第三十八話
『我々はオールイコール。我々はすべての者が平等に過ごせるように戦っている。偉大なる同志諸君! 人類は長い間魔術師という人種によって支配されてきた! 確かに一見彼らは我々をよくしているのかもしれない! だが思い出して欲しい! 彼らによって我々は自由を奪われ籠の中の鳥になっているということに!』
テロから一晩明けた今日、帝国、連邦両国に届けられたテープには犯行声明が届いていた。
「随分と大層な言い分だね。」
連邦のアクタール基地の食堂でイオク・リャーエフはいつもの能天気な声と違い少し低い声を出していた。
「非魔術師なんてこんなものですよ。」
「そうですね。しかもこのオールイコールって多分連合国の残党も取り込んでいますね。主張が彼らと同じですし。」
一方でルーシーとアルベルトは自分には関係の無いことだと冷めた目でテレビを見ていた。
「二人は家族が心配じゃないの? 連絡を取ろうにも上層部からの命令で家族と連絡を取るのも禁止されているのに? 安否確認すら取れないんだよ?」
「私の家族は妹以外全員ナチュラルに殺されましたから。」
「自分も家族はもういないので。」
二人の反応にイオクは黙ってしまう。
「前々からこういった行動の片鱗が見えていたから早々に潰したかったのですが、これでは……。」
「今この状況でも政府から横槍が入っているんでしたっけ?」
「そうですね。このままだとかなり不味いと思うのですが、なにも出来ない状況でもあります。」
二人はイオクを放置してそう諦めたような声を出す。
「というかルーシーは司令からなにか言われていないの?」
イオクがそう話し込んでいる二人の間に割って入る。
「それが今関係各所と連絡を取ろうにもどこも混乱しててうまくいかない状況です。一応この休憩だけは取れたのですが、それもまぁ基地内の様子を見るためですし。そういった意味では休みは無いですね。」
そのまま無言の時間が流れる。
「とりあえず当分の間はこの基地も厳戒態勢になるはずです。二人とも体調管理はしっかりとしておいてください。」
そういってルーシーは立ち上がると思い足取りで食器返却口に向かい食堂から出ていく。
「いやぁ、大変そうだねぇ。」
そう他人事のように言うイオクもすぐ後で大変な目に会うことはこのときまだ誰も知らなかった。
*
ドリスカヤ上空を一機の偵察型デュラハンが漂っていた。コックピットの中には機体の操縦を行うパイロットとカメラを使うための技術士官がいた。二人はテロによって各所で倒壊した建物の確認をしていた。
「少尉、次は五キロ東のコースをお願いします。」
「了解しました。」
技術士官の言葉にパイロットは頷くと機体を旋回させて目標のエリアまで移動をさせる。そのとき遠くに動くものが見えた。
「中尉、十時の方向望遠レンズで確認することは出来ますか?」
「分かりました。」
なにもなければいいがとパイロットは思いながらもデータを取りやすいように機体の動きを止める。
「これは、テクニカルとガントラックです!」
「ガントラック!?」
かなりの重武装に二人は驚きを隠せない。
「司令部、こちらガンマスリー。敵部隊を発見しました。敵はガントラック6両です。至急対応の許可を!」
技術士官からの呼び掛けに対して司令部が取った反応は冷酷なものであった。
『こちら司令部。交戦は許可できない。』
「なぜですか!?」
『まだ民間車両の可能性がある。』
「そんな馬鹿な!?」
パイロットは司令部とのやり取りを聞きながら機体を車両列に近づけていく。その瞬間、ガントラックからロケット砲にて攻撃を受ける。
「司令部!敵からの攻撃を受けている!」
『交戦は許可できない!』
「クソ!」
『その場の状況を確認して随時報告せよ。武装の使用は禁止する。』
それだけ言うと司令部は通信を切った。
「もう少し敵に近づきます。」
「危険だ!少尉!」
「そうかもしれませんが、なんか敵のガントラックがおかしい……。」
市街地に入った瞬間ガントラックの荷台が開く。
「まさか、クラスター爆弾……!」
パイロットはすぐさま機体を急降下させる。
「武器は! クソ! ダメか。」
司令部からのロックによって武器が使用できなかった。
「司令部! 敵がクラスターで街を攻撃しようとしている! 武器の使用許可を!」
『……。』
しかし、司令部からの許可は降りなかった。
「中尉! 機体に捕まっててください!」
パイロットは機体を更に降下させ、トラックの開いた荷台に近づく。
「ちょっとセンサー類壊れそう、ですが!」
クラスター爆弾が発射された瞬間、キャスターを一気に近付ける。
そして発射されたクラスター弾に機体をぶつけその高度を強引に落とし被害が広がらないようにした。その結果クラスター爆弾の中身はほとんどガントラックに直撃する。
『なにをやっている!? ガンマスリー!』
「敵の攻撃に被弾しているだけですよ!」
パイロットはその通信に苛立ちながらも答える。
『貴様!? すぐに基地に戻れ!ガンマスリー!』
他の武装車両も行動を停止したことを確認すると機体を反転させた。ガントラックから運転士達が住民に引きずり出され姿を横目に見ながらも帰りたくない基地に戻った。
*
『あの子は優しい子だったのに、こんな死に方をするなんて……! やっぱり魔術師は私たち普通の人間のことなんてなに一つ考えてないんです!』
支援用物資を運んでいたトラックが攻撃されたと言う題目で世論から魔術師は攻撃を受けていた。
その映像は明らかに加工されていたもので、ガントラックの色は変えられ、クラスター爆弾の元の画像も編集で消されていた。その結果できた映像は支援物資を運んでいたトラックに対してデュラハンが小型の爆弾を落としている映像であった。
当然こんな加工は、デュラハンが小型爆弾をずっと携帯していないことから少し軍事について詳しい人間であれば気づくことができる。
しかしそれに大半の非魔術師はそれに気づくことは無かった。
「こんな、無茶苦茶な……。」
アイン・バラノフはその様子をテレビで冷やかな目で見ていた。
「よく政府もこんなニュース出すのを許したものよね。」
彼の部屋にいたアズリト・アースもそう言葉を加える。
「いえ、むしろこのシナリオを描いているのは政府の方ですよ。本来であればこういう報道が出て真っ先に否定するのが仕事のはずですが、それが全くないので。」
そのとき緊急のテロップが流れる。軍法会議で該当のパイロットの処刑が発表されていた。それを見て二人は目を細める。
「これかなり不味いんじゃない?」
「いや、今の段階ではまだ分かりません。ただもしこの先のかじ取りを誤ったらそのときは……。」
アインはその先の言葉を出すことをためらう。
その時になったら連邦が終わるということを言いだすのはかなりためらわれることだった。




