。」

「そんなわけないじゃない。」

「いや、危ないから辞めておいた方がいいって。」


 彼はそう言って私の手を握ってくる。大切にしてくれているのは分かっていたから嫌いではなかった。

 ただ付き合っていても彼にとって私は大切なお姫様のままなのだろうか。それならもし私よりも彼が一緒にいて楽しいという人が現れたら彼は私の元から離れていってしまうのだろうか。

 そんな得体の知れない恐怖が身を襲う。


「アルって私と話してて楽しい?」


 ふとその一言が出てくる。


「どしたん、急に?」


 私がぽろっと零した言葉に心配そうな声を出す。それにしまったなと思うが特になにかごまかす言葉が出なかった。


「楽しいかどうかって言われたら普通じゃない?」

「そっか。」


 なんとも反応に困る返事をくれる。


「というかどんなに面白い人でもずっと一緒にいれば慣れてくるもんじゃないの?」

「待って。私のこと芸人かなにかだと勘違いしてない?」

「?」


 どう見ても彼の認識が私と違うことに気づく。だから私がなにを言っているのか分からないと言った顔をする。


「まぁ別にエミリアのこと、す、好きだしそれでいいんじゃない?」


 そう言って急に照れて顔を赤くするのは本当にズルいと思う。


「ねぇ、アル。」


 そう言って下を向いていた彼が顔を上げるのと同時に抱きつく。


「好き。」

「はいはい。ありがとう。」


 アルはそういうと私を鬱陶しそうに退ける。この流れはいつもの流れだった。


「そういえば私と付き合おうと思ったのなんで?」

「昔から好きだった。」

「いや、そんなことは知ってるから。」


 なんで気付いてないと思ったのだろうか。

 あそこまで分かりやすい人なんて、知識を容易に手に入れることが出来る今の時代では絶滅危惧種だと思っていたのに。


「どうして私と付き合おうとしたのか聞いてるんだけど。だって昔とか絶対私に告白しようとかそんな素振りすら無かったじゃない。」

「そんなこと……無いよ?」


 分かりやすく動揺してる。


「嘘ね。」


 だから顔を近づけて見る。


「最初は無理だと思ってたから。エミリアかわいいし、身分も高いから。だから無理だって。」

「なんでそれでもやろうと思ったの?」

「アインがいけるって言ったから。それにあのときエミリアもなんか怒ってたし。このまま離れ離れになるならって覚悟決めて。それで……。」


 段々と声が小さくなって顔を紅くしていく。それがとても可愛かった。

 だから正面から抱き締める。


「ちょっ。エミリア?」


 驚いているけど、もうちょっとこのまま抱き締めてよ。

 ついでに面白いから写真も撮っちゃお。



「今日も雨か。」


 アルベルト・シュタイナーは病室の外を一人見ていた。彼はイルキア基地でこっそりとエミリアのパソコンから写真を抜き取った写真を一人で眺めていた。


「俺がやりたいことはなんなのか、か。」


 彼はイルキア基地でエミリアに言われた言葉を思い出す。


「俺がやりたいことなんて昔から一つだけだよ、エミリア。俺は君に幸せになってほしい。ただそれだけだ。」

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