第四十九話 アルベルト・シュタイナー(2)
エミリアは目の前の光景が、アルバート・デグレアであった人物をまじまじと見る。中々彼の言葉が実感として湧かなかった一方でその言葉が真実であると信じられた。
今まで彼女が見て来たアルバート・デグレアという人物はそういう人物であった。
だからアルバートが生きていて嬉しいと思う。
「なんで、どうしてアルがそっちにいるのよ! 」
だからこそ彼女は彼に対して怒りをぶつけていた。それが八つ当たりになっていることは彼女が一番理解していた。
「あのとき約束したのに! 帰ってくるって! なのに!? なのに、どうして……。」
「エミリア……。」
アルベルトはそれを受け流すことも反論することもせずにただ受け止めていた。それが彼女がよく知っている彼のあり方であった。いつでもそういう姿勢の人だった。
だからこそ彼が彼女がよく知っている人物だということが分かった。
しかしその一瞬の間がアルベルトの油断を誘ったことをアルバートは見逃さなかった。
「裏切り者が偉そうに!」
アルベルトの力が弱まった瞬間、彼の足を跳ね除けると、立ち上がる。
「上から偉そうに! 作られたものならその使命を全うしろ!」
「ふざけるな!」
その彼の表情が今すぐにでも泣いてしまいそうな、そんな不安定さをエミリアは感じ取った。
はたから見れば怒りのみだが、エミリアはその裏にある感情をすぐに察知してしまった。
「裏切ったのはどっちだ!? 帝国が先だ! 帝国が俺の居場所を奪ったんだ!」
だから復讐する。もしエミリアがアルベルトという人間のことをよく知らなかったらきっとそう思ったのだろう。
しかし、彼には恐らく別の目的がある。その目的のためには正体を明かす必要があった。ここを選んだのはただの偶然ではある。しかしその目的だけがエミリアには分からなかった。
「お前には分かるまい! お前だけには!」
そのときアルベルトが大きく咳き込む。その瞬間にアルバートが飛びかかろうとするがエミリアはそれを止めた。彼にもうこれ以上傷ついて欲しくないと。
「アル!」
「俺にはもう時間がないんだ! だったら!」
アルベルトは口元から血を流しながら二人を睨みつける。
だとしたら……。
「だったら! どうして私の元にいないのよ!」
それは悲痛な叫びだった。彼はエミリアを見て黙ってしまう。
「ねぇ、お願い、アル。こっちに来て。来てくれたら私も覚悟を決めるから。だから……。私にはあなたが必要なの。」
そう手を出すエミリアにアルベルトは彼女の手を取ることはしなかった。
「私と一緒に居てよ。私の傍からいなくならないでよ……。」
子どものようにエミリアは言う。アルベルトはそれを見ても狼狽える素振りを見せなかった。
「俺がエミリアと一緒にいても重荷になるだけだ。」
「そんなことあなたが決めることじゃない!」
エミリアの否定の言葉にアルベルトはゆっくりと首を振る。それが拒絶の証だとエミリアは理解してしまった。
施設に重い爆発音が響く。
アルベルトはその音を聞くとすぐに走り出す。エミリアはそんな彼を追いかけようとするが、無理だった。
「お願い、アル。私を置いていかないで……。」
その一言は誰の耳にも届くことはなかった。
*
アルベルトは研究施設の内部にある格納庫で保存されている機体を探す。
「あった!」
そして目当てだった機体を見つけると即座に乗り込む。その機体はかつてのアークウィン家の親衛隊隊隊長であり、そしてアルベルトやエミリアの隊長でもあったブライム・エイブラウが向けにカスタマイズされていたクロノスであった。
と言っても実戦に出る前にパイロットであるエイブラウが死んでしまったため日の目を見ることは無かった。
アルベルトは機体に飛び乗るとすぐさま起動スイッチをONにする。燃料などは内密に入れておいたので心配はなかったが起動テストを行うことは出来なかったので内心不安だった。
流石にあのような別れかたをした後に捕虜として捕まるのは恥ずかしすぎると思いながらも点灯するコンソール類を見てホッとする。
「生体データ認証確認。」
かつてブライムが何かあったときに乗れるようにと便宜を図ってくれた。それが出来るか不安であったが使えることも確認できた。
「よし、いける。」
アルベルトは機体の敵味方識別コードを今のものに変更するとすぐに研究所の格納庫をクロノスの右腕のプラズマサーベルで切り刻む。厚い鉄製の壁が高温のプラズマの束により赤熱し溶かされていく。次に隣にある武器格納庫に向かい、ライフルとバズーカを取る。
そしてバズーカを使い天井を撃ち、出来た穴から青空になっている外に出るとすぐにレーダーを確認する。
「この基地ももう駄目か。」
イルキア基地の大半が敵に占拠されていることを上空から確認する。
その時コクピット内に高い電子音が鳴り響く。
鬱陶しそうにその警告内容を確認すると三機の連邦のキャスター一個小隊が接近していた。
それをアルベルトは忌々しそうににらむ。
「流石に邪魔だな。」
行く手を阻むように立ち塞がる部隊を相手を、アルベルトはかつての自分の戦い方を惜しむことなく出していた。




