第五十四話 居場所
「起きたか、アルベルト。」
アルベルト・シュタイナーの様子を病室でずっと見ていたユリア・ベッソノワは彼が目を開けたことにすぐに気づいた。
「はい。戦況はどうなりましたか?」
「あぁ。バラノフの部隊は撤退した。それとは別にベリュミルの部隊が裏切った。」
「そうですか。ということはアクタール基地内部でも反乱があったのではないですか?」
「よく分かっているな。そちらはもう鎮圧した。だがダース・ユリオンには逃げられた。」
「そうですか。まぁ仕方ないですね。」
彼はそういいながらふと外を見ると自分の顔がかつての自分の顔に戻っていることに気づいたようだった。
「擬態は解いたんだな。」
「はい。もう必要無いので。エミリアにもしっかりと会いましたし。」
「そうか。」
彼女はこの場でそのことについてそれ以上追及する気になれなかった。
「ですがこうして話していると初めて、いやモズ要塞攻略の後に話していたときのことを思い出しますね。」
「そうだな。あの時のお前はかなり荒んでたし、ソフィアもかなり強硬に反対をしていたからな。」
彼女の言葉にアルベルトは笑う。
「懐かしいですね。ただそこまで荒んでいましたか?」
「あぁ。あの時下手に放っておいたら自殺でもするんじゃないかと心配だった。」
「そうですか。まぁ確かにそうかもしれませんね。自分がクローンだと聞いたときはどうしても信じられない気持ちというのがありましたから。」
「そうか。」
それ以上の言葉はユリアから出ることは無かった。
「それにしても一旦有利になった戦況はまた振り出しに戻った形ですか?」
「まぁそうなるな。とはいってもイルキア基地への攻撃でそれなりにデータが取れたからこちらは有利になるような形にはなるが。」
「そうですか。それならいいですが。ところでアガニコフの方はなにか動きがあったりしたのですか?」
「そうだな。やっぱりお前のことが議題になりそうだ。」
彼はそれを聞いてバカバカしいといった感じで鼻で笑う。
「そちらについては問題はないようにする。大切な戦力だからな。」
「お願いします。アガニコフとか他の家の部隊には行きたくはないので。」
その言葉は想定外だったためユリアは驚いたように目を見開く。同時に嬉しくもあった。
昔ソフィアが言っていたなにかあったら彼を頼れと言う言葉をこのときから信じることが出来た。
「あぁ、任せておけ。」
*
『今回貴侯らに集まってもらったのは他でもない。今後の進展についてだ。当初の予想ではダン・ヘンリーの有するイレスコ基地を攻略。その後各敵基地を抑えながら連邦の首都を占領する予定であった。しかし実態は異なる。イレスコ基地への攻撃は失敗。一方で再度奪還されはしたものの、一度はイルキア基地を占拠。敵に与えた被害もイルキア基地が出来て以来類を見ないほどに大きいものになった。』
クーデター全体の取りまとめをしているアリード・アガニコフが現在の状況を説明する。
『それでアガニコフ候はなにを言いたいんだ?』
要領を得ない話に連邦でバラノフ家の次に権力を持っていたエルマ・アスタルが皆の意見を代弁する。
『先ほども言った通り、今後の方針についてだ。当初の予定通りイレスコ基地を攻撃し、そのまま連邦の首都モスキュールに進軍するかあるいは他の方法を考えるかということだ。』
『それなら当初の予定通りイレスコ基地へ攻撃をすればいいだろう。』
アスタルはそう返す。
『だが誰が攻撃をする? ベリュミルが裏切った今攻撃を出来る部隊がないんだ。』
その言葉にアスタルは黙ってしまう。
『それならば私の部隊が攻撃をしよう。』
そのとき間に割って入る人物がいた。帝国軍に所属していたジュリア・エイノワスであった。四十半ばになる彼女は、あまり更けている感じを出してはいなかった。
『ただ一つだけ条件がある。』
『なんだ?』
エイノワスがアガニコフの派閥に入っていることを知っていたアスタルはアガニコフの代わりに確認をする。
『ベッソノワ侯、貴侯の部隊で不当に拘束されているアルバート・デグレアを私の部隊に組み込み運用すればイレスコ基地程度容易に攻略できるだろうよ。』
想定していないものではなかったが急にそう発言をしたエイノワスにユリアはどう返すか一瞬だけ考える。
「エイノワス侯、貴侯の言い分にはまず二つ誤りがあります。一つ目がシュタイナー少尉を使ったところでイレスコ基地の攻略は厳しいでしょう。今回イルキア基地を攻略できたのはかなり綿密に計画を練っていたからです。あなた方みたいに適当に立案した作戦では奇襲攻撃を失敗するのは目に見えています。そしてもう一つですが、不当に拘束などしていませんよ。第一少尉は私の部隊にいたいと言っている。であればそれを強引に移すのは問題だと思いますが?」
『それは私を侮辱しているのか?』
「そうまでは言いません。ですが、あれだけの能力のあるパイロットを無暗矢鱈に消耗させたくないということです。」
ユリアは徹底的なまでに断る姿勢を見せた。
『だとしてもユリア、君にそこまでの実力があると?』
「だとしたら貴侯がやったらどうだ、ノイマン・チェーホフ。」
連邦の辺境伯の一人でありユリアと同学年であるチェーホフからの売り言葉に彼女はすぐにそう返した。
『怖いなぁ。それに君の場合作戦が成功したのは君の能力じゃなくて彼一人の力だよね?』
「そうだ。別に私の能力ではない。だがこの成功は私の部隊だからこそできたことだ。それに当初の規約では各家の戦力は各家に任せるとあったはずです。それを早々に破るおつもりですか? アガニコフ候。」
これ以上自分が話せば議会の場が紛糾すると考えたユリアはアガニコフにボールを投げる。それに対してアガニコフは答えることはしなかった。
『アガニコフ候、この場ではいくら話したところでまとまりそうにない。それなら一度持ち帰って検討する形のがいいのではないか?』
アスタルがそう意見を言う。
『そうだな。今後の方針についてはまた別途決める。まずは各部隊、自分の領土を確実に守り切れ。』
それだけ言うと会議は終わった。ユリアは会議のビデオが切れたのを確認すると椅子の背もたれに体を預け大きくため息を吐いた。
「思ったより人気があるんだな。」
そう呟く彼女は今後も他の家に取られないように気を付けなければと対策を考えることにした。
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次は火曜日か水曜日に投稿します。
また二章については次で終わります。




