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第三十九話 始動

『魔術師を軽々しく扱う現政権を許すな!』


 連邦の首都モスキュールでは魔術師による大規模なデモが起きていた。彼らの大半はテロによって家族が殺されたりしたものだった。そして再び発生しようとしていたテロを抑止した魔術師の家族たちもいた。


 そのデモを見ながらも鎮圧を任されているエフゲニー・バラノフはどのように鎮静化しようかと考えていた。いかに負傷者が出ずに鎮静化することができるか。それだけが目的であった。


「とりあえず放水で対応させろ。決して死者を出すな。」


 彼は慎重な対応をとることを意識した。この状態から国が分裂することの無いように丁寧に処理をしようとしていた。

 そのときだった。

 広場に一発の銃声が響く。最初は何が起こったのか理解できたものは誰もいなかった。


 だがそれに合わせるように今度は装甲車が発砲を始める。


「何をしている!?」


 そんなバラノフの言葉とは裏腹に装甲車は前進し、魔術師たちをひき殺していく。


「これでは……。」


 エフゲニー・バラノフは額に汗を浮かべた。



「ここまでやるとは……。」


 テロの様子を見ていた連邦の辺境伯の一人、アリード・アガニコフは失望したような声で言う。

 バラノフと同年代である四十半ばの彼はその光景にこれでは連邦はもうだめだなと見切りをつける。


「やはり非魔術師を上に置くと碌なことにならんな。」


 その声は一つの方向を決めていた。


「やるならば今か。」



「クソ!」


 エフゲニー・バラノフは自身が置かれた立場に悔しそうに顔をゆがめる。


「誰が!? なぜあのとき攻撃を行った!?」


 その答えについてバラノフはある程度予測を立てていた。


「折角ここまで来たというのに! 政府上層部がここまでテロ組織に感化されているとは!」


 会議に呼び出されたバラノフは連邦の高官が言っていた言葉を思い出す。


《いずれにしよ、非魔術師に犠牲者がいなくて良かった。》


 それが意味することは魔術師などいくら死んでも問題はないと、そういった感じだった。


 いくつものことが頭を巡り、ここまで積み上げてきたものが崩壊することにバラノフはいつも以上に恐怖を覚えていた。

 そんな彼がいる部屋に電話の電子音が響く。


『久しいな、エフゲニー・バラノフ大将。随分と好きにやっているみたいだな。』

「ジョン・アニクウェスか。いいのか? 帝国の七家門の中で一番権力を持っているお前が俺に電話などして。」

『なに、その程度のことならいかようにもなる。それよりも嵌められたか?』

「喧嘩でも売りに来たのか?」

『いたって真面目な話だ。連邦は後どれくらい持つ?』


 それはいつ連邦政府がナチュラルに乗っ取られるかという意図であった。


「一年ももたないだろうな。」

『なるほど。もしお前がその気ならば帝国への亡命の手助けをしてやるが?』

「冗談を。これくらいなんとかしてみせる。」

『だがそうだとしてもきついだろ?』


 アニクウェスの言葉にバラノフは言葉を詰まらせる。


『ならば一つ提案をしよう。帝国と連邦で軍事同盟を結ばないか?』


 相変わらず本題に入るまで回りくどい言い方をしてくると思う。


「分かった、いいだろう。」

『あぁ。帝国でも政府内にオールイコールがかなり紛れ込んでいる。皇帝もそれがどうやら悩みの種のようでな。お前がその気ならば結ばない手もないと思うが?』

「だが連邦の高官の説得はどうする?」

『それならば心配ない。やつらにもこちらの息がかかったものはいる。あいつらを誘導するくらい大した問題はない。』

「相も変わらずスパイの養成はお手のものか。」

『それくらいできなければな。』

「敵に回したくないものだ。分かった。その案に乗ろう。」


 例えそれが茨の道だとしてもバラノフにはもう他の選択肢は無かった。



「そうですか。やはりアガニコフ候が動きますか。」

『それでどうする、ベッソノワ侯? 君もアガニコフが起こすクーデターに参加するか?』

「そうですね。アガニコフ候が先導するところに不安はありますが、やるならば今しかないでしょうね。」


 しかしアガニコフが先導するのがどうにも気にかかるが、やることは決まっていた。


「参加します。」

『やっぱりそういうと思った。』

「当然です。このまま連邦にいても使い捨てられていくだけですし。」

『やはり君の兄上の件か。』

「はい。」


 ユリアの兄であるフィリップ・ベッソノワは非魔術師を助けた結果殺された。そのようなことは連邦各所にて起こっていたことだった。


「だから連邦を変えるということに全く持って異論はありません。」

『しかし戦力はあるのか?』

「はい。確かに所有している機体の数は少ないですが、頼りになるパイロットがいます。それに機体もそのうち十分なものが出来上がるでしょう。」


 それなりに彼女にとっては勝算のあるものであった。


『いや、気にしているのは部下がそれについてくるのかという話だ。』

「そうですね。そこについてはなんとも言えないところです。元々この基地にはテロなどで家族を失ったパイロットはいます。ただ彼らを束ねられるほどのカリスマ性が私にあるかと言われればそれもまた微妙なところです。」


 自分自身の能力などアスタルに言われるまでもなく分かっていた。


「ですから恐らく二回か三回程度は反乱が起こるでしょう。ただ中核戦力さえ残っていれば問題なく戦えます。」

『それほどまでに自信があるのか。』

「はい。」


 そうはっきりと答える彼女に対してアスタルはこれ以上なにも言うことは無かった。

 

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