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第五十話 アルベルト・シュタイナー(3)

『エミリア様。』

「エチュード少佐、戦況は?」


 研究施設から出て自機のアレースに乗り込んだエミリアは周辺に待機させていたエマソンにそう尋ねた。


『基地の制圧は完了しました。今は一部が敵の追撃にあたっています。それと……。』

「どうしたの?」

『それと先程デグレア少佐の乗るクロノスがすごい勢いで出ていったのですが……。』

「クロノス?」

『はい。本当はエイブラウ隊長に用意するはずだったあの機体です。ですが、なぜ少佐があの機体を知っているのですか?』


 彼女からの問いかけにエミリアは黙ってしまう。その間にアルバートのアレースが起動を開始していた。


『あれ? でもなんで少佐が今ここに?』

「追撃部隊は撤退させなさい。今の状態じゃこちらが不利になる。それと少佐なら今ここにいるわ。さっきのは……、さっきのは……。」


 彼女は一瞬言葉に詰まってしまう。


「少佐のクローンよ。私達が前の大戦まで一緒にいた。」

『え?』

「先に全部隊に撤退の指示を出しなさい。アル相手にあの程度の戦力じゃ太刀打ち出来ないわ。」

『分かりました。』


 エマソンからの通信が切れると彼女は大きくため息を吐いた。


「どうして、こうなったのよ……。どうして……。私はあのときどうして彼をしっかりと引き留めなかったの……。あのとき、最後の戦いの前にしっかりとアルの気持ちを理解してあげていれば……。いや、最初から私がずっと一緒にいる素振りさえ見せておけば……。下手に意地を張らないで、戦果を出さなくても大丈夫だって安心させていればなんとかなったかもしれないのに……!」


 悔やんでも悔やみきれない思いが彼女の頭の中をぐるぐる巡っていた。



「ウラフ・ベリュミルに基地の防衛を任せたのは失敗だったな。」


 ユリア・ベッソノワは再び自らの愛機であるイルクオーレに乗ってイルキア基地付近まで来ていた。

 彼女が自ら出撃した理由としては二つあった。

 一つがウラフ・ベリュミルの護衛であった。これはアリード・アガニコフから依頼されたことであり、貸しを作っておくという意味でも引き受けた。

 しかし彼女としてはもう一つの方が本命であった。


「最高戦力をこんな序盤で失う訳にはいかないしな。」


 アルベルトの回収が彼女にとって最優先事項であった。


「ベリュミルの部隊も思ったより下がってきているな。」


 ベリュミルが乗っている航空機やその部隊を見つけると、彼女はアルベルトの機体を探す。しかしベニカ・ダーロヴィやテロルド・アーバンの乗る機体はあってもアルベルトの乗る機体はなかった。


「ダーロヴィ大尉、シュタイナー少尉はどうしている。」


 ユリアは彼の現時点での隊長であるベニカ・ダーロヴィにそう尋ねた。


『シュタイナー少尉ですか? いえ自分はなにも分からないです。』

「なんだと? どういうことだ?」

『急に襲撃を受けたもので、そこからすぐ撤退してて、あまり良く分かっていないです。』

「もういい。」


 ユリアは一方的に通信を切る。


「敵に捕まったらかなり不味いな。」


 せめてそれだけは勘弁してほしいと思いながらイルキア基地の方へ向かう。そのさなか遠方から一機のクロノスが他の帝国軍の部隊に追いかけられていた。


「この識別コードにこの魔術波長。」


 ユリアは表示されているアルバート・デグレアという名前と味方の識別コードに気づいていた。


「そうか。とうとう隠すのを辞めたのか。」


 彼女はすぐに機体を前進させアルベルトの乗るクロノスの方に向かう。


『司令!?』


 無防備にクロノスに近づくユリアにルーシーから通信が来る。


「予定通りシュタイナー少尉の回収を行う。親衛隊各機は彼の援護をしろ。」

『え? シュタイナー少尉ですか?』


 イオクが皆の言葉を代弁する。


「なら言葉を変える。今敵に追われているクロノス、それの援護をしろ。」

『ですが、あれはアルバート・デグレアでは?』

「いや、あれがアルベルト・シュタイナーだ。詳細は後で説明する。」


 クロノスがとの距離を一定まで近づけると、イルクオーレの左腰に搭載されているスモークグレネードを投げたあとライフルで狙撃する。

 周囲には灰色のガスと共にキラキラとアルミ箔が周囲を舞う。


「無事か、アルベルト。」


 煙幕を抜けて来たクロノスにユリアはそう話しかける。


『はい。』

「ならばいい。全部隊、攻撃準備。敵部隊を追い払うぞ。」


 彼女がそう告げ、準備を始めるもクロノスの部隊はスモークを突破する部隊はいなかった。

 しばらくしてスモークが消え青空に戻ると敵部隊はイルキア基地の方へ撤退していた。


「こちらもアクタール基地へ撤退するぞ。」


 彼女はそういうとクロノスとイルクオーレを並走させて基地に戻ろうとしていた。


『司令! 基地が攻撃を受けています!』


 アクタール基地司令部からの通信にユリアは眉を顰める。


「攻撃? どこから攻撃を受けている?」

『バラノフ家です。』

「このタイミングでバラノフ家か。分かった。こちらも戻り次第対応する。」


 ユリアはイルクオーレの速度を上げる。それに倣ってアルベルト達も機体の速度を上げた。

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