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第四十七話 イルキア基地奪還作戦(2)

 帝国軍の主力機である灰色の機体、クロノスの胴体を青い光が貫く。

 本来少尉であれば敵の撃破に喜ぶところである。しかしアルベルト・シュタイナーは焦っていた。

 周囲に展開しているクロノスの部隊に対して戦力的には劣勢であっても戦術では優位に立っていたにも関わらず。


「クソ! 機体の反応が悪い。そろそろ体力も限界に近いのか。」


 ここ数日の生活を彼は思い出すと、思い当たることしかなかった。しかしそんなことを考えてもどうしようも無いのでとりあえず周りにいる敵を次々と撃破していく。


「とりあえずこれで撤退を……。」


 そのとき遠距離からプラズマライフルによる攻撃が来る。その攻撃を躱すと青い筋はそのまま直進していく。その弾道にアルベルトは興味も見せず発砲した敵を見ると大きくため息を吐く。


「あの機体は……。こんなときに限って!」


 アルバートとエミリアが駆るアレースから迫り来るプラズマライフルの攻撃を回避する。しかしその動きにはいつものような繊細さはなかった。同時にウルの右腕に搭載していた機体の半分ほどの長さがあるプラズマライフルを撃とうとするもトリガーにロックがかかっていた。


「この! この機体の速度では振り切れないし……。」


 ウルのプラズマサーベルを引き抜く。


 それに合わせてアルバートの乗るアレースも赤色に発行している高出力のエネルギーサーベルを引き抜く。

 二機は周囲に火花を散らせながら互いの剣の柄を合わせてつばぜり合いをする。


「クソ! こうも反応されるとは。俺も焼きが回ったか。」


 一撃でアルバートの乗るアレースに攻撃を与えられなかったことにいら立つ。その怒りを敵にぶつけるが、状況は何一つ好転しなかった。


『アルベルト・シュタイナー少尉。降伏しなさい。今なら待遇の保証もします。』


 エミリアの声がコックピットに響く。彼はその声を聴いて一瞬だけ反応が止まる。


「それは無理ですね。」


 そう答えるものの返すまで少し間があった。

 出来るのなら降伏をしてしまいというのはあった。

 だからこれでこの通信は終わってくれとアルベルトは思う。

 しかし彼のその思いは届かない。


『どうしてそこまで。』


 そう答えるエミリアの声は少しだけ悲しそうなものだった。しかしアルベルトはその言葉にイラつく。

 他人の気持ちも知らないでと。少しだけ八つ当たりになっていることにこの時のアルベルトは気づかなかった。


「やりたいことがあるからですよ!」


 その声に合わせてアルバートの駆るアレースとのつばぜり合いを解く。


『命を懸けてまで一体なにをやりたいというの?』


 エミリアは彼の意見を聴こうとする姿勢を崩さない。

 彼にとっては彼女のその態度が昔から一番きつかった。


「それを今言ったところでどうなると?」


 そのときアルバートの機体が再び突っ込んでくる。

 アルベルトのグレー色のウルはアレースの赤い斬撃を難なく躱すと蹴り飛ばす。


『グダグダと! こっちの気も知らないで!』

「それはこちらのセリフだ! お前に俺のなにが分かる!」


 ウルはアルバートの駆るアレースの腰の部分に斬撃を入れる。その攻撃は胴体部にコックピットまでは達しなかった。しかしジェネレータ直結のエネルギー伝達ケーブルのうちの一本を切り離していた。


『パワーが……。』


 動力系統が切断されたアラーム音がアルバートの機体のコクピットに響き渡っていた。


『アルバート!』


エミリアがアルバートを心配する声がアルベルトの癪に触る。


『下がりなさい、デグレア少佐!』


 まだアルベルトに対して攻撃の意思があった彼に対してエミリアがそう叫ぶ。


『ですが!』

『いいから早く!』


 アルバートの乗るアレースがウルから距離を取る。その代わりにエミリアのアレースがウルに接近する。


「当てるわけには!」


 一瞬だけトリガーのロックが解除された。その瞬間にアルベルトは威嚇にも牽制にもならない射撃をエミリアのアレースにする。そしてそのどれもがアレースから大きく外れてしまっていた。


『馬鹿にして!』


 突っ込んでくるアレースから逃げようとウルはスモークグレネードを投げる。周囲は三十センチ先も見えない暗闇となるが、近距離になりすぎたため機体の位置を隠すのにはなに一つ意味を為さなかった。


 アレースからの斬撃をでウルの両足が切断され、そしてもう一撃とばかりに上から来る袈裟斬りをプラズマサーベルで受け止める。


『もう一度言うわ、シュタイナー少尉。すぐに武装を解除して投降しなさい。』


 上から切り込まれている不利な状態にいるアルベルトにエミリアは冷静にもう一度だけ告げる。


「だから、投降は出来ないって言っているじゃないですか!」


 ウルのスラスターを最大限噴かしてそれをなんとか抑え込む。


『どうしてこの状況でそこまでユリア・ベッソノワに尽くそうとするの!?』


 二機は互いのスラスターの出力を調整しながら空中でのホバリングの状態を維持する。


「それは……。そうしなければ、俺は!」


 アルベルトがそう言った瞬間、ウルの二基あるメインブースターのうちの一基の出力が急激に低下する。

 アレースはその状態のウルを助けようとした結果絡み合った二機は地上に落下する。


「まずいな。」


 アルベルトは即座にウルをアレースの下に潜り込ませると残ったメインブースターとスタビライザーを制御する。その結果ウルはアレースに押しつぶされる形になりながら地面に激突した。

 その不快な逆Gに耐えながらもアルベルトはコックピットのモニターを確認する。


「っ。ブースターも燃料の供給口が破壊。クソ! 動けないか。」


 その瞬間コックピットにアラームが響くと同時にアルバートのアレースがこちらに照準を定めていることに気づくとコックピットを開ける。


「逃げなきゃ死ぬか。」


 アルベルトはそれだけ言うと痛い頭を振りながら機体から降りると近くにあったイルキア基地の研究施設に向かう。


「よりにもよってここで撃墜されるとは……。しかもこのタイミングで。皮肉にもほどがあるぞ。」

「待ちなさい!」


 しかし、そんな彼を逃がさないとばかりにアレースのコックピットハッチを開けたエミリアはその後を追う。



 投降しないアルベルトのウルにアルバートは銃を向ける。


『少佐。彼は捕まえる。』


 いつも通りのエミリアの声がコックピットに響く。彼はその言葉に驚くことは無かった。


「なぜそこまで……。」


 エミリアがアルベルトを気に掛けていることがつまらなかった。だからといって一時の感情でアルバートを殺すことはしなかった。


 だが、すぐにまた別のことが起きる。


 アルベルトが乗っていたウルのコックピットが開く。同時にアルベルトは外に出てイルキア基地近くの研究所に向かう。

 アルベルトはそれを確認するとアレースのライフルを彼に向けた。それをしたのは嫌な予感がしたからだった。

 しかしエミリアが同時に降りて来たのでライフルを向けるのを辞めた。


 そして自身の機体をエミリアたちの付近に着陸させる。コックピット内にある銃身が短いサブマシンガンのような形をしているPDWを持つとコックピットから降りる。


「白兵戦は苦手だが……。」


 PDWのセーフティを外すと彼は二人の後を追って研究施設に入った。

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