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第四十二話

 連邦の辺境伯の一人であるウラフ・ベリュミルにはある夢があった。


 争いが起こらない世界を作ること。

 そのきっかけが大学で出会った教師でありその思想であった。その思想はかつて連邦内で流行った共産主義をさらに発展させたものだった。


 当時は何をバカなとも思ったが戦場に出てその考えは変わった。


 殺人、略奪、強姦。

 その醜態をみてウラフはこう思った。


 人は愚かなものである。


 そのような思いを十年前の紛争に参加したとき以来抱き続けていた。


「今こそその夢を叶えるときか。」


 ハニモーフ基地の司令室に座り、戦況を確認する。

 後は前に踏み出すだけだと。


「よし。予定通り攻撃は出来そうだな。」

「はい。ですが、アークウィン家の親衛隊が敵の方にも増援が来ているとの報告があります。」

「アークウィン家ということはアルバート・デグレアもいるということか。」


 その言葉に副官は重々しく頷く。


「面白い。帝国で最強と名高いパイロットをここで打ち取ったら我々の地位も盤石になる。」


 ベリュミルはいかにも楽しみだという感じでそういった。


「この世界を変えるのはアガニコフではなくこの私だ。」



 ベリュミルの一声から始まった戦闘は思った以上に帝国軍が圧倒的に優位な状況で進めていた。


「所詮はロートルか。あるいは実戦を経験しなかったのか。」


 アルバートは数十機のデュラハンを撃墜していた。


「この防衛網を突破すれば敵艦隊か。」


 まだ二百機程度のデュラハンが残っていたが、既に次の行動を考えていた。


 接近してきたデュラハンを一機プラズマサーベルで切り捨てる。

 しかし彼にある思いはかつてのように過去の自分を超えたいというものでは無かった。


 とにかく戦争を早く終わらせたい、その思いの強かった。


 そのためには敵の出鼻を完膚無きまでに叩き潰さなければならない。


 その想いのみを胸に秘めて彼は戦い続けた。



「あの戦い方。」


 エミリアはアルバートの戦い方がいつもよりも恐れが無いことを感じ取っていた。かといって動きが大雑把になっているかと言えばそういうことも無かった。その戦い方は記憶を失う前のアルバートの戦い方とも違うことに得も知れぬ違和感を感じた。


「α中隊各機、これより第五艦隊を攻撃する。」


 一瞬艦隊への攻撃を辞めようかと迷ってしまうが、エミリアはその考えを振り切った。

 今ここで攻撃を躊躇すれば、敵艦から更に百機近くのキャスターが射出される。それだけは避けたかった。


「大丈夫。行けるはず。」


 エミリアはそう小さな声で一人呟くとあらかじめ立てていた予想進路に機体を向ける。


 失敗することは許されない。


 その重圧と戦いながら、彼女の機体を先頭に、十二機のアレースが編隊行動をとった。



「護衛艦隊はなにをしている! たった十二機のキャスターになぜこうも艦隊が押し込まれているんだ!」


 ウラフ・ベリュミルは自身に与えられた基地、ハニモーフ基地から第五艦隊とエミリアの部隊の戦闘を見ていた。


 数では圧倒的に勝っている状況でなぜ負けているのか、それが理解できなかった。


「恐らく、敵部隊に搭載されているコンピュータがかなり高度なものだと。」


 彼の副官がそう答える。


「それだけであそこまでいけるものなのか。」


ベリュミルは先ほどまでとは対照的に落ち着きを持った声でたずねる。


「はい。」


 だが、それ以上に敵の技量に依るところが大きい。副官はそう言いたかったもののその言葉は出さない。

 それが、彼がベリュミルから信頼される所以であった。

 そしてその限りにおいて、彼の待遇はかなりいいものであった。

 ベリュミルに対してもこうした方がいいんじゃないかと思うことも無くはないが、それでも忠誠心を持ち合わせていた。


 だからこそ自分に都合のいいことしか言わない彼をベリュミルは信頼していた。


「ならば、どうする?」

「ここは一度退かせましょう。このままでは艦隊に甚大な被害が出ます。」

「だが、それでは。」

「敵が追撃してきたところを再び包囲すればいいのです。幸いにも撤退ルートには岬もありますし。それにどのみちこの状況では体勢を立て直さなければ全滅します。」

「いいだろう。」


 ベリュミルの言葉を遮ってまでいう副官の言葉に彼は従った。



「敵が後退していく?」


 エミリアは第五艦隊の動きに気づくと一瞬考える。


『追撃はどうする?』


 ダン・ヘンリーからの通信にエミリアは考えを決めた。


「今ここで追撃するのは少し危険な気がします。向こうの予想進路に岬がありますので下手するとそこで包囲される可能性が……。」

『確かにそうだな。分かった。一度下がってくれ。』

「はい。」


幸いにも追撃しろという指示が出なかったことにエミリアは胸を撫で下ろす。同時に基地からも撤退信号が出る。


「全機撤退だ。」


 エミリアはそういうと自身の機体の向きを反転させようとしたときだった。


 一機、追撃するアレースがいた。


「アルバート!? なんで。」


 だが、そうも言ってはいられない。


「デグレア少佐。撤退だ。直ちに追撃を辞めなさい。」

『けど、ここで逃したら!』


 それこそなんのために戦っているのか分からないと。


『大佐!』


 エマソンからも通信が来る。


「エチュード少佐は撤退の指示をしなさい。彼は私が連れ戻す。」

『ですがそれでは危険では』

「それでもやらなきゃいけないの!」


 エミリアは彼女の言葉など聞きたくないと通信を切るとアルバートの後を追った。

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