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第四十四話 激突

「アークウィン大佐。」


 イルキア基地陥落から一晩明けたイレスコ基地のブリーフィングルームでエミリアはダン・ヘンリーと話をしていた。


「このままハニモーフ基地を一回切り取ってしまいましょう。そちらの方が敵の出鼻を挫けます。」


 エミリアはそう決意を持った声で言う。


「それはこちらとしては助かるのだが、本当にそれでいいのか?」

「はい。今更慌てて取り戻しても意味は無いですし。それよりも先に敵の基地を刈り取ってしまった方が確実にいいと思います。」

「分かった。だが部隊の編成はどうするんだ?」

「イルキア基地から派遣された部隊と大隊一つ、それと地上への侵攻部隊を最低限借りられればいけます。」

「分かった。その辺は君の好きなようにするといい。」

「ありがとうございます。」

「それで昨日の映像は見たのか?」

「イルキア基地陥落時の映像ですか?」


 話を切り替えられることにエミリアは嫌そうな顔一つせず尋ね返す。


「あぁ。一人のパイロットにあそこまでやられるものなのか?」

「普通では考えられません。敵も用意周到に準備をしていたものと思います。」

「それは分かっている。俺が聞きたいのはあのパイロットのことだ。」

「シュタイナー少尉ですか?」

「知っているのか?」

「はい。何回か一緒に戦いましたし、話したこともあります。」


 そう答えるエミリアの瞳は少し揺らいでいた。


「もしかして、以前のアルバート・デグレアに似ていたとか?」

「はい。ですが、あくまで似ているのは仕草だけです。なので記憶を移植された可能性は低いかと。」

「そうか。」


 その答えにヘンリーは一瞬考えるように顎に手を当てる。


「まぁそちらの方は今考えても意味はないか。それよりもハニモーフ基地の件、頼んだぞ。」

「はい。」



『デグレア少佐。分かって入ると思うけど今回はしっかりと私の言うことを聞きなさい。』

「はい、分かっています。」


 アルバートはエミリアからの言葉に答えると、アレースのコックピットモニターから目の前に広がるハニモーフ基地を見る。

 基地からは続々とデュラハンが出撃してくるが、その大半は先日のイレスコ基地で失ってしまったため、戦力差は帝国軍のが有利であった。


『全機攻撃開始。』


 敵部隊のデュラハンの一機に狙いをつける。そしてプラズマライフルを撃つ。いつもと変わらない単純作業であった。



「はぁ。まさか私が駆り出されることになるとは。アガニコフめ。なにが最初から負けたくないだ。人には失敗するかも分からない仕事を押し付けておいて。」


 ユリア・ベッソノワは愛機であるイルクオーレに乗っていた。

 そして迫り来る帝国の部隊に対してライフルを構える。


「それにしてもアルバート・デグレアとエミリア・アークウィンか。アルベルトにばれたら怒られそうだが……。」


 エミリアの機体に狙いを定める。

 引き金を引く。

 しかし発射された弾はあっさりとアレースは回避した。


「やはり躱すか。」


 ユリアはそれでもエミリアの機体に攻撃を続ける。


「だが目的は達したな。」


 イオクやルーシー、ダースが戦場に到着したことを確認するとユリアは一回戦場を離れ遠距離から攻撃する。


 あの三人なら問題なく対応できるだろうと考えていたが、その考えはあっさりと崩れ去った。

 三機のウルがエミリアとアルバートの機体に押されていた。


「もしかして抑えきれなそう……?」


 ユリアは押し込まれている親衛隊を見て少し嫌な予感がする。

 その予感はあたり、一機のアレースが突っ込む。


「アルバート・デグレアがこっちに来るか。いいだろう。」


 イルクオーレはスタビライザーを展開し、精密射撃のライフルを構える。


「エネルギー充填完了。」


 各システムを確認しながらアレースに照準を合わせ、ライフルを一秒間隔で次々に撃つ。偏差射撃を高速度で行うことが出来るのがユリアの一番の強みであったが、彼の機体はそれをことごとく回避していく。


「全部かわすか。」


 そしてプラズマサーベルを引き抜いて接近戦を仕掛けようとする。今までのユリアであったら近接戦に持ち込まれていたら下がっていた。しかし、このときだけは違っていた。


 イルクオーレのサーベルを引き抜くと横薙ぎに払う。それはアルバートのアレースのプラズマサーベルのプラズマ部分を吹き飛ばしていた。そしてイルクオーレは横薙ぎに払った際の回転を生かし、そのままアレースを回し蹴りをする。


「いつまでも近接戦が苦手だと思われては困るな。」


 そして体勢を崩したアレースに再び斬りかかる。

 しかし、それをすんでのところでアレースはイルクオーレの腕を掴むことで受け止めていた。


『なぜこんな戦争を起こす?』


 接触回線でアルバートからの通信が来る。


「こちらの要求を飲ませるために決まってる。魔術師のみの国を認めろと。なにかおかしいことでも?」

『そんなことをしてなにになる!?』

「魔術師たちが安心して暮らせる場所を作るだけ。迫害とかもされない場所を。」

『今の国だってそれは十分に出来ているはずだ!』

「それが出来ていないからこうなっているの。テロを起こされても、起こされた方が悪いと決めつける。それのどこが安全だと?」


 ユリアはその言葉と共に強く一撃を入れる。それをアレースは辛うじてかわす。


「魔術師だから強者だと決めつけ人権を奪うようなことを平然とする。」


 次の一撃はアレースの装甲をかすめる。


「魔術師だから汚ないことをやっていると被害者を誹謗中傷する。」


 次の一撃はアレースの肩先を切り落とす。


「魔術師は戦力になるからと魔術師を人工的に造り出しておきながら、いらなくなったら追放する。」


 そしてもう一度剣を振り上げる。


「そんなことをしている現在の国が安全だとでも? 非魔術師に行われるのは禁止されている行為が魔術師には容認されているのが正しいとでも?」


 アレースは正面からその剣を受け止めた。


『だからといってそれが非魔術師達を突き放す理由にはならないはずだ!』

「いや、理由としては充分すぎるだろう。寧ろ今までのことを感謝して貰いたいくらいにな!」


 そのままイルクオーレの実体剣はプラズマサーベルを押し込もうとする。


『それが正しいと、本当に思っているのか? 人が人を助けるのに理由が必要だとでも?』

「その傲慢さがそもそもの原因だ。他人にまで善意を強要している、それが今のこの状況を作り出している一因だ!」

『違う! 人の思いは!』


 その言葉と共にプラズマサーベルの出力が上がる。


『人の善意は!そんなものでは!』

「そう信じて他人を助け続けた結果、非魔術師には国家に対する当事者意識が無くなった。」


 ユリアの言葉はただ正しかった。だからこそ彼女はこの場で最も正しい判断をする。弱めていたイルクオーレのスラスターを前回にして鍔迫り合いからアレースの姿勢を崩す。


「これで!」


 イルクオーレの銃口がアレースに向けられると彼女はライフルの弾を撃つ。しかしそれはどれもアレースのコックピットには当たらなかった。

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