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第三十四話 見舞い

「余分なことだったかな。」


 部屋から出ていったユリアを見てエミリアは椅子に再び座った。アルベルトの様子と色々聞いた噂話から推察するに今彼が苦労しているのは彼女絡みだと想像するのはエミリアには容易かった。

 

「まぁ、やってしまったことだしいいか。」


 それだけ呟くと寝ているアルベルトの顔を見る。


「寝てるときは普通なのになぁ。」


先ほどのバーサーカーのように殴り続けていたアルベルトを思い出す。あの戦い方は完全に後がないときの戦い方だった。


「本当に不思議なものよね。」


昔の、記憶を失う前のアルバートに似ていると思ってしまう。戦い方は全く違うのだが、行動原理がかなり似ていたのだ。


恐らく思考回路も単純で真っ直ぐなのだろうと思う。でなければあそこまで誰かのために戦うことなど出来ないからだ。

それはアルバートが記憶を失ってから気づいたものだった。


アルベルトの頭をそっと撫でると彼はゆっくりと目を開けた。


「起きた?」


エミリアは優しい甘い声でアルベルトに短く訊ねた。


「後もう少しだけ。」


それだけ答えるとアルベルトは再び目を閉じたが、すぐに目を開けた。


「え? なんでここに……あー。」


アルベルトは一人問答をすると納得したかのようにため息をついた。


「すみません。ここどこですか?」


そう言いながらアルベルトは体を起こすために手を使おうとするものの、動かした瞬間に激痛が走り、声にもならない声を出していた。


「両手は一週間くらい使わない方がいいわ。」

「そうですか。」


 体を起こすのを諦めたアルベルトは天井を見ていた。

 

「まぁいいか。」


そう一人ぼやいている様子にエミリアはおかしそうに笑っていた。



「用事は済んだのですか、大佐?」


 病院のエントランスにエミリアが出ると彼女の待機していたアルバートが彼女の元に近寄る。


「えぇ。それで例のテロリストたちについてはなにか情報入った?」

「はい。それについてアークウィン大将が大佐にお話をしたいとのことです。」

「そう分かったわ。」


 エミリアは病院のエントランスの前に駐車していた車に乗り込む。


「これは当分の間基地に帰れないかもしれないわね。」

「つまり敵の情報を集めるためにここに留まることになるということですか?」

「そうね。私を呼び出すということは多分その辺の調査だと思うわ。」

「そうですか。」

「また面倒なことを。」

「その割には少し嬉しそうですね。」

「そんなことは無いわよ。」


 そう答えるエミリアにアルバートは不満そうな顔をする。


「シュタイナー少尉が昔の自分に似ているからですか?」


 アルバートは急に本題を切り出した。


「否定する気は無いけど。誰からそんなこと聞いたの?」

「自分の勘です。」

「エチュード少佐ね。それを言ったの。」


それに黙ってしまうあたり嘘がまだ下手だなとエミリアは思う。


「まぁ確かに似ているっていったら似ているわね。本当に。」


アルバートは彼女の言葉に下を向く。


「別にだからといってなにか問題があるわけでもないでしょ。」

「ですが、自分は彼のことがあまり好きではありません。」

「そうはっきりと言われると困るわね。」


 エミリアは本当に困ったように言う。


「けど、だからといって礼を失しては駄目よ。例え相手がどれだけ嫌いであったとしても。」


 バラノフ家と言い合っていたエミリアを思い出すと、アルバートはどの口が言っているんだろうと思う。

 そんな彼の思惑を分かっていながらも、エミリアは次にどういったちょっかいをアルベルトにかけようかと思慮を巡らせていた。



「はい。」


 エミリアに目の前に突き出されたフォークにアルベルトは困惑を隠しきれなかった。

 見舞いにエミリアが来たタイミングで病院食が出てきた。本来であればイオクに食べさせてもらう予定だったが、彼女が代わりにやると言って今の状況に追いこまれてしまった。

 傍にいるイオクに助けを求めるように視線を向けるも無視される。


「あの、別に両手が使いにくいだけでスプーンとかは持てるのですが。」

「本当に持てると思ってる?」


 エミリアの言葉にアルベルトは試しに近くにある鉛筆を持とうと手を開く。その瞬間、包帯によって延長された手の先に当たって鉛筆は机の上をコロコロと転がっていった。


「……。」


 アルベルトは気まずそうに目を逸らし黙ってしまう。


「だから言ったのに。」


 エミリアの一言が重く響く。


「ほら。」


 そうして出されたフォークに対して躊躇いが残る。


「ほら、早く。」


 アルベルトは諦めたようにフォークに食いつく。やっぱり食べにくいなと思いながらも感慨無く咀嚼する。

 エミリアはその様子に嬉しそうに笑うとそのままいくつか彼に食べさせていく。その様子はもう完全に子どもにご飯を食べさせている母親の構図だった。

 アルベルトは既に辛そうな段階を超えて悟りに入っているのがイオクの目から見ても明らかだった。


「これで終わりね。」

「ありがとうございます。」


 彼の声は既に普通に戻っていた。


「口元汚れてる。」


 エミリアはそういうとハンカチを取り出す。流石にアルベルトもこれ以上はキツかったのか逃げようとするが、不機嫌そうな顔をしたエミリアにはなす術が無かった。


「はい。これで終わり。」

「ありがとう……ございます……。」


 アルベルトはそう捻り出すように言う。エミリアは満足したのかアルベルトの頭を優しく撫でる。

 そのとき部屋にノックが響く。


「アークウィン大佐、アークウィン大将がお呼びです。」


 アルバート・デグレアは病室に入るとエミリアにそう告げる。


「分かったわ。」


 彼のその一言でエミリアはいつも通りの声音で立ち上がった。


「じゃあまたね。シュタイナー少尉。お大事に。」


 エミリアはそれだけ言うと病室から出ていく。

 その様にアルベルトは少しだけ呆気に取られていた。

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